第121話
そして3日が経った。
たらふく食って、たらふく寝て、1ヶ月も会えなかった馬達と遊んで、あっと言う間の3日で・・・
「何で試合観に来てくれなかったのさあ!」
「ここの闘技場に、シズクさんに勝てそうな人、もう居ないでしょう。雷山さんと相撲勝負くらいじゃないですか? マッカラナさんは、まだ入院してるって聞いてますし」
クレールがチェックアウトの手続き中、シズクは文句を垂れてばかり。
トモヤは満足そうな笑顔。
「ワシは毎日見に行っておったぞ」
「トモヤも途中で来なくなったろお!」
「賭け率が元返し(1.0倍)になってしもうたでのう。ま、お陰で小遣いも増えたし。ありがたやありがたや」
マサヒデが、ふ、と鼻で笑って、
「なあ、トモヤ、試合はどんな感じだった?」
トモヤは肩を竦めて、呆れ笑い。
「ぜえんぶ張り手で終わりじゃ。舞台の端までぶっ飛んで、落ちてしもうた奴もおったの。まあ客の喜ぶ事と言ったら! シズク殿と当たってしもうた相手は、まあ見るも可愛そうじゃったの」
「ははは! そんな事だろうと思ってましたよ! 分かってる試合、見に行く事もないじゃないですか。それに、私達は、体重を戻すのにいっぱいいっぱいでしたよ」
シズクが下唇を突き出す。
「ふーん。食っちゃ寝してたんだ」
「そうですとも。私、4貫(15kg)近くも減ったんです」
「たった4貫目!」
「たった、じゃないです。人族は軽いんですよ。元が20貫くらいで、4貫も減ったんですよ。2割近くも減ってしまって、まだ戻ってないんですから」
「まだ戻ってないの?」
「全然。アルマダさん達なんか、鎧着るだけで疲れちゃって」
「あっちゃー、そんなに!」
がちゃがちゃと鎧を鳴らし、アルマダが歩いて来て、
「体重を戻すっていうのも大変なんですよ。増やしすぎて着込みや鎧が入らなくなったら勿論、痩せすぎだと、すかすかで、これまた危ないですし」
「あ、そうか・・・ただ太るだけじゃね」
「そうですよ。贅肉ばかり増やしたって意味ないですし、上手く身体を戻さないと。こういう鎧は、完全オーダーメイドの服みたいな物なんです。合わせて身体を戻さないと動けなくなるし、作り直しなんて時間が掛かります。大変なんですから・・・」
とことこクレールが歩いて来て、アルマダと並ぶ。
「そういう所も貴族の身だしなみ! ですよね!」
「ええ。面倒です。フリーサイズの鎧ってないものですかね」
ふ、とマサヒデが笑って、
「まあまあ。あとは港に行って、船に乗るだけ。また2、3週間掛かるんでしょう。ゆっくり身体を整えましょうよ」
「・・・」
アルマダの顔が沈む。
「どうしたんです」
「船酔いが心配なんですよ。さらに痩せそうで・・・」
そう言えば、アルマダは酷い船酔いで、カオルに鍼を刺されまくっていた。
頭に突き刺された鍼は、未だに忘れられない。
「カオルさんに、たくさん鍼を打ってもらいましょう。薬も作ってもらって」
「うっ! そうだった!」
シズクも声を上げる。
船酔いで死ぬ、とか言って、非常に苦しんでいたのだ・・・
「シズクさんは仕方ないですね。でも、私達がやってた訓練、あんなものじゃないですからね。1ヶ月やってたんですから」
「えー・・・」
「ははは! さ、行きましょう! 街道を走るだけですよ! 船は待ってます!」
がいん! ぱあん! と、アルマダとシズクの背を叩く。
「はい」
「はあい・・・」
アルマダとシズクの声は沈んでいた。
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街道を進み、その夜。
もう船が待つ港町、オウ=コナーまでは半分もない。
オウ=コナーは港があるとはいえ、小さな町。
特徴としては、ここの港や海上には、常に海軍が居るという事。
もはや町と海軍基地があやふやになっているような感じである。
どうしてそうなったかと言うと・・・
「地図で見ますと、このオウ=コナーの町はこの辺り」
カオルが町の偵察に行き、今回はイザベルが説明役。
指で地面に大きく『C』の形の図を描き、左上にX印。ここが町の位置。
