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勇者祭4 米衆連合国編  作者: 牧野三河


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第12話


 ぽっくり、ぽっくり・・・

 がらがらがら・・・


「ふうー・・・」


 マサヒデが息をつく。

 行けども行けども景色変わらず。

 確かに進んではいるのだが、前には何も見えない。

 周りを見れば、乾燥した土に点々と生える木や草、たまに遠くに見える動物。


「アルマダさん」


「なんです」


「何か、話をして下さい」


「無茶を言わないで下さい」


「退屈なんです」


 日輪国内では、ただ馬を歩かせているだけで、こんな気分になることはなかった。

 あまりに景色が変わらない。


「雲の数でも数えてなさい。子供ではないのですから」


 マサヒデは愛馬の黒嵐の首を撫で、


「黒嵐・・・暇だなあ・・・」


「あの拾ってきた馬の名前でも考えて下さい」


「ああ。そうですねえ・・・じゃあ雀槍」


「すずめやり?」


「茶色いから」


「弱そうですよ」


「じゃあ・・・吾亦紅」


「われもこう?」


「茶色いから」


「呼びづらいですよ」


「血止めの薬になるんですよ」


「そうですか。でも却下します」


「・・・」


 ぽくぽく・・・

 イザベルの馬が出てくる。


「マサヒデ様。ルチルではいけませんか」


「なんです、それ?」


「茶色の宝石です」


 アルマダがにっこり笑い、


「決定! 流石、イザベル様はセンスがあります」


「恐縮です」


 マサヒデも頷き、後ろからついてくる馬を見て、


「うん、可愛い名前ですね。それで良いと思います」


「ありがたき幸せ!」


「あれは何ていう馬の種類なんです?」


「クォーターです。おそらく世界で一番多い馬です。乗馬用で売られているのは、大体このクォーターかと」


「ほう」


「穏やかな性格に、ある程度は粗食も耐えます。走りは短距離が得意で、小回りが利くタイプです」


「へえ。黄金馬と似てますね」


 イザベルの愛馬、シトリナは黄金馬という品種。


 磨かれた金属のように美しく輝く毛並みに、賢く大人しい性格で人懐こく、特にその輝く色で、貴族には引っ張りだこ。

 怖ろしい程のスタミナ、素晴らしく器用な走り。そのくせ食事は粗食で、水無しで砂漠を3日も走るという。

 紛争地域の馬なので、ほとんど徴用されて国外に出ないのだが、偶然に見つけたこの馬を、マサヒデの妻のマツ、クレール、アルマダ、イザベルが共同出資をして牧場を作り、繁殖させる計画をしている。


「ですが、短距離馬ゆえの宿命、スタミナに難あり、と言った所でしょうか。私のシトリナ程はとても走れませぬ。力も強い方ではないので、馬車や、ハワード様方のような全身鎧の者を乗せて走るには、あまり向きませぬ」


「ふうん・・・」


「予備馬として連れて行くには良いと思います」


 イザベルがそこでにやっと笑い、


「マサヒデ様。この米衆という国には、野生馬が多くおりますそうで」


「ほう?」


「大小、軽重、色々と混ざった野生馬の群れがそこここに。我々の馬に敵うものはおりますまいが、稀に素晴らしい馬が混じっていることがございます。私、この馬の群れを見つける事が楽しみで・・・良い馬がおれば道々拾っていき、何処かの冒険者ギルドで預け、牧場に送るもよし、我が家に送るもよしと」


「あ、それは面白そうですね!」


 ふーん! とイザベルが鼻から息を吹き、


「この広大な平地を走る馬の群れ! 血が湧きませぬか!」


 この乾いた広い大地を、馬が群れで砂煙を上げながら走る絵が、マサヒデの脳裏にはっきりと浮かんだ。騎馬隊のような勇ましさだけではなく、そこには美しさがあるだろう。


「ああ・・・ううむ! 良いですねえ!」


 イザベルが鞍の弓を取り、


「鹿もおります。バイソンの群れもおります。クーガー。狼。熊もおるそうです。狩りを楽しみ、食を楽しみ!」


「いや、狩るのは良いのですが・・・」


「何か?」


 マサヒデがくすっと笑い、


「前、鹿を狩った時に、ダニを見て飛び上がっていたではありませんか」


「・・・」


 獣人族は皆、本能的にダニ、ノミが大嫌いで、震え上がってしまうのだ。


 初めて狩りの獲物をうきうき抱えてきたイザベルは、皮をなめそうとした時に、毛の中に大量のダニを見て、大変な目にあったのであった(※勇者祭679話)。


 鼻も耳も勘も鋭い獣人族が狩りで活躍出来ないのは、ここに理由があるのだ。

 通常、他の種族の者と組んで働く事で、彼らは狩りで活躍出来る。

 単独で狩りが出来る獣人族は、エリート中のエリートなのだ!


