第11話
カオルとイザベルが、手際良く死んだばかりの馬を捌いていく。
捌くのに使っているナイフは、襲撃してきた5人が持っていた物。
自分達の得物は汚さないに越したことはない。
積まれた肉をシズクが運ぶ。
クレールが魔術で火球を作る。
騎士達がそれを剣に突き刺し、火球でじりじりと焼いては、箱に落としていく。
凄い熱なので、あっという間に焼けていく。
マサヒデが箱の肉を見て、
「これ、まだ生焼けじゃないですか?」
騎士のジョナスが頷き、
「や、どうせ今日中に食べるので、表面が焼ければ良いのです。食べる時にもう一度焼くわけですね。温め直す時に中までしっかりと」
「あ、なるほど! ううむ、勉強になります」
「今は涼しいので、これで明日まで十分もつと思いますが、折角ですので今日で派手に食べてしまいましょう。朝餉に食べる分はしっかり焼きますぞ」
「楽しみですね」
アルマダとラディは、爆弾を投げ返されて死んだ3人の荷物をあらためている。
外されたガンベルト。背に背負っていた長物の鉄砲。
鞄に入っていた物、ポケットに入っていた物。
マサヒデが歩いて行くと、ラディが鉄砲を取り上げ、かちゃかちゃといじる。
「使えそうですか」
「使えます」
「おや? 大きいですね、これ」
マサヒデが長物の鉄砲を取り上げる。
「それは散弾銃です」
「と言うと・・・あの、人の頭をスイカのように吹き飛ばすという?」
こく、とラディが頷く。
「確か、前に見たやつは、大きめの拳銃くらいでしたが・・・そうか。こんなに長い物を切っていたのか」
「動物を狩るには良いと思います。弾もあります。短い物より弾が散らばらないので、少しくらい離れていても当たると思います。イザベル様に聞いてみます」
アルマダが鞄を開け、
「他は下らない物ですね。酒に煙草に・・・これは包帯と。ううむ、これは何だ? 分かりませんね・・・瓶詰めと干し肉は使えるか。あと金が少し」
マサヒデが少し首を傾げて、ん、と小さく頷き、
「一応、酒はいくつかはもらっておきますか? 簡単な消毒に使えるでしょう」
「ああ、そうですね。シズクさんやクレール様に呑まれようにしませんと。ラディさん、医薬品として管理頼みます。包帯も」
「はい」
アルマダが空っぽの鞄を持ち上げ、
「何より、この鞄が良いですね。この肩掛けの紐の長さが調節出来る。私の鎧の上から着けられますよ」
「おお! 良いではないですか!」
「使い込んでいるみたいですね。革でしっかりしていますが、柔らかくなっています。金具もちゃんと内側にこないようになっています。これなら鎧に瑕も着かないでしょう。良いですね。全員の鞄は頂いて、我々が使いましょうか」
マサヒデは鉄砲の弾がずらりと差し込まれたベルトを指差し、
「それはどうです」
「ううむ・・・邪魔です。私達は腰に剣、刀を差しているんですよ。ホルニコヴァさんはローブを着る。イザベル様もベルト付きのものを着けていますし。鉄砲は懐に入れる方が良いです」
「なるほど。じゃあ売りですね。ラディさん、その鉄砲、良い物ですか?」
ラディは首を傾げ、
「分かりませんが、珍しい物ではないと思います。弾はマサヒデさんが使っているのと同じですから、弾はもらっておきましょう。鉄砲は売ってしまうのが良いかと」
アルマダが頷いて立ち上がり、
「よし、私は鞍袋の方を見ましょうか。マサヒデさん、あの縛った2人の荷物を持って来て下さい。ホルニコヴァさん、適当に穴を掘って下さい」
「穴?」
「魔術でですよ。この遺体を埋めませんと」
「あ、ああ」
ふう、とマサヒデが息をつき、
「不思議ですね。自分が手掛けた者でないと、こうもさっぱり出来る」
「・・・」
「ちゃんと御経は上げましょう。あの2人、どうします」
クレールが水鉄砲の魔術で吹き飛ばした2人は生きていた。
気を失って落馬していたので、縛り上げられている。
アルマダがちらりと見て、
「ま、いらない物は残しておいてあげますか・・・」
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豪華な朝餉を終え、土に埋めた3人に経を唱え、出発前。
マサヒデとイザベルが縛り上げられている2人の前に立つ。
どさ、といらない荷物がまとめられた袋を投げ出し、イザベルが焼いた肉を地面に放り投げる。
「朝飯だ」
「くそ・・・」
地面に投げ捨てられた肉には、べったりと砂がついている。
すらりとマサヒデが雲切丸を抜き、
「あなた方、魔族ですね。勇者祭の方? 降参するなら斬りません。でなければ斬ります」
「俺は降参する」
「俺も降参だ」
マサヒデは目を細めて2人を見下ろし、少し首を傾げ、
「・・・本当に勇者祭の方? 野盗ではありませんか? 降参って言って、奉行所に行きたくないだけでは?」
「ブギョーショ?」
イザベルがマサヒデを見て、
「マサヒデ様。米衆では奉行所の事を警察と呼びます」
「ああ、警察です。警察に行きたくないだけでは」
「違うって!」
「ううむ・・・」
マサヒデが遠くに見えるロストエンジェルの町を見る。
