第123話
たっぷり半刻かけて、女性陣の着替えが終わった。
尚、主にクレールの時間である。
カオルやクレール配下の忍に手伝ってもらって、この時間である。
「行くぞーお、トモヤーあ」
気のないマサヒデの声。
「うーい」
これまた気のないトモヤの返事。
クレールに待たされたせいで、うんざりしているのだ。
着替え終わった後も、夜会服はあれこれ、合わせるアクセサリーはこれにはこれで、などと中々決まらない。持って来る服などは絞ったはずだったのに。
流石にアルマダもうんざりと呆れ顔。
マサヒデと馬を並べ、溜め息をつく。
「ああ、やっとですか。早くしないと夕方ですよ。会場につく頃には、もうイブニングドレスではありませんか?」
「あれ? いつもなら女性のなんたらとか言って、笑ってる所じゃないんですか」
「違いますよ。こう遅くなるなら、最初からイブニングドレスだけに悩んでれば良かったのです。アフタヌーンドレスに悩んでる意味が皆無です」
「楽しいんじゃないんですか? ああいうの・・・私にはさっぱり分からない世界ですけど」
「足を早めましょう。早くしないと、クレール様のドレスの時間が無くなります」
アルマダがトモヤに手で合図して、馬の速度を上げる。
マサヒデも何となく後ろの馬車を見て、
「あっ」
と小さく声を上げた。
「どうしました」
「馬車・・・ああいや、なんでもないです」
あんな荷馬車で良いのか、と思ったが、良くなくてもこれで行くしかない。本来、クレールの馬車は、目が眩むような派手派手しい馬車なのだ。
だが、ここは旅の道中で、馬車はこれしかない。
クレールの馬車は客船の中にあるが、わざわざ港に行って、馬車を変えて入り直してくるなんて馬鹿らしい・・・
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町がもうすぐ、という所まで近付いた時。
ぱあん!
音が響いて、マサヒデもアルマダも、ぎくっとして柄に手を掛けた。
続いて、ぱらぱらぱら・・・と空から音。
「あ、花火か・・・花火でしたよ、アルマダさん」
「いや、鉄砲が身近だったと言うか・・・でしたから、驚きますね」
ふう、と息をついて、くっと切られた鯉口を納める。
「わざわざ花火ですか」
「余程に歓迎されてるんですね。マサヒデさん、覚悟しなさい」
「出来てますよ」
ぱあん! ぱあん!
と続けて花火が上がり、町の入口に居た騎兵4人がこちらへ歩いて来た。
マサヒデとアルマダが手を振ると、向こうも手を振り返してくる。
手前でマサヒデがトモヤに「止めろ」と手で合図して、馬車が止まると、マサヒデ達も止まった。
にこにこしながら、紺色の派手なスーツのような服を着た騎兵が歩いて来る。
肩にはきらきら光る飾りが付いていて、胸ポケットからも金色の紐のような飾り。
その胸には、何か勲章のような物が付いている。
「トミヤス様、ハワード様ですね」
「はい」
「セント=エントーニョイ陸軍基地、オウ=コナー海軍、皆様の出立への祝いの席を用意してございます。こちらで勝手に用意してしまったのですが」
ふふ、と騎兵が笑って、
「既に正装にお着替えの所を見ると、バレておりましたか」
アルマダがくすっと笑って、
「まさか。町の真ん前で人が並んでます、皆が儀礼服ぽいのを着てます、と見えましたからね。私達を歓迎しているとは分かりませんでしたが、これは何かイベントでもしているのか、お偉方が視察にでも来ているのかと、一応着替えてきたのです」
「お偉方は来ておりますよ。イーモア=ベミッツ中将」
(イーモア=ベミッツ!?)
イザベルが驚き、引いてしまった。
米衆連合国海兵隊の中将ではないか!
いくらなんでも、海兵隊の中将がわざわざお見送りの祭に来るわけがない。
これはイザベルの訓練云々ではなく、クレール、イザベル、アルマダ目当てだ。
「中将ですか」
マサヒデにはぴんとこないが、何となく偉い人というのは分かる。
日輪国の首都、ウキョウに居た時に、一番上が大将だったから、2番目。
だから凄い人に違いない。であって欲しい。
あの逮捕されたハカヤマ陸軍大将は、問題ありの人物だったからだ。
「いやはや、まさかベミッツ中将まで来られるとは。流石はトミヤス様、ファッテンベルク様ですな」
マサヒデが手を振って、
「いや、私ではなく、クレールさんとイザベルさんとアルマダさんでしょう? 私なんか眼中にないんじゃないですか?」
「ははは! ご本人様を前に言うのもなんですが、正直な所、私も目的はそうではと考えております。軍人も上になりますと、どうしても政に飲み込まれますもので」
「ですよね」
騎兵が頷いて、馬首を回し、馬を歩かせ始めた。
マサヒデ達も合わせて馬を進める。
「しかし、個人的にはトミヤス様のご興味もあるのかもしれません。レイシクラン様達との顔合わせは、あくまで仕事の目的で。仕事の時間が終われば、トミヤス様の所にサインでも求めに来るやも」
「ははは! まさか!」
「分かりませんぞ。先にお教えしておきますが、肩に」
騎兵が肩の飾りを指差し、
「ここに星が付いていたら、お偉方です。星3つの方が中将です」
「他にも星が付いている方がおられるのですか?」
「今の所はおりませんな。明日には増えているかもしれませんが。さて、私は前に出ます。喋って歩いておったとバレると、罰をくらいますので」
かぽん、かぽん、と騎兵が前に出ていき、他の3人と並んで背筋を伸ばす。
ぱん! ぱん! と続けて花火が上がり、町の門に垂れ幕がばらっと垂れた。
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町の入口に並んでいた、白い服の軍人達が、街道脇に並んでいく。
マサヒデ達の馬が近付いていくと、順番に敬礼の姿勢を取っていく。
(やあ、王宮に行った時を思い出すな)
近衛の兵達がずらりと並んで敬礼を取っていたものだ。
まだ、ここは城でないからましか・・・
町の門を見上げれば『歓迎 トミヤス様御一行様』『歓迎 ハワード様御一行様』と、左右に垂れ幕。
門を潜ると、通りをずらりと兵が並んでいる。
その後ろでは、恐らく市民であろう者達が手を振っている。非番の兵もいるだろう。
そして、通りの向こうには、大きな軍艦。
「おおっ!? アルマダさん!」
マサヒデが軍艦を指差し、仰天した顔でアルマダを見ると、アルマダはにこにこと左右の人々に笑顔を振りまき、手を振っている。
「後にして下さい」
「でかい船が!」
「後にして下さい」
「城みたいですよ!」
「恥ずかしくないですか」
は! と周りを見ると、マサヒデを指差して笑っている者と目が合った。
並んでいる兵も顔を引き締めてはいるが、目に笑いが見える。
「ん! おほーん!」
歓声の中、誰に聞こえるでもないが、わざとらしく大きく咳払いして、身を正す。
(しまったなあ!)