「は、運ぶのを、シズク殿に・・・手伝って頂ければ・・・」


「ははははは!」


 イザベルがしょんぼりして、弓を鞍に納める。マサヒデは苦笑して、


「まあ、肉が食べたくなったら、皆で狩りをしましょうよ。アルマダさんも、しばらく弓は持ってないでしょう」


「久しぶりになりますね。ふふ。イザベル様は小さな虫が苦手なのですか?」


「まあ・・・」


 マサヒデがくすくす笑い、


「アルマダさん、知らなかったんですね。獣人族の皆さんって、ダニ、ノミの類が大嫌いなんですって」


「ほう! 知りませんでしたよ」


「前にサカバヤシさんが覗きした時、クレールさんにダニを大量につけてもらったら面白かったですね」(※ゾエ編 57話参照)


「ははは! しかし、これで獣人族には楽に勝っていけますね。クレール様が虫をばら撒くだけで良いのですから」


 マサヒデは首を傾げ、


「いやあ、そう単純でもありませんよ。馬に乗ってたら付けるのが大変ですし、ぴょんと跳ばれたら簡単に飛び越えられますし。飛び道具があれば関係ないです。剣、刀を寄せ付けられない、くらいですよ。それだって、投げて来られたら」


「しかし、動きを大きく阻害する事は出来ます。後は私達の出番。他の種族の苦手なものってあるんですか?」


「さあ・・・イザベルさん、知ってます?」


 イザベルが馬上で腕を組む。


「ううむ・・・」


「手綱、離さないで下さいよ」


「あ、平気です。私は足だけで」


 イザベルやアルマダの騎士達ほどの馬の達者になると、足だけで馬を操るのは基本だ。特にイザベルは両手剣を扱うので、これは必須の技術と言える。


「マツ様は釣り餌の虫で気を失っておられたとか。もしや魔王様の血族は・・・」


「いやいや、それは違うと思いますが」


 イザベルが腕を組んだまま、ううむ、と唸る。


「思い付きませぬ・・・軍でも教えてもらわなかったので・・・魚人族が水がないと息が出来ない、とか・・・」


「ううむ、そうですか。種族の欠点というのを知れれば、楽に行けるのですが」


「ところで、マサヒデ様。進言をお許し下さいますか」


「なんです? 改まって」


「マサヒデ様も、足で馬を操れるようにしてみては。片手打ちでは厳しい所もありましょうし。折角、長く馬に乗れますゆえ、このようにだだっ広い所であれば、馬術の練習も仕放題です」


「ああっ!」「おおっ!」


 マサヒデとアルマダが声を上げる。

 周りには何も無い広い平地。

 馬の練習は仕放題!


「良いですねえ・・・イザベルさん、それ、凄く良いですよ・・・」


 マサヒデは後ろを向き、


「カオルさん!」


「は」


 ぽくぽくとカオルが前に出てくる。


「今、イザベルさんが凄く良い提案を出してくれました」


「何か」


 マサヒデがイザベルを指差す。イザベルは腕を組んだまま。


「ほら。手綱持ってない」


「はい。流石はイザベル様です」


「私達も、手放しで馬を自在に操れるように練習しましょうよ。周り、何も無いんですから。馬上で両手が自由に使えるって、凄く有利ですよ」


 は! とカオルが顔を変える。


「後ろにはサクマさん達もいるし、進みながら馬術の練習がいくらでも出来ますよ。間違って馬が走り出してしまっても、周りを気にする事がないんですよ、ここ」


「た、確かに!」


「米衆連合って、良い国ではありませんか! ははは!」


 高笑いするマサヒデに、アルマダは難しい顔で、


「ちょっと待って下さい、マサヒデさん。では、この地で育った方々は、皆が馬の達者なのでは」


 ぴし、とマサヒデとカオルが固まった。


「・・・」


「朝方、襲ってきた者達は、壁の外だったので見ていませんでしたが・・・」


 イザベルがにやりと笑って頷き、


「流石はハワード様。しかし、それも昔の話。今はこのような技術は浸透しておりません」


「何故です?」


「この国は鉄砲が多く普及しており、剣を扱う者は多くはおりません。拳銃は片手で良く、長鉄砲を撃つ時は遠くから。くるくる回って向きを変えておっては、狙いが上手く定められないので、まっすぐ走らせながらで良いわけで・・・」


 イザベルが腕を組んだまま、得意げにシトリナを右に、左に、と向きを変えさせる。


「このような技は、槍、弓、刀、両手剣で、馬で戦う時に光る技術。鉄砲が広まって剣が衰退したこの国では、ほとんど無くなってしまったのです」


「なるほど・・・」


「このように上手く扱う事が出来れば、馬から下りずとも良い場面が増えます。そして・・・マサヒデ様、お気付きでございましょうか。戦乱期の騎馬武者と呼ばれる者達は、こうして足で馬を捌き、馬上で槍、太刀、薙刀を振り回しておったのです」


 は! は! は! とイザベルを見て、黒嵐を見て、自分の足を見て。

 マサヒデが声を上げる。


「あっ! そうか! いくら凄腕の武将だからって、走る、止まるだけでは、たくさんの兵の中では簡単に落とされますよね! 囲まれてしまったら終わりだ!」


「如何にも。馬を我が足の如く扱えるがゆえ、兵の中に飛び込んで囲まれても平気。右から、左からと来られても、足を踏み変えるように、馬に踏み込ませ、向きを変えさせる。猛将と呼ばれる者は、皆、これが出来るので馬上で暴れられるのです」


 アルマダが感心して目を見開いて頷く。


「ううむ! 文字通り、まさに武者修行というわけですか!」


 イザベルが頭を下げ、


「退屈な旅の暇つぶしになりますでしょうか」


「なりますとも! アルマダさん、カオルさん、これでみっちり稽古しながら旅が出来ますよ!」


 早速マサヒデが手を離し、こうかな、こうかな、と足を動かしていると、


「ばふ!」


 と黒嵐が鼻を鳴らして、どかどかと駆け出した。


「あ! 違う! 黒嵐、足を落とせー!」


「ははは!」


 アルマダが声を上げて笑い、イザベルとカオルもくすくす笑い出した。


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