Cの空いている方に指を置き、
「この辺りが、海賊まみれの群島地域。島と島の間はどこも狭く、客船が単独で入れば、あっという間に海の藻屑です」
「軍艦の護衛があって良かったですよ」
「はい。そして、西側は中央米衆の物騒な地域。この地域は戦争こそ起こっておりませんが、海は海賊、陸はギャングの巣窟。治安は言うまでもなく、町中では、警察が散弾銃を装備して、そこら中に立っております。麻薬も大量に作られており、ここから世界中に輸出されております」
「ううむ」
「当然、そんな国は嫌ですとなりまして、この国境近くの町は、米衆連合への密入国者が多く。それゆえ、陸軍の小規模な駐屯地が周囲にいくつか置かれております。特に港は非常に厳しく警戒されており、もう基地の中に市民の居住区がある、というような感じになっております」
「そんな物騒な所なら、そもそも貿易しなきゃ良いのでは?」
イザベルが首を振る。
「この地域は非常に土に恵まれており、農産品だけでも、コーヒー、砂糖、トウモロコシ、煙草、多くの果物。他にも海産物や上質な革、宝石など、上げたらきりがないほどの品が、大量に生まれるのです。貿易を止めると米衆連合の経済が破綻します」
マサヒデが頬杖をつき、溜息もつく。
「なあるほど。イザベルさんが言いたい事は分かりました。一見、軍に囲まれて安全そうに見えても、物騒な方々がそこら中に紛れている、と」
「はい。必ずおります。現にこの町からも、麻薬所持者の類は、しょっちゅう見つかっておるのです。軍の監視を抜けて入ってくる者は、幾人もおります。このような事は言いたくはありませんが、軍や警察にも、彼奴らとなあなあの者がおると」
「ははあ」
「ですので、長の滞在は、決してお勧め致しません」
アルマダが頷く。
「港に直行しましょう。買い物が必要なら、この海を出て東海岸で。例えお偉方の声が掛かっても、ここは振り払ってさっさと出るべきです。港も安心出来ません。いつの間にか船に爆弾を仕掛けられていた、なんて御免ですよ」
イザベルが鋭い目で頷く。
「はい。十分にあり得ます。レイシクランの客船は宝の山です。沈めた後はこっそり潜って宝探し。海の中までは、海軍の目も届きませぬ。乗船が終わり次第、船を調べ、即、出港致しましょう」
「また、ばたばたしそうですね・・・やれやれ!」
マサヒデはごろりと寝転がり、夜空を見上げた。
「米衆連合の最後の町は素通りか・・・」
ふわあ、とシズクが欠伸をして、
「いいじゃんよお。そしたら魔の国」
ごろんと転がって、マサヒデを見る。
「ここまで来たら、早く来て欲しいなあ! さっさと行っちゃおうよ!」
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翌朝。
いつの間にかカオルは野営地に戻ってきていて、イザベルと一緒に朝餉の準備をしながら、ぶつぶつ話し合っている。
「―――そういう事で・・・」
「それは参りました。されども・・・」
マサヒデが目を開けて、寝袋で寝転んだまま、2人を見ている。
視線に気付いて、は、とカオルが目をやると、マサヒデが寝袋を開けて、
「おはようございます」
言いながら、身体を起こす。
「何があったんです」
カオルが少し困った顔で、マサヒデに水が入ったカップを差し出し、
「少々困った事が」
カップを受け取り、ぐいっと飲んで、は! と息をついて、カオル、イザベルと2人の顔を見る。
「どういった?」
「オウ=コナーの町が、軍の基地のようになっているとはご存知で」
「ええ。聞きました」
「町は壁で囲まれており、出入り口は決まっておるのですが・・・まあ、人のみならば、越える事は簡単ですが、我々には馬が」
マサヒデが訝しげな顔になる。
「私達が忍び込む必要はないでしょう? 軍の方々にも先日お世話になりましたし、民間の方も、私達の顔は知っている方はいるのでは? 堂々と入れますよ」
はあー! とカオルが溜め息を付き、イザベルが首を振る。
「はい・・・堂々と入らねば」
「何が問題なんです」
カオルが首を振り、イザベルが頭を抱える。
一体何があるのか?




