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勇者祭4 米衆連合国編  作者: 牧野三河


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125/132

第125話


 そして、訓練はどうだった、訓練の目的はどうだった、という話から、闘技場での話と、特に差し障りのない話で、滞りなく、皆、笑顔で話を進められたのだが・・・


「ところで、レイシクラン様」


 ベミッツ中将が、クレールに声を掛けた。


 あ、きた! と誰もが思った。

 顔には出さなかったが、何か言ってくる。これが目的のはずだ。

 マサヒデも一瞬だけ箸が止まったが、笑顔を絶やさぬまま、そのまま食べ続ける。


「レイシクラン様には、とあるご趣味があるとか」


 クレールがにっこり笑って、


「趣味はたくさんございますけれど」


「私と同じ趣味が」


「まあ! ベミッツ中将と同じだなんて。何でございましょう」


「少々お待ち頂けますかな」


 ベミッツ中将が兵に持って来い、と指でくいくいと合図すると、兵が走って行き、壇の後ろから桐箱を抱えて戻って来た。


 おや、とマサヒデが驚いた。クレールも驚いた。アルマダも、イザベルも驚いた。

 まさか刀が出てくるとは。


「私も一端のカタナ数寄者と・・・まあ、自分では思っておりますが、中々この国ではまともな物がなく、若い頃は痛い目を見ました。ま、今でもですが」


 兵が桐箱を開け、ベミッツ中将が中の白鞘を取る。

 おっとこれは・・・

 良く茶色になった白鞘。それなりの年代物と見える。


「まあ! 私も刀は勉強しております。研師の先生から、色々と見せて頂きましたの。もう1日中見ていても過ごせるくらいになってしまって」


 ぱん! とベミッツ中将が手を叩く。


「いや、全く! 私もなのです。休みは1日カタナばかり見ておるもので、妻にはよく叱られますが」


「楽しみです。中将、そちらは何でしょう? 見せて下さいますか? 嗚呼、私、楽しみです!」


 これは半分以上本気で、演技ではなかろう。

 ちらっと隣のテーブルを見ると、ラディが首を回してこちらを睨んでいる。


「実は、私では真贋の判断が付きかねましてな。そこで、レイシクラン様にも見て頂きたいと思って、持って参りました。レイシクラン様であれば、私よりも目があると思ったのです」


 クレールが立ち上がって、ベミッツ中将の横にかつかつ踵を鳴らして歩いて行くと、ベミッツ中将はきちんと作法通りに、左手に柄を向け、自分に刃を向けて差し出した。


(ほう?)


 ちゃんと作法は分かっているようだ。

 クレールも両手で受け取って、軽く頭を下げたが、そのまま抜くのを躊躇った。


「ベミッツ中将、宜しいのですか。ここは港で、潮風も、湿気もございますけど」


「構いません。また後で手入れをするのも楽しいので」


「では、拝見させて頂きます」


 くっと鯉口を切って、刃を上に抜いていく。


「む・・・」「おや・・・」


 マサヒデとアルマダが小さく声を上げる。

 中々に良くは見える。あの形。誰かが打った写しか?

 真贋の判断が、と言ったが・・・むくむくと2人の胸に不安が広がる。


 兵がランプを持ってクレールの横に立つ。


「んー・・・マサヒデ様」


「はい」


「ちょっとこちらへ。ベミッツ中将、宜しいですか?」


「勿論」


 マサヒデがクレールの隣に立つと、ゆっくりと鞘に納め、マサヒデに渡す。


「それでは、拝見致します」


 一礼して、くっと抜いていき・・・


「ん」


 マサヒデが手を止め、眉を寄せた。

 抜きかけのまま、ベミッツ中将に顔を向ける。


「中将」


「何かね」


「鞘を修理した方が。いや、作り直した方が良いですか。中で擦れますね。これ、瑕の元ですから、慎重に。まあ、古い鞘に見えますから、多少はおかしな所が出ても仕方ないです。ですけど、大事なのは中身の刀ですから」


「む、そうか。いや、確かにそうだな。大事なのは中身だ」


 この時点で不安が的中したと見えた。

 マサヒデとクレールが顔を見合わせる。


「これは、誰の作と」


「マヨキロ」


「贋作です」「贋作ですね」


 マサヒデとクレールの即答。


「抜かずに分かるかね」


「はい」


「何故」


「持っている人は知れていますからね。ちゃんと刀の図鑑っていうのがあって、そこに持ち主は載ってます。市場に出たなら、すぐ分かります」


「掘り出し物と聞いたが。ちゃんと銘もある」


「マヨキロの掘り出し物が見つかったら、美術界の大事件です。読売に大きく出てしまうくらいです。これはいくらで?」


「金貨300枚だが」


 マサヒデが首を振る。


「本物のマヨキロなら脇差で軽く500枚以上です。大刀なら1000枚でもおかしくないです。日輪国でその値段。米衆では刀は高いみたいですし、更に今まで見つかっていなかったとなったら、恐ろしい額になるはずです」


