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勇者祭4 米衆連合国編  作者: 牧野三河


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第111話


 ナガタニはたっぷり半刻も待たされた。


「満足!」


 と剣を返され、鞘に納めた頃は、もう昼前である。


「じゃ、ホルニさん、またな!」


「またお邪魔致します」


 カゲミツが、がらりと戸を開け、ナガタニもカゲミツについて出て行く。


「おいおい、中々の物、持ってんじゃねえか」


「は。いや、お眼鏡に叶いまして・・・」


「高かったろう? 鍛冶族のってだけでも値は跳ね上がる。その上、この出来だ」


「父に借金を致しまして。冒険者仕事で何とか返しました」


「ははあ。それで冒険者にねえ」


 喋りながら、橋を渡る。

 橋を渡ってすぐ『イマイ研店』という小さな店。


「ここが研師の店。超一流の研師がここにいる」


「このような小さな店に」


「さっきの鍛冶屋、ホルニさんも超一流だぞ」


「え」


 道場で使う稽古道具で世話になっている、とかではないのか。

 カゲミツがふふん、と鼻で笑って、


「あの人の作は、俺のお宝のひとつに入ってるんだぜ」


「それほどですか!」


「そうさ。で、ここの研師。シロウ=サガワ。剣使ってるなら、名前は知ってるな」


「勿論です。次期人間国宝と名高い研師の、サガワ先生です」


「その弟子だ」


「なんと!?」


「マサヒデの刀は見たか。あいつの刀も、ここの研師、イマイさんが研いだ。しかも三傅流使いだ。マサヒデとカオルさんの抜刀術も、イマイさんの教えがかなり入ってる」


「ううむ!」


「じゃあ」


 がたり。


「ん?」


 がたがた。


「あれ? 留守か・・・あっ! しまった!」


「何か?」


 カゲミツが、ううん、と渋い顔で腕を組む。


「いや、忘れてた。ここの研師さん、夜中まで仕事して、朝は寝てんだ。昼過ぎてからじゃねえと、寝てるんだった・・・」


「あいや、場所は分かりました。カゲミツ先生、後日、自分が改めて」


「ううむ、済まねえ! じゃ、マスダさん起こしに行くか。奢るから、飯、食おうぜ。すげえ美味い店があるんだ。ただの食堂って感じだけど、貴族様も隠れて食いにくるってくらいの店だ」


「そのような店が」


 向きを変え、橋を渡って行く。


「この町にゃ、ブリ=サンクってでけえホテルがあって、レストランがあってな。まあ、国でも名前が売れてるレストランだから、町で1番っちゃそこだけどさ。まずそこの店」


 橋を渡ってすぐ、カゲミツが店の看板を指差す。船宿虎徹。


「ここと、今から行くもうひとつの店。どっちもレイシクランのお墨付きの店だ。平民の安食堂が、レイシクランのお墨付きだ」


「おお! レイシクランのお墨付きを頂いているのですか!」


「そうさ。ここらはちょいと向こうに酒蔵が点々とあるし、土地は肥えてるし、オリネオ豚って名物があるからな。飯も酒も美味い。特に今の虎徹と、これから行く三浦酒天は飛び抜けてるんだ・・・」



----------



 三浦酒天。


「次持って来い!」


 がつがつがつ。


「酒!」


 ごくごくごく。


「ぶへぁっ! 日輪国の酒は美味いなあ!」


 うひい! と言いながら、マスダが口を拭う。


「酒は程々にな。あんた、酒臭え息吐いて、おう、一手頼む! なんて言うなよ。恥ずかしいから」


「俺は気にしねえぞ」


 ふふん、とカゲミツが笑って、マスダの徳利を箸でつつく。


「そうかい? とんとんかもって腕の相手とやり合おうってのに、酔っ払ってて良いのかい? 恥ずかしい姿にならなきゃ良いな。天井睨むような真似するなよ」


「んっ・・・むむ」


「言っとくが、五分五分ってのも、俺の予想でしかねえぞ。予想だからな。しばらく見てねえんだから。思ったより腕が上がってるかもしれねえし」


 どん、と大杯が置かれた。

 カゲミツがにやりと笑って頷く。


「そうしといた方が良いぜ。お前さん、金はあるんだから、いつでも呑みに来れるだろ。何なら、帰りに樽でも買ってけよ。軽いもんだろ」


「あ、そうするか! じゃ、おすすめの一品ってどれ?」


「酒」


「今呑むなって言ったばっかじゃねえか」


「マツさんは照り焼き。ああそうだ! お前さん魔族だからな、マッリーとか」


 うん? とマスダが怪訝な顔で首を傾げる。


「マッリー・・・マッリー・・・ううん・・・何だっけ? 聞いた事はある、ような、ないような・・・聞いた事はあるが」


 はて? とカゲミツも眉を寄せる。


「あれ? 魔の国の出なら、まずこれって感じだろ?」


「いやあ、ほっとんど山暮らしだったからなあ。魔の国じゃ、まともな料理ってのはあんま食った覚えはねえなあ。むしろ米衆連合の料理の方がって感じだ」


「そうか。じゃあ、試してみるか? 魔の国の郷土料理って感じのやつらしい」


「そうだな」


 ばん! ばん!

 マスダがでかい手を叩くと、店員がすっ飛んでくる。


「はははーい!」


「マッリーってやつをくれ!」


 ちみちみ・・・

 豪快な2人の横で、ナガタニがちまちま箸を進めていると、ばん! とマスダが机を叩いた。


「ナガタニさんよ!」


「は!?」


「葬式みてえな食い方してんなよ! もっと食えって! 指導やってると、すげえ腹が減るぞ!」


「あ、はい」


 マスダを見ているだけで、腹いっぱいだ。

 もう何皿食ったのだ?



