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勇者祭4 米衆連合国編  作者: 牧野三河


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114/132

第114話


 話は米衆連合に戻って、セント=エントーニョイ陸軍基地、訓練区域F山中。

 生き残りを賭けたサバイバル訓練が行われている。


 チェイサー(追い手役)として、カオルとイザベルが皆を襲う。

 訓練者同士も戦わねばならない。

 合格者は最後の1人なのだ。


 残り7名。

 残りは3日。


 追い手役のイザベルとカオルは、単独で別行動。

 入って1日目で、まず最初に接敵した者だけを降し、そこでやめておいた。


 海軍兵は手を組んで1ケ所に固まっていたので、全滅してしまった。

 残り、マサヒデ達一般人が4人。陸軍兵が3人。


「はー・・・」


 カオルが小さな欠伸をして、木の枝の上で目を覚ます。

 流石に熟睡は出来なかったが、見つかる事はなかった。


 目を配り、周囲を確認。

 あの陸軍兵の隠形の術は中々であった。

 ナイフの腕は一級と見る。油断するとカオルでも取られそうだ。


 マサヒデ達は当然だが、兵がここまでとは思っていなかった。

 今日は誰と当たるか・・・



----------



(ふうむ)


 カオルが茂みから飛び出した枝をじっと観察している。


 葉が1枚、落とされている。

 これは自然に落ちた葉ではない。

 枝の高さから、鹿や熊はあり得る。

 葉の付け根は、何かに引っ掛かったのか、ぷつりと落ちたもの。

 鼻を近付けると、まだ薄く臭いがする。葉が落ちたのは最近と分かる。


 しゃがんで地面を確認。形跡は分からない。

 意図的に形跡が消されているのだ。

 動物であれば、形跡は残る。


 これは人だ。

 さて、誰か。


 マサヒデとアルマダは、ここまでの技術はあるまい。

 ただ生存するという事は出来るであろうが、隠れながらという所までは無理だ。


 となると、陸軍兵の誰かか、騎士2人。

 騎士2人は長く冒険者や傭兵仕事をしていたのだから、あり得る。経験が違う。


(さあて)


 取り敢えず落とされた葉という形跡をひとつ見つけたが、ここからどの方向に向かったかが分からない。次の形跡を見つけねば。ゆっくり、慎重に輪を広げながら歩いて行く。


(おっとこちらだ)


 少し歩いて気付いた。

 地面の湿り気が違う。水を探しに来たのだ。という事は・・・


(陸軍兵)


 騎士は間違いなく2人で組んでいる。水は魔術で出せる。

 この上手さはマサヒデ、アルマダではない。

 ならば陸軍兵だ。


 数歩歩いて、地面に手を当てる。先程より湿り気が強い。

 やはり、この近辺には、湧き水があるのだ。


 地面に手を当てたまま、ゆっくりと周りに気を巡らせる。

 待ち伏せの可能性がある。


 陸軍兵はこの山を知り尽くしているだろうから、飲んで既に移動、という事も考えられるが、油断は出来ない。地面には形跡が見当たらないのだ。

 イザベルなら、鼻をひと鳴らしで見つけてしまうだろうが・・・


(くそ。どうしても惑わされてしまうな)


 上手い。忍とはまた違う隠形の技術。これが軍人か。


「ううん」


 感心して、小さく声が出てしまった。

 イザベルが自分を追い手役に選んだのは、ここにも理由があるのだろう。

 情報省の忍は軍諜報部の忍より上と言われるが、こういう所で区別化されるのか。

 だが、自分だって山では散々に叩き込まれたのだ。


(行くか)


 顔の高さに手を挙げて、すうー、と撫でるように左右に動かす。

 空気の湿り気の強い方向は・・・


 カオルが立ち上がって歩き出した。



----------



 ちろちろちろ・・・


 岩の隙間から落ちる、小さな水の流れの音。

 湧き水まで来てしまったが、誰も見当たらない。


 が。


(いるぞ)