これは読売に書かれてしまうだろうか・・・
何とか笑顔を作って、赤い顔でマサヒデが手を振る。
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通りはそのまま真っ直ぐ港につながっていて、すぐに港についてしまった。
港から通りを振り返って分かったのだが、この町は通りの左右に横長になっている。海に面して横に広がっているのだ。
港もそんなに大きくは、と思ったが、これが思いの外に広い。
同じように横に広いし、埠頭がいくつもあるし、軍艦も何隻も停泊している。
たくさん並んでいる倉庫には、色の違う倉庫がある。おそらく、普通の倉庫と軍の倉庫と分けているのでは。
(あ、そうか!)
軍港として使われるから、町の規模の割に大きな港になっているのだ。
マサヒデ達は先導に案内されるまま、港の中程まで来た。
周りには兵隊がずらりと並んでいる。
そこで騎兵が足を止め、マサヒデ達も馬を止めると、ざざ! と白い儀礼服の兵が並び、先導してくれた騎兵4人が、綺麗に左右に分かれ、馬を下りて敬礼。
びしり! と敬礼し、
「こちらで下馬を願います!」
「はい」
マサヒデが馬を下りると、白い儀礼服の兵が1歩前に出て、
「馬をお預かり致します!」
「宜しくお願いします。暴れ馬ではないですけど、見ての通り、力がえらく強いので気を付けて下さい」
「は!」
マサヒデはそのまま馬車の後ろに歩いて行き、後ろの枠をぱかりと開けて、ことん、と下げる。
「シズクさん、ラディさん」
さすがにシズクの手は取れないので、どすん、と降ろさせる。
ラディに手を伸ばした時、右手に刀を持っているのに気付いた。
「ラディさん、脇差もないと」
「あっ」
「奥に私のヒロスケがありますから、使って下さい」
「はい!」
ラディが一瞬きょろきょろしたが、武器類は取り出しやすいよう、常に手前に置くようにしたので、すぐに箱を開けてマサヒデの予備の脇差、ヒロスケ作を取り出して腰に差す。
慌てて出て来たので、本当に落ちないようにと気を付けて手を伸ばし、ラディを下ろす。
残ったのはクレール。
着替えに一番時間を掛けた、愛しの第2夫人、クレール。
「さあ、クレールさん」
「はいっ!」
マサヒデが手を伸ばし、クレールを半分抱くようにして下ろす。
薄い青のすっきりした色のドレスだが、色だけで、ごてごて刺繍がついている。
これまた踵の高い靴だこと!
見ているだけでつま先が痛くなりそうだ。
「おっ?」
髪がまとめられていると思ったら、かんざしが。
櫛形のではなく、棒のやつだ。
「かんざしじゃないですか」
「んふーん! どうですか! アナスターシャ王女が国で評判が良かったって聞いた時、私もひとつ買っておいたんです」
「良いですよ。さ、皆を待たせてはいけません」
「はい!」
しゃりん、と小さくかんざしが鳴り、ふとマサヒデの目がクレールの頭の後ろに行った。
(高いんだろうな、これ)
髪から突き出ている金の棒は、鍍金ではないだろう。
先の花の飾りの真ん中には、赤い宝石。
レイシクランは銀と赤がトレードマークだが、髪の毛が銀色だから、金を選んだのであろうか。それとも、高いからか・・・クレールは値で物を見ないとは十分承知だが、どうしてもうがって見てしまう。
馬車の裏手からクレールと一緒に出ると、正面の壇の上に、ごつくて頭を剃り上げた老人が見えた。脇にエイデン大佐とクレンナ中尉。
(あれが中将さんだな)
マサヒデが腰から雲切丸を取って右手に持つと、中将らしき男がこちらに笑顔を向けた。
あれは自分達に向けた笑顔か、クレールだけに向けた笑顔か・・・




