第119話
先に見せられたのは戦争の記事であったが、次に出された記事はなんと・・・
『闘神の子シズク、ついに賭け率1.0』
「あ、これ聞きました。何か凄いらしいですね。私が聞いた時は、1.01とかだったんですけど」
アルマダが笑って、
「マサヒデさん、これ、どう凄いのか、分かってないでしょう」
「はい」
「シズクさんに銀貨1枚を賭けても、シズクさんが勝ったら銀貨1枚が戻って来るだけです」
マサヒデは、何だそんな事か、と頷き、
「ああ。勝って当然という事ですね。当たり前です」
「いや・・・まあ、そうあらないといけないんですが」
「戦績は・・・ほう。20戦20勝。頑張ってたんですね。今日で21勝ですか」
もうマサヒデは興味なさげだ。
フライドポテトを取って、さくさく食べだした。
「もう、マサヒデさんの組、かなり上に来てしまったのでは?」
「そうだと思いますよ。だって、参加してから、半年近くになるんですから。残りが減れば、自然と上がりますよ」
はは、とアルマダが苦笑して、
「そうではなく。シズクさんが、闘技場でがんがん稼いでいるのでは、と言っているのです」
マサヒデは、ポテトが突き刺さったフォークを置いて、腕を組む。
「ううむ・・・どうでしょうね? シズクさんと当たったら嫌だから、勇者祭の参加者でも、勇者祭の相手としてではなく、みたいな方が多いのでは」
「それって許されるんですか?」
「じゃないですか? でないと、闘技場の参加者が、がた落ちしてしまうのでは?」
アルマダが苦笑して頷く。
「確かに。あの雷山と正面から張り合って勝ったというだけでも、誰も相手にしたくなりますね」
「そういえば、雷山ってどういう横綱なんです?」
「横綱在位歴代2位って言ってたでしょう」
「いや、それは私も聞いてましたよ」
ぱん! とアルマダが手を叩き、
「そうでした。後で聞いたのですが、あまりに強いので、張り手と突っ張りは禁じ手にされたそうですよ」
なんと、とマサヒデが驚いて、取りかけたフォークを止めた。
「へえ! まあ、あの打ち方なら分かりますよ。あれは中に響く。アルマダさんは客席で分からなかったと思いますけど、音が地面から腹に響くような、あの感じ」
「ああ・・・シズクさんは、良く堪えましたね。何度も張り合ってましたが」
「気合でしょう」
アルマダが苦笑いして、マサヒデの皿からフライドポテトを摘む。
「思い切り顔を張られていて、気合はないでしょう。頭が揺れるんですから」
「ま、お互い頑丈だったって事ですよ。左手に変えた時の、最後の1発。あれが出なかったらシズクさんが負けてましたね」
さくさくとマサヒデがポテトを口に入れる。
「あれは良い振りが出来ていましたね」
「んむむ」
ごくん、と飲み込み、次のポテトを摘む。
「シズクさん、元々、身体の使い方はそこそこ出来てるんですから。棒を放すと、もう力任せになっちゃうのが・・・まあ、あの身体じゃあ普通そうなりますか。大抵の相手には技術なんていらないから」
「そうですよ」
アルマダが笑って、手を挙げて給仕を呼ぶ。
「ご注文は」
「ホットドッグを下さい。オニオンとマスタードをたっぷりと」
くすっと給仕が笑うと、アルマダも笑って、
「もうそろそろ、この国を出るので、らしい物を出来るだけ食べておきたいんです」
「左様でしたか。はい、シェフには気合を入れて作るように伝えます」
「適当で構いません。安く、適当に。それでも美味い。この国のハンバーガーとホットドッグはそこが良いのではありませんか。上品なホットドッグなどいりません」
給仕がにっこり笑って下がって行く。
マサヒデがまたフライドポテトを摘み、窓の外の通りを見る。
「イザベルさんが戻るまで、3日。イザベルさんも痩せてましたし、3日程、休みを取らせて・・・」
アルマダが後を引き取る。
「1週間後、この町を出ましょう。南のオウ=コナーの町へは2日かけて、のんびりと進みながら、体調を整えながら・・・クレール様に、基地に使いを立ててもらうよう、頼みましょうか」
「そうですね。3日。3日か。ふふふ」
マサヒデがにやにや笑う。
「どうしたんです。気持ち悪い」
「いや。イザベルさん、凄く無距離戦闘術を教えるのを渋ってましたが、やっぱり教えてしまった」
「ああ。はは。あんな訓練を一緒にやってたんです。仲間意識も生まれますし、甘くもなりますよ」
