第122話
これから向かうオウ=コナーの町では、何があるのか。
偵察に行って来たカオルが頭を抱えている。
どうやら尋常の事ではないようだが、町へは入らねばならない。
港で船が待っているし、町は壁で囲まれているから、当然である。
「話して下さい。町で何があったんです」
マサヒデ達が話しているうちに、皆も起き上がって、イザベルが甲斐甲斐しく水のカップを配っていく。
「海軍の主催で、我々一行の歓迎祭が開催されようとしております」
「・・・はあ?」
歓迎祭?
理解が追いついていかない。何故?
顔に手を当てそうになって、はっと気付いた。
そうか、クレールやイザベルがいるのだから当然か・・・
「ああ、クレールさんやイザベルさんも居ますし。イザベルさんのお父上は魔の国の軍の大将ですからね」
「まあ・・・はい。先日の訓練が、えらくうけが良かったようで・・・」
「ええ!? あれがですか!」
体重を何貫も減らし、訓練後に1週間もとって、やっと、何とか、身体が戻って来たところなのだが・・・あんな訓練が。
「本来ならば、ご挨拶だけで軽く済ませる予定だったそうです」
「はあ」
「ご視察に参られたクレンナ中尉が、それはいたく感心されて・・・」
「はあ」
「オウ=コナーから東の方に、大きな港町があって、そこに駐留しておる海軍に、まあお偉方がおられまして」
「来てしまったのですか」
「はい・・・セント=エントーニョイ陸軍基地の、エイデン大佐まであちらに。我々が休んでおる間に、基地を出ておられたようです」
「なんとまあ」
イザベルが「ああ!」と声を上げ、頭を抱える。
「マサヒデ様! これでは、さっさと通り抜けられませぬ!」
アルマダも渋い顔。
「護衛艦は海軍ですからね・・・その海軍主催の歓迎祭を無視しては、行けないですよね」
あっ! とマサヒデが声を上げ、
「そ、そうか・・・そうだった! 軍艦が護衛についてくれるんだ! 海軍だ!」
「そうですよ」
これを振り払って行く事は出来ない。
アルマダが、がっくりと首を落とす。
カオルが渋い顔で、懐から覚書を出し、
「現在、既に祭が始まっております。本日到着の予定は既に伝わっておりますので、前夜祭となります。明日、本祭。最短で明後日に出立と」
「・・・」
カオルが、す、と懐に覚書を入れ、小さく首を振る。
「ご主人様、これはどうあっても素通りは出来ませぬ。護衛は海軍、それの手を振り払う事は」
「う、ううむ」
ははっ! とシズクが笑い、
「いいじゃんか! 別にお偉い貴族様の集まりじゃないんだからさっ! 楽しんで行こうよ!」
また、とマサヒデが首を振る。
「私はさっさと出たいんですけどね」
はあー、とアルマダが溜め息をついて、カップを置いた。
「皆さん、礼服の準備はしておきましょう。町の手前で着替えるんですよ」
がっくりきているマサヒデ達と反対に、シズクは楽しそうだ。
「ねえねえ! イザベル様! 軍人のお祭りとかパーティーってどんなのー?」
「あ? ああ、魔の国では・・・いや、国や基地によっても違うからな。この国は祭好きであるし、どうかな。行けば分かるが、何となく予想はつく」
「どんな? ねえどんな?」
「今、言った通り、国でも基地でも違う。行けば分かるし、行かねば分からん。だがシズク殿は楽しめような。囲まれると見た。覚悟しておけ」
「ええ!? 私!?」
「ああ。シズク殿は、もう米衆連合全土に大きく名が知れたぞ。エントーニョイ=ノギの魂を引き継いだ闘神が、セント=エントーニョイ闘技場に降臨した、とか読売にでかでかと出ておったな。1ヶ月で20戦20勝など、あり得ん」
「21勝だよ」
「あり得ん」
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昼を過ぎて、すぐ町が見えてきた。
アルマダが手を上げて、馬と馬車を街道の脇に止め、馬を下りる。
「マサヒデさん。そろそろ着替えましょう」
後ろを見れば、カオルが鞍に立って遠眼鏡を覗いている。
「カオルさん、どうです」
「ううん・・・既に儀礼服を来た兵が並んでおります。出迎えでしょう」
「あ、そうですか。儀礼服、ですか」
カオルが遠眼鏡をしまって懐に入れ、鞍に尻を下ろし、
「陛下のお城におられた、近衛のような服装です」
「ああ」
「日輪国の軍とは趣が随分と違いますね。中身は近衛兵ではありませんでしょうから、緊張する事はございません。らしい服を着ただけの一般兵です。騎馬は陸軍の・・・恐らく先導役でしょう」
「先導がつくんですか。仰々しいですね」
やれやれ、と馬を下り、御者台のトモヤを見上げ、
「着替えるぞ」
「面倒じゃのう」
うんこらせ、と、トモヤも御者台を下り、マサヒデの隣に立つ。
「アルマダ殿達はよいのう。鎧がそのまま正装であるし」
「全くだな・・・」
「私達も着替えますよ! 鎧でパーティーに出るわけないでしょう!」
「はいはい」
