表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者祭4 米衆連合国編  作者: 牧野三河


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

126/132

第126話


 ベミッツ中将が持っていた刀は、よく出来た贋作であった。


 だが、出来はかなり良い、という事が分かり、ベミッツ中将はそう不満そうな顔でもなく、最初は贋作と聞いて渋面を作ってはいたが、笑顔に戻っている。


 一区切りした所で、クレールがマサヒデにちらりと目で合図を送る。


(なんだろう?)


 何かするのか?

 頷きはしたが、少し不安。


「ベミッツ中将」


「何かな」


「実は・・・うふふ」


 クレールがくすくすと笑って、ちらちらマサヒデを見る。


「実はー・・・マサヒデ様の刀も、贋作なんです!」


「!」


 見せるつもりだ!

 ぎくっとしたが、そうか、とすぐに落ち着いた。

 贋作として見せるなら問題はない。


「クレールさん!?」


「うふふ! 良いではありませんか! 贋作の逸品! ご自慢の贋作、中将に見ていただいては」


「ああ、もう! いや、お見せするのは全く構いませんけど」


 マサヒデは右手に雲切丸を取って、拗ねたような顔を作り少し首を傾げた。


(俺もこういう立ち回り、上手くなってきたのかな?)


 そういう自分は嫌だな、と思いつつ、立ち上がって、雲切丸を右手に持ったままテーブルを回る。

 くす、とアルマダが笑った。アルマダは、あれは本物だと知っているのだ。


「おおっ」


 中将がその拵えを見て声を上げる。

 やはり勉強はしているようだ。

 勉強してなくても分かるか。


「トミヤス殿・・・いや、近くで見ると凄いな・・・」


「私はこんな派手な拵えは嫌なんですが」


 ランプの光で、ぎらぎら光る青貝微塵塗の鞘。金具は鍍金。光る光る。


「見せてもらっても」


「どうぞどうぞ」


 ひょいとマサヒデが差し出すと、ベミッツ中将が両手で受け取って、軍人3人組がじろじろと見る。


「これは、儀礼に腰に帯びるものでは」


「違います。普段から」


「よくもまあ・・・」


 言いたい事は分かる。マサヒデ自身もそう思っているのだから。

 マサヒデは苦笑して、


「私もそう思っていますが、新しく拵えを作るには時間も掛かりますし。見つけた時、そのまま。まあ恥ずかしくて」


「ううむ! これは青貝、だな?」


「そうです」


「本物を見るのは初めてだ! 凄いな! この拵えだけで1000金は越える! 一体どこで!」


「勇者祭の相手の持ち物でした。出所は分かりませんし、その者の身分なんかもさっぱりでした」


「ふうむ」


 かく、と小さく音を立てて抜き、また仰天。


「うおう! なんだこの輝きは! 贋作!?」

「おおっ!」

「・・・」


 窓開け(刀の一部だけ研ぐこと)された鍔元2寸を見て、軍人3人がまた驚く。


「す、凄いな! いや、私のカタナとは違いが過ぎる・・・参った」


 くすくすとクレール、アルマダ、イザベルが笑う。


「私達も見た時は腰を抜かしましたよ。ねえ、クレール様」


「ですよね! イザベル様も驚きましたよね!」


「はい。もう少しであれが私の腹に刺さっておったと思うと、今でも冷や汗が」


 む、とベミッツ中将がイザベルを見る。


「そうか! 確かファッテンベルク様は、最初はトミヤス殿に」


「はい。立ち会いを所望したのですが。ふふ」


 イザベルが自嘲して、


「一太刀で終わりました。今でも己を恥じるばかり。剣と剣が合わさったと見えたらば、私の剣はマサヒデ様を外れ、マサヒデ様の刀は私の腹の前」


「その立ち会いが終わった後でしたね。イザベルさんが私の手を砕いたの」


 かあっとイザベルが顔を赤く染め、


「マサヒデ様、おやめ下さい!」


「蒸し風呂とか」


「ご勘弁下さい!」


 ははは、とベミッツ中将が笑って、