「むう・・・ううむ」


 ベミッツ中将が渋い顔で目を瞑る。

 マサヒデは擦れないように気を付けて抜いていく。

 刃紋もマヨキロ独特の遊び心が見えない。独特の涼やかさが見えない。

 大切先で形は似せてあるが、近くで見れば切先の形がずんぐりしていて、すんなりしておらず、横手に入っていく曲線も美しくない。腕はマヨキロには劣ると見える。


 だが・・・悪くない。


「ですが・・・どうだろう」


 差表、差裏と見て、兵が持つランプに近付け、目を細めて見る。


「ベミッツ中将、これ、出来は悪くないですよ。確かに美しさだけ見ればマヨキロには及びませんが、これは間違いなく良い腕の職人が打った物です。斬れますよ、これは・・・うん、騙されてもおかしくない出来です」


 柄を握り、上から下、右から左と動かす。

 悪くない。


「重さの均整が非常に良い。重心は先に寄ってますね。扱いは難しい刀ですが、入れば簡単に人を両断出来ます」


 ベミッツが渋い顔でマサヒデを見る。

 お世辞でも言われていると感じているのだろう。


「それほどかね」


「それほどです。お世辞とかではないですよ」


 マサヒデがランプを持つ兵の腰に目をやる。

 儀礼服に、サーベル。


「証明しましょう。クレールさん、ちょっと離れて」


「はい」


 クレールが下がったのを見て、兵の顔を見て、にやりと笑う。


「ベミッツ中将。この刀は、この人のサーベルを斬って落とせる刀です」


「ふ、まさか」


「こちらの兵隊さんに、後で新しいサーベルをあげて下さるなら、ここで証明しましょう」


「良かろう。君、そのサーベルを抜いて」


 良いのか、と兵は一瞬迷ったが、ぱちんと留め具を外し、サーベルを抜いた。

 マサヒデは片手で贋作を持ち、片手で兵の手を取って、サーベルを指差し、


「まあ、座興と思って見ていて下さい。ご存知の通り、刃物は刃が一番固いわけで」


 兵の顔を見て、にやりと笑って頷く。


「刃を上にして、そのまま落ちないように持っていて下さい」


「は・・・」


 兵の顔は不安がありありと浮かんで見える。

 マサヒデは、こん、こん、と贋作の刃とサーベルの刃を軽く当て、


「当然、適当な刀だと刃が欠けてしまいます。がっつり曲がってしまうかも。しかし、この刀でなら十分いけます」


 一歩下がって、贋作を握る。

 白鞘の柄なので、柄が割れないか不安だが、1回だけならいけるだろう。

 この出来なら、金切りの法を使えば十分に斬れる。

 鞘も作り直してくれるだろうから、問題ない。


 ふっ。

 ぴきん! と音がして、かきーん! きん、きん、と折れたサーベルの刃が跳ねた。


 ぎょ! と軍人3人が目を見張る。

 サーベルを持った兵も、驚いた顔で斬られたサーベルを見つめる。


 マサヒデは斬った所を軽く確かめ、小さく頷いて、ゆっくりとベミッツ中将の前に贋作を持っていった。


「どうぞ、お確かめを」


「・・・」


 マサヒデが斬った所を指差し、


「ここで斬りました。見て下さい。欠けていません。曲がっていません。捲れすらもない。これは贋作ではありますが、とても良い刀です」


 目を丸くして贋作を見る軍人3人に、クレールがにっこり笑って頷いた。


「中将は美術品として刀を見る目は今ひとつでしたが、武器を見る目は間違いなく一級という事が証明されました。つまり、本物の軍人の目で刀を見ていた、と言う事ですね」


「クレールさん、良いことを言いますね。その通りです。中将、この刀は如何ですか。サーベルを両断して瑕ひとつない一品。金貨300枚です」


「金貨300枚は安い買い物であったか」


 マサヒデが頷いて、鞘を取って納め、


「眼福でした」


 と差し出すと、ベミッツ中将は神妙な顔で頷き、受け取った。


「まだまだ、勉強不足であったかな」


「美術品の勉強は、ですが。既に本物を見抜く目をお持ちです」


 マサヒデが席に戻ると、アルマダが小さく笑って、ナプキンで口を拭くようにして、さり気なく口を隠して囁いた。


(金切り)

(座興です)

(上手いですよ)


 マサヒデも薄く笑みを浮かべて、箸を取った。


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