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勇者祭4 米衆連合国編  作者: 牧野三河


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第112話


 カゲミツは正座で並ぶ冒険者達の前に仁王立ち。


「これから、ジロウさんと。うちの師範代と、指導員が立ち会う。どっちも腕利きだ。ジロウさんにゃあ敵わねえかもしれねえが、絶対に良い立ち会いが見られると約束する。目ん玉かっぽじって見てろ!」


「「「はいっ!」」」


「じゃ! 俺が審判をするが・・・始める前に、そこの人」


 カゲミツが手前の隅の冒険者を指差す。


「はい!」


「向こうの魔術師さん呼んで来てくれ。治癒魔術が使える人。こいつは剣術の稽古じゃあねえ。殺し合いの稽古だからだ」


「はい! すぐに!」


 ばたばたと冒険者が駆けて行く。


「皆、良いか。ジロウさんが今まで教えてたのに慣れちまったかもしれねえから、注意しとくぞ。あんたらが習うべきは、相手を殺し、自分が生き抜く技だ。あんたらが剣を抜く時は、一本、はいそれまで、で止まる事はねえだろう。違うか」


「・・・」


「逃げるか、殺すか、殺されるか。そういう時にしか抜かねえだろうから、その心構えでこれから稽古するんだ。相手を仕留め、護衛対象や、大事なもんを持った仲間に逃げてもらう、とかな。抜くって時はそんな感じだろ? 違うか」


 冒険者達の空気がぴりぴりと引き締まっていく。

 ナガタニもジロウも引き締まっていく。


「それと。死んでも守るってのは、弱っちい奴の格好つけの言葉だって事は、良く覚えとけ。自分が死んで何とか相手を足止めしました。仲間達は逃げました。新手が来ました。人手が足らずに全滅しました。最悪だろ。自分らだけじゃねえ。冒険者って奴ら全員の信頼もガタ落ちだ。だから、相手を殺し、自分は生き抜くって技術が必要なんだ」


「「「はい!」」」


「お前さん達は冒険者。自覚してなくたって、最初はその心構えで稽古に来てたはずなんだ。冒険者の稽古は、そういう稽古じゃなきゃいけねえんだ。この立ち会いも、そういう立ち会いにする。マサヒデもそうしてたはずだ。見て。学べ。そういう殺し合いの法ってやつをな」


「「「はい!」」」


 魔術師を連れて来た冒険者が座った。

 ん、とカゲミツが頷いて、ナガタニとジロウに顎をしゃくる。


「来い。ここに立ったら開始だ」


「はい!」「は!」


 ナガタニ、ジロウがカゲミツの前で間を空けて立ち、頭を下げた。

 互いに構える。

 カゲミツから開始の合図はなかったが、立ったら始まっているのだ。


 ジロウは正眼のまま、ぴくりとも動かず。

 しばし睨み合った後、ナガタニは、中段から上段に構えた。

 アブソルート流の剣は、マサヒデに見せてもらっている・・・


(む!?)


 ジロウが驚いた。

 さ! さ! さ! とナガタニが素早く左右に動き、上段の剣が振り下ろされた。


 危うく外す。鼻先をナガタニの剣が落ちていく。


 と、さ! と右に回られた。

 目の端にナガタニの剣が振られるのを捉えつつ、くるりと身を回しつつ、正眼で前に出ている小手を落とされないように脇構えに引き、斬り上げ、としようとした所で、ぱっとナガタニは間を空けてしまった。


(一剣流!?)


 ジロウも一剣流は知っているが、こんなに身軽に動く剣、という印象はない。

 相手の剣を待つか誘うかして、擦り落としで割入って一撃必殺。

 それが一剣流の基本だが、このように素早く動いて攻めてくるとは。


(ゾエ派・・・ゾエか。そうか! 猫族の一剣流か!)


 一剣流ゾエ派の足運びの妙技、左右転之秘太刀そうまろばしのひだち

 ナガタニも間を空けて、八相に構え直し、じりりと足を進めつつ、ジロウを観察。


(驚いてはいるが)


 おそらく、他の一剣流に見ない剣で驚いているというだけだ。

 別にナガタニの剣に驚いた、という感じではない。

 すい、と脇構えになったジロウが、正眼に戻る。


(もはや通じまいが!)


 一撃で仕留められなかった、自分の負けだ。

 だが、やるのだ! これは殺し合いの稽古なのだ!

 なんとすればこの男を殺せるか!


 ささ! ささ! ささ! と動く。

 もうジロウは動かず、しかと見定められている。


 ぴたり。


 間の外でナガタニが足を止めた。


「はっ」


 ジロウが小さく声を上げ、驚きで眉が上がった。

 さらに今度はゆるりと動いて前に。


 拍子を外した。取った!