「くくく・・・」
またマサヒデが笑う。
「何なんです?」
「いやね、ふふ、アルマダさん、聞いて下さい。おかしいったらないんですよ。イザベルさんの教官、民間の方ですから、色んな国の色んな軍に仕事で教えに行ってるんです。その教官に訓練を頼んだら良かったのにって思いません?」
「・・・はっ、ははは!」
「ふふふ。面白いですよねえ。この国って」
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ホットドッグを食べた後、マサヒデとアルマダが部屋に入ると、クレールが書類から顔を上げて、ペンを置いた。
「おかえりなさいませ! どうでしたか? 久々のお食事!」
「もう大満足です」
「私もですよ」
マサヒデとアルマダがソファーに座ると、クレールが書いていた書類を持って来て、対面のソファーに座り、テーブルに書類を置いた。
「マサヒデ様、ハワード様。私の方は大発見がございました」
言ったクレールの顔は、先程までの笑みは消え、大真面目。
これは余程の発見をしたのか。
「教えて下さい」
こくん、とクレールが頷いて、書類を1枚取って差し出す。
マサヒデが怪訝な顔で、その絵を見る。
「羽?」
「ただの羽ではございません」
アルマダも訝しげな顔。
「何の羽です? 絶滅危惧種ですか?」
「いいえ。神様の身体の一部の羽です」
「い!?」「ええっ!?」
クレールが羽の絵を、横に指を滑らせ、
「横幅、約3丈(約9m)。輝かんばかりの純白の羽です」
「あの基地には、そんな物があったんですか!」
クレールがにやりと笑って、指を立てる。
「マサヒデ様、カオルさんのお話、覚えておりませんか? テヅカ様は、誰に封印されたのか」
「え? ええと・・・鳳の・・・おお・・・とり!? その羽!?」
「そういう事です。テヅカ様は何もせずに封印されたのではありません。戦った末に封印されたのです。覚えておりますか? トモヤ様に褒美と差し出された剣。誰と戦う為の剣なのか」
「つまり・・・そうか、そうだったのか・・・」
クレールが重く頷く。
「ここには、鳳の神様が羽を失って落ちた、という伝承が残っております。最初は神様が寝ておられるか、と予想したのですが」
ぱらりと書類をめくると、羽を太陽に掲げて祈る人々の絵。
「これです。鳳の神様の身体の一部があったのです」
「ふうむ!」
「羽が保管されている部屋には、たくさんの学者や魔術師。細かく何の研究をしているのかまでは掴めませんでしたが、間違いないのは、神の力を研究していて、軍がそれを使わんとしている事。でなければ、普通に民間の協力者も募って研究しております。その方がはかどりますもの」
「軍が・・・ですか」
「どんな力があるのかはさっぱりです。空を飛べるようになるのでしょうか」
空を飛ぶという言葉に、ぎくりとアルマダの身が固まった。
もしや、外来飛行物体(※48話参照)のような・・・
あれは神の力の実験だったのか?
「ハワード様?」
「はっ!? あ、いえ。何でも・・・テヅカ様を封印する程の神の力、どのような物かと・・・ええ、少し考えてしまって」
うんうん、とクレールが頷き、ぼすん、とソファーの背もたれに身を沈める。
「それが、あまり危険な神様ではないのです。確かに、戦の神と呼ばれるテヅカ様を封印する程の力はあるのですから、危険と言えば危険ですけど」
「具体的に、どういった?」
「鳳の神様は、ご自身のお知恵とか創造性が優れているのであって、戦に優れているとか、恐ろしい身体を持つとか、そういう神様ではないのです。少なくとも、そういった類の記録はないです。そのお身体は、むしろ神様の中では弱い方なのかもと。勿論、私達と比べたら破格ですけど」
「ふむ」
「お知恵や創造性なんかは、ご自身が持つ知識とか閃きで、特殊な力とかではないですから、いくら研究しても分からないです。確かに神の身体の一部、軍がその力にあやかれたら、と危険は感じますが、今、私達に出来る事は何もないです。運び出すのは無理ですし、神の身体の破壊は難しいでしょうし。魔王様に報せる事が、唯一私達の出来る事です」
「なるほど」
「というわけで、この発見は魔王様に」
「この? 他にもあるんですか?」
クレールがにやりと笑った。
「勿論です!」
なんと悪い笑顔だろう。