「ほう! 鬼教官のファッテンベルク様にも、恥ずかしい所がありましたか!」


「く・・・」


 イザベルが顔を隠すように、ナプキンを額に当てる。

 あの下はどんな顔をしているのやら。


「うむ、その話は是非聞いてみたい。さて、拝見致しますぞ」


 すう、とベミッツ中将が雲切丸を抜いていく。


「おや」


 綺麗なのは根本だけで、全体が曇っている。

 あれれ? と見ている軍人3人。

 クレールが笑って、


「惜しいですよね! でも、マサヒデ様はそれ以上研がないんです」


「トミヤス殿、何故研がないのだ?」


「寝刃研ぎです」


 あっ、とベミッツ中将が顔を変えた。


「そうか! そうであった。トミヤス殿は勇者祭の参加者であったな。いや、愚問であった」


 流石に勉強しているだけはある。

 エイデン大佐が怪訝な顔で、


「中将、寝刃研ぎとは」


「うむ、斬れ味を長持ちさせる研ぎ方だな。あまり綺麗に研ぐと、少し斬るだけで斬れ味が落ちると聞く。あまり美しく研ぎすぎない方が良いらしい」


「あ、ううむ・・・なるほど・・・」


 マサヒデが頷いて、


「もう、何人か斬りました。勇者祭の相手だけでなく、色々な理由で襲ってきた者とか」


「そうか・・・」


「美しいですが、やはり武器なんですね」


「うむ」


「今でも斬りたくはないです。以前は頭を抱えていました。でも、それは覚悟が出来たつもりで出来ていなかった証です。その刀は、それを私に教えてくれた刀です。私は武術家ですから、襲われれば斬らなければ。身を守る為、誰かを守る為には、斬らなければならない事もあるのだぞ、と。自慢ですが、良い刀ですよ」


「贋作でもか」


「はい。良い刀です。惚れ込んでます。最高の贋作です」


「うむ」


 ふう、とマサヒデが息をつく。

 クレールが後を引き取り、


「許されても良い贋作というのは、たくさんあると思います。誰々の絵だ! 良い物を見たな! 感動した! そうして美術館を出た人。後でその絵が贋作だと分かったとします」


「うむ」


「贋作と分かってがっかりした方、その目は絵を見ていたのですか? ふふふ。そういう事です。その人が感動したのは、絵なのですか? 名前なのですか? 素晴らしい絵は素晴らしいのです。世の人のほとんどは、名前の看板、付加価値しか見ておられません。贋作と分かってがっかりした方は、絵を見てはおられません証拠です」


「手厳しい。だが、仰られる通りです」


「中将のお刀も、マサヒデ様のお刀も、許される贋作。でも、贋作として銘が切ってあると、どんなに優れた刀でも、図鑑に載ることはございません。そのマサヒデ様のお刀もそう・・・」


 クレールが立ち上がり、中将が持つ雲切丸に、すっとナプキンを落とす。


「何っ!?」

「馬鹿な!」

「なんと!?」


 真っ二つに斬れたナプキンが、ひらひらと落ちていく。


「これ程の出来の刀でも、偽の銘が切られていると、贋作だと一蹴されてしまい、図鑑に載る事はないのです。もはや刀の世界では、頂点に近い物でしょうに」


 クレールがしゃがんで、斬れたナプキンを拾い、


「中将。偽の銘でも、本物はございます。鑑定は決してつきませんけれど」


 そして、目の前に斬れたナプキンを左右に垂らす。


「本物か、偽物か。その点は、ただ値段にのみ影響するだけ。そこに目を取られて、こうなりますと、本当に良い物を見落としてしまいます」


 ひらりとナプキンを目の前からどけて、


「こうして目を開けば、贋作にも良い物が・・・うふふ。贋作と知り、がっかりしてしまうだけか。贋作と分かっていても、その刀の真の価値を分かっていて、満足するか。もしかして、あなたの贋作、本物を越える贋作だったりして! なんて刀が、稀にあるのです」


「ううむ、参りました。トミヤス殿! 眼福であった!」


 ベミッツ中将が頭を下げ、マサヒデに雲切丸を返した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