 ぐ! と八相の剣が握られる。

 次の一踏みで取る!


「うっ」


 今度はナガタニが声を上げた。

 す、とジロウが前に出たのだ。

 動こうと足が出掛かった所に詰められたので、もろに隙を作った。


 ぱん! と地を蹴って飛び下がる。


(まだ、まだ機はある!)


 もう左右転之秘太刀は見切られた。

 ならば逆手に取る。


(出させて擦り落とすのだ)


 誘いに使う。振らせろ。

 一剣流の基本、そして奥義、擦り落とし。これで決める。

 決めにくると察したか、ジロウの空気が変わったのが感じられた。


 そして、ジロウが上段に構えた。

 ナガタニの腹も据わった。これで決める!


「参る!」

「応!」


 ナガタニが声を上げ、ジロウも応え、ささ! さ! さ! ささ! と拍子を変えつつ、左右から詰めていく。


 そして、ジロウが踏み込んだ。


(来る)


 大きく振り被ったジロウの柄頭が動いた。来る! 擦り落とす!


 しゅ!


 ナガタニの木剣は、宙を斬った。


「あ・・・」


 誘われたのは、ナガタニの方であった。

 ジロウの柄頭は一瞬だけ動いて止まった。


 アブソルート流奥義、弓引き斬り。じわじわと溜めて溜めて、必殺の一撃。

 そのじわじわと『溜め』を作る動きを、一瞬でしたのである。


 ぶん!


 ナガタニの頭の上で、ジロウの木刀が止まり、ふわりと髪が浮いた。


「そこまでだな。ナタノスケ、お前の剣は掠りもせず、ここで死んだ。下がれ」


 カゲミツの声が聞こえる。自分はここで死んだ。


「は」


 互いに木剣、木刀を納め、礼。

 ふ、とカゲミツが笑った。


「ジロウさん、あんな稽古してるから、もしかしたらと心配しちまったぜ」


「は。申し訳もございませぬ」


 そう言ってカゲミツに頭を下げたジロウは、息の乱れもない。

 ナガタニがすごすごと下がって行くと、マスダがにやりと笑った。


「あいつ、やるな」


「はい」


「楽しみだ。仇は取ってやるぜ」



----------



 ゆっくりと肩を回しながら、マスダが歩いて来る。


「楽しませてくれよな」


 そう言って、ジロウの前に立ったマスダがにやりと笑う。

 暴力。破壊。凶悪。凶暴。

 そういったものを絵に描いたような笑み。


 流石にジロウも気付く。

 これは何人も殺してきた者ではないのか。

 忍のような者ではなく、雄叫びを上げて殺してきたような。


「柔鋼流ですか」


「ああ。そうそう見られるもんじゃあねえぞ。ふっふっふ」


 くくく、とカゲミツが笑って、


「マスダさんよ、なるべく殺さねえでくれよ。一応、稽古だからな。なるべくでいいけど」


「かははは! なるべくで良いか!」


「それとな。ここは地面だから、思いっ切り踏み込んで良いぞ。床が抜ける事はねえから」


「耳が痛え話だぜ!」


 は! とジロウが顔を傾ける。

 ぶん! とマスダの拳が頭の後ろまで伸びている。

 同時に、どすん! と凄い踏み込みの音が、足を伝わってきた。


(いかん!)


 ぱっと横に跳んだ時、頬を何かが掠め、顔が横に振られた。


「ははあ! マサヒデさんはあー、今のおー、避けたぜッ!」


 マスダから目を離さずに、頬に手をやると、指先にべったりと血が着いている。

 ぴくりと頬を動かすと、顔に明らかな違和感。

 引っ掻かれた程度ではない。肉を持っていかれたか。

 横に跳んでいなかったら、顔半分を持っていかれたのでは・・・


「おいおい、マスダさんよ」


 カゲミツの呆れ声。


「分かってるってえ! 殺しゃしねえよ!」


 どすん、どすん、とマスダが歩いて来る。


「ふっふっふ」


 マスダは自分の間合いの外、ジロウの間合いの内という、嫌な所で足を止めた。

 わざと自分の間合いの外に身を置いたのだ。マスダが分からないわけがない。

 だが、マスダは背も高く、素手でもかなりの間がある。

 見下すように顎先を上げ、ジロウを指差した。


「俺は嘘が下手だから、はっきり言うぜ。あんた、俺と立ち会った時のマサヒデさん程じゃあねえ・・・が! 楽しめる腕はあるな! 少しは噛みついてみな」


「・・・」


 ジロウは無言で正眼に構えた。


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