 周りは結構濡れている。地面もぬかるんでいる。岩の周りの、ほぼ垂直な傾斜になっている所も、べったりと濡れている。そして、時折、ちらりと視線を感じる。


 誰かが、自分を見ている。何処から見ているのだ・・・


 気を張りながらも、水に何気なく近付いて行く。必ずここに手を伸ばした時に来る。相手はすぐ近くだ。


 上か。いや、居ない。もっと近い。

 地面か。不自然な所は全く見えない。

 だが、本当にすぐ近くに潜んで見られている。


「ん」


 さり気なく湧き水に手を伸ばす。

 ちょろちょろ・・・

 水を手に溜めて、口に持っていった時、湧き水のすぐ横の泥がほんの少し動いた。半寸にも満たない動きである。

 泥の中から、目玉が見えた。白目が見え、黒目がすぐ横のカオルを見ている。べったりと泥を被り、濡れた泥と一体化していたのだ。


(まだ来ないか)


 カオルはまだ気付いていない。

 そして、今度は湧き水に両手を差し出した。思い切って顔も近付けた。

 これだけ隙を見せて、まだ動かない。


(くそ、慎重だ)


 思いながら、水を飲む。


「はあー」


 と息をつき、肩を落とした瞬間、ぴち、と微かに泥が動く音。

 さ! と下がると、自分が居た所に、尖った石が突き出されていた。


「ぬ!」

「く!」


 べちゃりと音を立て、泥の塊が出てくる。


(なんと!?)


 これは分からなかった。


「お見事。全く見分けが付きませんでした」


 びち、と泥が落ち、肌が見えた。

 騎士ではない。予想通り、やはり陸軍兵だ。


 び! と陸軍兵が腕を横に振ると、泥が飛んで来た。

 すいとかがんで避ける。

 続いて足も振り上げられた。

 泥が飛んできたが、これも避ける。


 ナイフを突き出してきた。

 カオルはかがんだまま、ナイフの下から体当たりするように、腰から入った。

 くっと陸軍兵の上体が少し前に。

 瞬間、ぐいっと陸軍兵の内腿がつまむように握られる。


「ぐうっぎ!?」


 突然の激痛に思わず声を上げる陸軍兵。身がぐらっと崩れた。

 カオルが腰を上げると、陸軍兵が背の上をするっと前に回って落ちる。

 受け身を取る余裕もなく、どすん、と、もろに背中から落ち、声を上げた。


「うふっ!」


 しぱ! とカオルが膝を付き、右肘の上に膝を乗せる。

 左手でカランビットナイフを抜き、陸軍兵の首に。

 本来ならこんな面倒な事はせず、一緒に倒れて、首に肘を入れて潰している。


「続けますか」


「いや」


 空いた右手を陸軍兵の腰のポーチに伸ばし、白旗を出して、胸の上に落とす。

 そこでやっと、はあ、と息をつき、首を振る。


「今のは・・・今のは、お世辞抜きに、危なかったです」


 立ち上がって、カランビットナイフをしまう。

 陸軍兵はあぐらになり、べち、と顔の泥を落として、カオルを見上げる。

 そして、つままれた内腿をさすりながら、苦笑した。


「それでも負けた。ふふふ。イザベル様でなくて良かった。どちらが来るか、賭けであった。サダマキさんであれば、もしやと考えていたが、やあ、これは敵わん!」


「見事な隠形です。私、感服致しました」


 ふは、と陸軍兵は笑い、内腿をぺたぺた叩く。


「何を言うやら。それにしてもこれは痛い。しばらく歩けそうもない。リンパを狙ったのか」


「まあ、大体そうです。細かい狙い所はありますが、そこは秘密で」


「大して力は入れていなかったな。だが、凄い痛みだ。これは誰でも崩れる」


「ふふふ。武術ならずとも、人の身体をよく知っておりますと、弱点、攻め方は分かって参ります。医者程に人の殺し方を知る者はおらぬ、と申しまして」


「全くだ! ううむ!」


「では、私、次の獲物を探しに参ります。ふふふ」


「ははは! 恐ろしいものだ! 頑張れよ!」


「では、終了日に」


 さらりと髪を鳴らしてカオルが去っていく。

 その背中には、自分が投げられた時に着いた泥が、べたりと張り付いている。

 細い。体重は半分以下に見える。とても自分を投げ飛ばせる身体に見えない。


「くそ・・・」


 陸軍兵は、腹に塗った泥を取って、べちゃっと投げ飛ばした。


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