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勇者祭4 米衆連合国編  作者: 牧野三河


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第127話


 宴もたけなわ。


 クレールもドレスを着替え、テーブルで食事を楽しんでいたが、マサヒデとアルマダは別の場所で兵達に囲まれていた。


 2寸程の厚さの、沈みはしないが固すぎないマットが敷かれていて、そこで木刀を右手で立てて持ったマサヒデが、兵達3人に右腕を掴まれている。


「見てて下さいよ。こうしますと」


「おわわわあ!」「あらあーっ!」「のん、のんでえ!?」


 マサヒデの腕を掴んだ兵3人が膝を付いて崩れ落ち、マサヒデの木刀は自然に正面の兵の肩口に落ちている。


「「「おおーっ!」」」


 ぱちぱちぱち! と拍手が上がる。


「これ手品じゃないですよ」


「あっ! これが合気ですか!」


 ん? とマサヒデが首を傾げる。


「合気・・・なのかな? 近いものはあるかも。少なくとも、合気道としては学んでいないです。これは、武器の使い方の基本。皆さんの、その腰のサーベルでも出来る事です。ほら、私、片手で持ってますからね。どなたか、もう一度掴んで下さい」


 がしっとマサヒデの腕が掴まれる。

 マサヒデがふらふらと切先を揺らすと、腕を掴んだ兵がふらふらと動く。

 揺れる兵を指差し、


「皆さん、見ました? 剣が動くと、この人、動いてますよね。分かります? もう一回」


 ふらふらと切先を動かす。

 ふらふらと兵が動く。


「おお! 確かに!」


「で、このまま下ろしちゃうと」


 ぱったん、と兵が膝を付き、肩の上に木刀が乗る。


「おおー・・・」


 ぱちぱちぱち・・・


「ほら、全員また掴んで下さい」


 がしがしがし、と3人に腕を掴まれる。


「もう3人に掴まっちゃってるので、力なんて抜いても良いんですよ。動かそうとしたって、絶対無理ですから。でも、切先を軽く動かすだけで」


 くるう、くるう、とゆっくり切先を回すと、3人がゆっくりと揺れる。


「ほらほら、動いてる、動いてる。で、下ろしていくと・・・」


「おうおうおう!」「わわわ」「お、お、お」


 今度は横から掴んでいた2人はころんと後ろに倒れ、背を丸めて受け身。

 正面の兵は手をついて、四つん這いになってしまった。

 背中の上に木刀。


「ほら、ばっさりです」


「すげえー!」


「これはですね、さっき、武器の使い方と言いましたけど、自分の身体が武器に使われるというか。ちょっと違うかな。武器と一体化すると言うか・・・」


 言いながら、あっ! とマサヒデが気付いた。

 これは無願想流の使い方に通じる事ではないか!

 ほとんど同じではないか・・・

 刀が振られる方に自然についていく・・・


(そうか! 俺はとっくに知っていたのか!)


 は! として、咳払いして、


「ええ、おほん。こう、武器についていくだけなんですよ。分かりますかね。武器が動けば相手も動くから、武器に沿って動いて行けば良いんですよね。ここで、武器を使おうとするんじゃなく」


 マサヒデがにこりと笑って、


「一緒に、仲良く!」


「ははは! 仲良く!」


「そうそう! お手々繋いで仲良く一緒に! 誰かと手を繋いでる時、ぶんぶん振り回したら、相手は嫌がりますよね。それと同じです。武器と一緒に動いていれば、自然とその武器にふさわしい動きが出来てくる。かと言って、振り回されても駄目。それじゃあ自分が嫌ですから、仲良くないんですよ。どっちが駄目でも動きが崩れる。両方仲良くしてれば、それだけで凄い強さになります」


「おおー・・・」


 感嘆の声と、ばらばらと拍手が上がった。


「これが、トミヤス流の武器術の基本。刀でも、剣でも、棒でも、槍でも、皆さんが使うナイフでも、その辺の棒切れでも、何でもです。後は、自分の得物はどんな事が得意なのかな、どんな動き方が出来るのかなって、どこまで分かっているかどうか。自分はどこまで仲良くついていく事が出来るのか。ここが強さの差です。つまり、仲良しさん程、強いんですね」


 カオルとイザベルは隅に正座して座って、瞬きもせずにそれを見つめていた。



----------



「ハワード様! 拳であのサタロウをKO出来たのは!」


「ああ。あれはトミヤス流で言う『酔っ払いの拳』を使ったのです」


「酔っ払い?」


 こちらでは体術の講義中である。

 闘技場で全身甲冑のような体をもつ虫人族を、パンチ1発でKOした時の話題。


「練習する時、酔っぱらいのようになりますから、そう呼ぶのですね。そこの方、ちょっとこちらへ」


 アルマダが呼んだ兵が前に出てくる。

 まさか打たれるのでは・・・


「殴りはしません。シズクさん、こちらに」


「はいはいっ」


 体術という事で、シズクも一緒に来ている。

 雷山と張り手をしあった時、自分と同じような相手には苦戦すると身に沁みた。

 あれが張り手勝負でなかったら、シズクは負けていたと自覚している。


「シズクさんにフックを。脇腹に下からえぐりこむように鋭く。大丈夫です。シズクさんは鬼族ですから」


「では、いきます!」


「よし来い!」


「ふん!」


 見事に上半身が回り、縦拳が綺麗に横下からえぐり込むようにレバーに!