----------



 そして―――


 ぎぎい・・・と、オリネオ冒険者ギルド訓練場の重い扉が開いた。


「おおっ」「おおっ!」


 ナガタニとマスダが同時に声を上げた。

 ここで、マサヒデは300人抜きの試合を行ったのだ!

 300人相手に無敗!


 ジンゴロウの息子、ジンノジョウと勝負したのもここ!

 マスダもあの立ち会いには驚愕した。

 虎族の目をもってしても見えぬ抜き打ちを、柄で受け止め、低く踏み込み刺す!


 あの放映は、見ているだけでも息が詰まった。

 マスダは地下闘技場の自室で観戦していたが、マフィアに聞いた話では、通りが静まり返り、勝負がついた瞬間に大歓声が上がったそうな。


「ここでマサヒデ殿が!」「ここでマサヒデさんが!」


「そうだよ。ここで指導してたの」


「ん・・・」

「はい・・・」


 2人の感動はそこではないのだが、次の言葉でぴりっと緊張した。


「あれがジロウさん」


 カゲミツが指差した大柄な男。

 ぱしん! と竹刀で向き合った冒険者の槍を払い除け、軽く踏み込み喉に切先。

 見事だ。

 一分の隙も見えない。


「あれが」


 次! とジロウの声が聞こえ、はい! と木剣を持った冒険者が立ち上がる。

 冒険者が、ぐわっと上段に構えた瞬間、すっと正眼に構えたまま、ジロウが出る。

 喉元にぴたり。

 竹刀を動かしてさえいない・・・


「おお、少しは腕上げたな。うんうん。でもありゃあ駄目だな」


「何故でしょう? あれはもう勝負ありでは」


「いや、稽古なら、な。真剣勝負だと、相打ちだぞ」


「どこがでしょう。完封していますが」


 む、とカゲミツが眉を寄せ、


「ナタノスケ。あのな、相手も刃物だろ? あの状況、こっちが先に喉をぶっ刺したって、遅れてても振り下ろされてたら、こっちの頭もかち割れるだろ」


「あっ・・・確かに、確かにそうです」


「違うんだよ。冒険者が求める剣術はそうじゃあない。実戦の剣なんだ。生きる剣なの。ここ、分かるだろ。斬り合いってのは、一本、そこまで! で終わらないんだ。相手のが遅くても、振られてたらこっちも死ぬってのが本番なんだ」


 甘かった! ナガタニは拳を握りしめ、頭を下げた。


「はい!」


「冒険者が抜く時ってのは、試合じゃない。殺し合いの時ってのが殆どなんだぜ。あんたも冒険者仕事してたなら、分かってるはずだろ?」


「はい!」


「よし。お前、指導員なんだ。トミヤス流の道場で、道場剣法の指導すんじゃねえぞ。そこん所、考えた剣を教えるんだ。マスダさんは、ちゃあんとそこ分かってる。ジンゴロウ先生も分かってる。だから師範代なんだ。分かってなきゃ、ただ技術を教えるだけの指導員止まりだ」


「はい!」


「ちょっとジロウさんにも注意しねえとなあ・・・行くぞ」


 ざす、ざす、ざす・・・

 3人が歩いて行くと、あ! とジロウが顔を向けた。


「いよう! 久しぶり!」


「カゲミツ様!」


 がば! とジロウが頭を下げ、ずらりと座った冒険者達も頭を下げる。


「皆も聞いてくれよ! 新しくトミヤス道場に来た師範代と指導員を紹介するぜ! ほら、マスダさん」


 ぱあん! とマスダが手に拳を叩きつけ、うわあ! と凶悪な笑みを浮かべる。


「ショウジ=マスダ! 柔鋼流! 見ての通りの虎族様よ! かははは!」


 何! とジロウが目を見開き、冒険者達に圧をかけているマスダを見つめる。

 門外不出の柔鋼流か!


「これが師範代! 次、指導員! ナタノスケ!」


 続いて、ナガタニが頭を下げ、


「昨日、トミヤス道場に入門致しました! ナタノスケ=ナガタニです! 一剣流ゾエ派を学んでおりました! 冒険者として働く事もございますので、皆様、宜しくお願い致します!」


「「「宜しくお願いします」」」


 うん! とカゲミツが頷き、


「よし! じゃあ挨拶が終わったからー・・・ジロウさん!」


「は!」


「あんたの指導に指導!」


 カゲミツが真剣な顔で、先程ナガタニに言った注意をジロウに話す。

 は! とジロウが頭を下げ、申し訳ありません、と冒険者達にも頭を下げた。


「ジロウさん、道場じゃマサヒデと競ってたかもしれんが、あんな教え方じゃ、指導で完全に負けてるだろ。あんた道場主だろうが。指導で負けててどうする」


「は! 情けない限り!」


「よし。次の指導から改めろ。その為に、こいつらと手合わせしてくれ」


「は?」


 にやりとカゲミツが笑った。


「殺し合いの指導、やってみな。先手はナタノスケだ」


「俺じゃねえのかよ!?」


 マスダが不満の声を上げたが、カゲミツは呆れ顔を向け、


「何言ってやがる。こういうのは強い方が後に出るもんだろうが」


「あ、ああ! そういう事!」


「当然だろ」


「そうだよな。すまねえ、待ってたもんだから、つい! つい、な? ははは! やー、うっかりうっかり!」


 くす、とカゲミツが笑う。

 マサヒデもこういう苦労をしているだろう。

 こういった所は、シズクもマスダもそっくりだ。


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