アルマダの声を軽く流しながら、馬車の後ろに歩いて行き、中を見上げ、
「すみません、ここで着替えますから、皆さん下りてもらえます? 服、引っ張り出さないと」
「はーい!」
マサヒデが荷台を開けると、クレール、シズク、ラディと下りてくる。
よっこらせ、と馬車に上がって、下りたクレール達の方を向き、
「じゃあ、私達が着替えたら、クレールさん達も着替えて下さい。終わったら行きます。もう、町の前で兵隊さん達が待ってます」
マサヒデとトモヤが荷物を引っ張ったり下ろしたりして、礼服の箱を出し、よいせ、よいせと着替えていると、イザベルも歩いて来た。
クレールがイザベルに手を挙げて、
「イザベルさん! 私、軍のパーティーって出た事がないんですけど」
「はい」
「朝は、行かないと分からない、って言ってましたけど、イザベルさん達は、どんなパーティーをしてたんですか?」
「服装だけはきちんとしていますが、服装だけ。飲み会です。ただ飲んで騒ぐだけ。大体、将校組、佐官組、尉官組、曹士組と分かれます。将校、佐官は貴族のパーティーと変わらない感じです。尉官はまあまあ上品に、曹士は荒くれの飲み会です」
「へえー!」
「それが同じ会場で。将校、佐官組は、どうしても人数が少なくなりますので、尉官、曹士達の声を聞いて笑ったり、暴れるのを見て楽しみながらと。時に佐官などがそれらに混じって呑み比べなどをしておったりもします」
「何か面白そうですね!」
ここでイザベルが声を潜め、シズク、ラディも手で招く。
「米衆連合軍のパーティーでは、絶対に政や他国の戦に関しての話はしないで下さい。どんな意見を出しても、誰かの反感を買います。米衆はそこら中に派兵しております上に、反対派、賛成派も混ざっておりますので」
「なるほど。面倒ですね」
「自分がどう思っていても、分かりません、興味がなくて、と話題は切って下さい。それでも、これこれこういう事がこうこうですが、クレール様はどうでしょう、など、しつこく聞いてきたら、難しいので分かりませんとか、お父上にお尋ねになどと。決してクレール様の意を出しませんように。この場だけで、個人的な意見で、腹を割って、正直な所は、と前置きがきたら罠です」
「あら。貴族、政治家のパーティーと全く同じなんですね?」
イザベルが渋面を作り、
「私もしょっちゅう佐官、将校に捕まっては、お前の考えはなどと聞かれたもので。最初は熱くなって、うっかり上と意見を交わしてしまい、後で父上に叱られたものです。それがファッテンベルクの総意だと取られたらどうする、などと」
「うふふ」
「中立でいて、戦や政に関しては、取るに足らない者を演じて下さい。能ある鷹でいたければ爪を隠す、です。クレール様は大きな爪をお持ちですから、ひたすら隠して下さい。それが軍の上との付き合い方です」
「なるほど。上に登れば軍人も政治家と同じと言う事ですか」
「その見方で結構です。クレール様の爪がどこに向いているかを知られてはなりません。相手もクレール様が取るに足りない者だなどとは、はなから思っていません。承知の上で、そういうやりとりとなります」
クレールが、ちらりとトモヤに帯を確かめてもらっているマサヒデを見る。
「マサヒデ様が心配です」
「後ほど、ご注意を申し上げておきます。シズク殿とラディは社会情勢など知らぬ、さっぱり分かりませぬ、と突っぱねるのだぞ。しつこく聞かれても、さて、難しすぎて分かりませぬ、と首を傾げておれ」
「それ、いつも通りにしてろって事だよね」
ん、とイザベルが頷く。
「それで良いのだ。政と戦に関しては、しっかりと聞くな。難しい話は右から左に抜けて、何も考えずにおけ」
「なんかそれも嫌だな」
「それで万事丸く収まるのだ」
「へえーい」
「はい」
「他の事なら良い。ラディ、刀の話で盛り上がっても全く問題ないから、お前が奪い取ってきた刀でも持っていけ」
「奪い取ってはいません」
「構わぬ構わぬ。詐欺師から奪い取ってやったと話してみろ。ははは!」
笑っていると、着替え終わったマサヒデどトモヤが、慎重に下りてくる。
「引っ掛けるなよ」
「分かっておるわい」
うむ、とイザベルが頷いて、
「やはり羽織袴のマサヒデ様は威圧感があられます」
「私に威圧感あります?」
皆が顔を見合わせる。
「ありますよ!」
「ございます」
「あるね」
「最近はすごく」
「トモヤ、あるのか?」
ううむ、とトモヤが首を傾げ、マサヒデをじろじろと見る。
「いいやあ、ないのう・・・マサヒデ、もうちとカゲミツ様のようになれんのか」
「それは無理だ」
「であろうのう」
「皆さん、トモヤはこう言ってますが」
はて? トモヤには分からないのか?
皆が首を傾げる。
「ん、まあ、それはそれで良いのでは・・・マサヒデ様の良さは出ております」
「褒められたと思っておきます。じゃ、待ってますよ。トモヤ、覗くなよ」
「ワシはまだ死にとうないでな」
そう言って、マサヒデ達は馬車から離れて行った。