わざわざ戻るのも時間が掛かる。
「ま、信じましょう。ですが、縄は解きません」
「おい! こんな所に放り出されてたら!」
「私達を殺そうとしたんです。自分達も殺されるかもって覚悟くらい、出来てるでしょう」
イザベルが、馬を捌いて血まみれになったナイフを、袋から取り出す。
「う」
さあー、と2人の顔が青くなる。
「安心しろ。人の血ではない。死んだ馬を捌いただけだ。お前達の馬は逃げた」
「・・・」
ひょーいと後ろに放り投げ、袋から水筒を出し、
「水もある」
金を取り出す。
「金もある」
マサヒデが雲切丸の切先をロストエンジェルの方に向け、
「町まで頑張って歩いて下さい。ナイフはあちら。縄は切れます」
「まじかよ・・・」
「死ぬ距離ではありませんよ。すぐに縄を切れれば、昼過ぎにはつくでしょう。それと、お仲間の遺体は埋めておきました」
「殺しやがったのか」
「あなた達が投げた爆弾で死んだんですけどね」
「ちっ!」
イザベルが鼻で笑い、
「貴様ら蛆虫が敵う相手ではない。鉄砲に爆弾があれば、刀や剣など楽だと思ったか?」
苦々しい顔で、縛られた2人が俯く。
「・・・」
「貴様らは勘違いしている。放映されたマサヒデ様の試合では、斬り合いであったが、ちゃんと弓鉄砲も持っている。本物を舐めるな」
マサヒデが懐から四分型拳銃を取り出す。
「あのですねえ。鉄砲くらい持ってますって・・・使う機会がなかっただけです」
「ぺっ! 偽サムライだったのかよ!」
「偽物かどうか、試してみますか? この鉄砲、貸しますよ。私はこの刀で相手します。やるなら縄を解きましょう。あなた達、もう降参したので、斬りたくはないですが」
「・・・」
かしゃ、と弾倉を出して、男の目の前に持って行き、
「ほら。弾、ちゃんと入ってますから」
弾倉を入れ、ぱあん! と横の地面に撃ち込む。
「ちゃんと撃てます。やりますか」
「やらねえよ・・・死にたかねえ」
「結構」
マサヒデが懐に鉄砲をしまい、
「あなた達が侍をどういうものかと考えているのかは知りませんが、普通に弓鉄砲は使います。あと、私は武術家。勝つ事にどんな手を使おうと、ためらいはない。例えば、寝込みに爆弾を投げ込むような事もするかも。ま、勇者祭の相手にはしませんよ。私は闇討ち組ではないので」
「ちっ!」
「では、お元気で。イザベルさん、行きましょう」
「ははっ! 貴様ら、生かしてもらった事に感謝せよ! 勇者祭は生死不問なのだ」
「ありがとよ! へっ!」
ぼこん! とイザベルの靴の先が男のみぞおちに突き刺さった。
「ごっ・・・こ・・・」
「マサヒデ様の前で、無礼な口をきくな。二度目はない。ではな」
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マサヒデ達が馬に跨がり、馬車が走り出す。
新しい馬が1頭ついてくる。
マサヒデは後ろのイザベルの横に馬を並べて、
「あれ、売るんですか?」
「荷を運ばせても良し・・・と考えております」
イザベルが前に手を差し出し、
「マサヒデ様。この広い地をご覧下さい。荷は多い方が良いかと。内陸には、我らが入れない町、領地も多くございます」
「確かに」
遠く、地平線まで広がる乾いた大地。少し起伏はあるが、低い丘程度。山も遥か遠くに霞んで見えるほど離れている。日輪国では見られない景色だ。
カオルが馬を寄せてきて、
「しばらくは、この半分砂漠のような感じが続きます」
「ううむ」
「ご主人様、大丈夫です。青い木も草も生えております」
「あ、水はあるのか」
「そうです。昨日もどんよりと曇っておりましたし、普通に雨は降ります。この辺りはですが。もっと乾いた所もございます」
マサヒデがイザベルを見て、
「イザベルさんの故郷はこんな感じなんですか?」
「いえ。ここらは木が見えますが、私の故郷、ファッテンベルクの地は、高い木はあまりありません。腰くらいの木が生えているだけです。砂漠ではないですが、何と言うか、細かい砂利のような物が敷かれているような感じで、もっと起伏があります」
「へえ」
「この程度の気候はどうという事はございません。そこら中に動物もおります。植物も生えております。簡単な魔術を使える者がいれば、水にも困らない。楽に過ごせます」
「見た感じ、厳しそうですが、そうでもないのですね」
「マサヒデ様も生存術は学んでおりましょう。楽なものです」
「こんな所は初めてですからね・・・不安にもなりますよ」
くす、とカオルが笑う。
「何か変な事、言いました?」
「いえ。流石のご主人様も、自然には勝てぬかと」
「当たり前ですよ・・・」
気温が上がってきた。
笠を上げ、太陽を見上げる。
夏場であったら、どれだけ暑かったか。
昨夜の冷え込みも、中々のものであった。
「陽が登ってきたら、急に暖かくなりましたね」
周りをぐるりと見渡す。この広さはどうだ。
勇者祭の相手や野盗よりも、環境との戦いになりそうだが、そうでもなかろう。
この地に住んでいる者は、ここに慣れているというより、ここが普通なのだから。