 ごす。


「・・・」


 シズクは何ともない顔。

 打ち込んだ兵は拳を突き込んだまま、固まってしまっている。


「どうです、シズクさん」


「良いんじゃないの?」


「く、くっそお・・・」


 兵はがっくりと肩を落とし、周りからは、ははは、と笑い声が上がる。

 アルマダもにこにこしながら、


「では、私も打ちますよ。フックですよ。よーいしょ」


 どすん。

 おおっ? と兵達が驚いた。鈍く低い音。これは効く!

 入ってしまったら、間違いなくKO。これがあの突きか!


「おおっ・・・ハワード様、凄い! 中に入ってきたよ!」


 それでも、シズクは全く平然とした顔をしているが。

 アルマダは肩を落とした兵の隣に立ち、


「さて、皆さん。この方のフックと私のフックの違いは何でしょう」


「はい」


 兵が手を挙げた。


「どうぞ」


「右手を右足が一緒に出ていました」


 ぱん! とアルマダが手を叩く。


「良い所です! 正解に近付いています。では、何故そんな動きになったか」


 ひゅ! ひゅ! とアルマダがフックを振る。


「これが普通のフック。勿論、今の私のように、同じ足を踏み込みつつ打つというのもありますが。遠間から、下に潜り込むように打つ時ですね。ガゼルパンチのような感じです」


 うんうん、と皆が頷く。


「さて。では、私の酔っ払いの拳はどうか。ゆっくり振りますよ」


 アルマダの拳が、ぶうん、と振られ、よったん、と身体が回り、シズクに背を向けてしまった。


「極端に振るとこんな感じです。これで、酔っ払いの拳と呼ばれます。何故こんな動きで強いパンチになるのでしょう。分かる方は?」


「はい」


「どうぞ」


「拳に振られてしまったので、体重が全部拳に乗ってしまうから、でしょうか」


 ぱん! とアルマダが手を叩く。


「良いですよ! 更に正解に近付きました! ですが、それだけでは不足です。他に何か気付いた方は」


 ざわざわと兵達が顔を見合わせ、こうか、こうか、とゆっくり拳を振りながら、眉を寄せて話し出す。

 しばらくして、アルマダが、ぱん! ぱん! と手を叩いた。


「はい、そこまで」


 ざわついていた皆が、静まった。


「皆さん、分からないようですね。これは、回転の軸を何処に置いたかの違い」


 アルマダがファイテングポーズを取って、フックを振る。


「この時、回転の軸はここ」


 アルマダが頭の上に指を突き立てる。


「通常、身体を中心に振ります。が、私のフックはここを中心に回りました」


 アルマダの指は、前に出た腕の、肘の内側辺り。


「当然、こんな所を軸にして回れば、身体が持っていかれます。ですので、酔っ払いのようにふらついたわけです。代わりに、拳には体重がかなり乗りました。まずこれがひとつ。ただ、これだけでは、もし空振りしたり、相手が耐えてしまったら、私は隙だらけで、反撃されたら終わりです」


 まずひとつ。

 他にもあるのだ。

 兵達が真剣な顔で頷く。

 シズクも同じように、真剣な顔で頷く。


「では、ふらつかないようにする。どうしたら良いのか。腰から上をかっちりと固定しまいます」


 両の股関節から胸の下まで、すーと手を滑らせ、


「ここを固める。腸腰筋です。腹筋ではないですよ。腸腰筋。インナーマッスル。そうすると・・・」


 ふん!

 アルマダの拳が鋭くなる。


「これでかなり綺麗に。動きも鋭くなり、隙も少なくなりました」


「おお・・・」


「ですが、まだ足りない。これだけでは、ただ体重を乗せたパンチになるだけ。まだ先がありますが、今日はここまで。この腸腰筋でしっかり腰から上まで固めて打つ、というだけでも、中々難しいですが、これで連続して打てれば十分でしょう。コンパクトで、拳から出て行くから、相手は出てくると分かりづらい。その上、体重まで乗った重いパンチ。皆さんは武術家ではないですから、そんなに求める必要はないでしょう。当たった隙に目でも喉でも金的でも、好きに狙えますよ」


 シズクが自分を指差し、


「私も?」


「シズクさんはもう使えますよ」


「ええっ!」


「雷山を倒した最後の一振り。あれがほぼ完成形です」


「うっそ!?」


「本当です。思い出して振ってみなさい。さあ、皆さんも少し練習してみましょう。まずは酔っ払いから。それで、回転の軸を何処に置くか。いや、何処にでもおけるぞ、という感覚を掴んで下さい。後は腸腰筋で腰から上を固めて振ってみる。これだけです。当たれば、犬族、猫族くらいなら、同じくらいの体重ならKO出来ますよ」


「「「はい!」」」


 兵達が、のったり、のったりと拳を振る。

 おっと、おっと、とふらつく。



----------



 離れたテーブルで、ベミッツ中将やクレール達が、それを見て笑っていた。


「ははは! 皆、もう酔っ払ったか!」


「ふふふ。レイシクラン様、あれは何の練習で?」


「うふふ。分かりません! でも、きっとトミヤス流の何かですね。面白い稽古ですこと」


「クレンナ中尉、後から皆の話を聞いておけよ」


「はい。承知致しました、中将」


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