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勇者祭4 米衆連合国編  作者: 牧野三河


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第110話


 オリネオ魔術師協会。


 ナガタニが案内されるまま、居間に通ると、お! とカゲミツとマスダが顔を上げた。カゲミツが上座、床の間の前。


「おう、早かったな」


「待たせるなよ」


「は、申し訳も」

「ナガタニ様」


 すぐ背後からの声に、びく! と肩を竦める。


「わーははは!」

「がはははは!」


 カゲミツとマスダが声を上げて笑う。

 マスダが空いた座布団をばんばん叩き、


「ほら! 座れって!」


「は・・・では、失礼を」


 す、す、とゆっくり座布団へ。

 武術が染み込んだ身体は、いつでも外に飛び出せるように、緊張している。

 うなじの毛がぴりぴりと立っているのを感じる。


「・・・」


 ナガタニが緊張の顔で座ると、くす、と女が笑った。


「マサヒデ様とハワード様が初めて来た時とそっくり」


「は・・・」


 女がナガタニの前に、茶と落雁を置く。


「ぷ」


 女が小さく笑って、口に手を当てながら、縁側の手前に座る。


「ぷぷ・・・ナガタニ様、驚かせてしまいした! おほほほ!」


「は」


「いつもあんな事は致しません! 悪戯をお許し下さいませ!」


「ははははは!」

「がはははは!」


「は・・・」


「うふ、うふふふ。マサヒデ様が初めて来た時も、同じ悪戯をしました! ハワード様なんか、私が幽霊じゃないか、なんて!」


「はーははは! まじ!? あいつそんな事言いやがったのか!」

「がはははは! 幽霊ってか!」


「は、は? 悪戯?」


「はい! そうです! おほほほ!」


 かくり、とナガタニの肩が落ちた。

 カゲミツもマスダもマツも、声を上げてげらげら笑っている。


「もう・・・もう」


「ははは! ナタノスケ、そうがっくりすんな! マツさんはすげえ魔術師なんだから! 人の国でも3本の指に入るってくれえの!」


「えっ!」

「あれっ、そうだったのか?」


 ナガタニと一緒に、マスダも驚いてしまった。

 が、マスダはすぐに落ち着いた。


「あ、それもそうか。魔王様の」

「げふん!」

「娘さんだもんなあ」


「おいっ!」


「ええっ!?」


 カゲミツは慌てたが、マスダは話してしまった。もう遅い。

 ふう、と溜息をつき、カゲミツが身を正す。


「ま、まあ、いいや。ナタノスケ、落ち着いたら話すつもりだったんだよ。別に隠す事じゃあねえが、その辺でべらべら喋るなよ・・・マスダさんもなあ!」


 ぎらりとカゲミツの目が光り、マスダを睨む。


「す、すまん・・・すみませんでした」


 7尺もあろうマスダが、猫のように身を縮こまらせている。


「まあまあ、お父上」


「まったく・・・軽々しく話していい事じゃあねえってくらい、分かるよな!」


「はい」「は!」


「なら良いや。じゃ! マサヒデの息子! 俺の孫! 見てくれ!」


 ばさ、とカゲミツが床の間の袱紗を取った。

 下から現れたのは、禍々しさの象徴とでも言うような、黒く、鱗があって、鱗の隙間からは真紅の肌? が見えている、恐ろしいタマゴ。


「・・・」「・・・」


 さすがのマスダも絶句してしまった。


「どおだい!」


「・・・う、うん! 黒くてかっこいいじゃねえか!」

「は! 全くその通りで!」


 じー、とカゲミツとマツが2人の固い笑顔を見つめる。


「嘘言うなよ」

「お顔に出ておられますよ」


「すまん」

「申し訳もございません」



----------



 茶を飲んで、魔術師協会からはすぐに出た。


 マツも仕事がある。

 ナガタニには鍛冶屋と研師には案内しないといけない。

 だが、マスダには鍛冶屋も研師も必要ない。しかも、職人街なのだ。


「さてと。マスダさんよ」


「うん?」


「これから職人街に行く」


「ああ」


「多分、あんたには堪らねえ所だ。すっげえ臭えぞ」


「ふうん?」


「まあ・・・まあ行けば分かるか。あんたには用のねえ所だから、ギルドの訓練所で遊んでてもいいし、マツさんの所で寝てても構わねえが、取り敢えず来るか?」


「まずは行ってみねえとなあ・・・」



----------



 そして職人街の手前で―――


「もう無理! 俺は帰る!」


 マスダが鼻を押さえ、げふげふむせながら声を上げる。

 はあ、とカゲミツが溜息をつき、


「だあと思った! まだ帰るなよ! マツさんの所で昼寝でもしてな」


 マスダは頷いて、すっ飛んで来た道を戻って行った。


「こうなると思ったぜ」


「獣人族のお方にはきついでしょうね」


「イザベルさんも苦労したみてえだしな。さ、行こうぜ。まずは鍛冶屋だ」


「はい」



----------



 そして最初に案内されたのが、ホルニ工房・刀剣専門店。


「ここ。ラディちゃんの親父さんの店」


「ラディ・・・確か、眼鏡の治癒師の」


「そうだよ」


 がらり。


「いらっしゃーい!」

「む、カゲミツ様」


 珍しく、ホルニの方も店の方に。2人で帳簿らしき物を見ている。


「おう、ホルニさん! うちの新しい指導員だ!」


 ぐ、とナガタニの背が押され、前に出される。

 たた、と少したたらを踏んで、足を止めて前を見る。

 背の高いごつい筋肉の男と、40前くらいの女。

 これが、あの治癒師の親で、鍛冶師か。


「ナタノスケ=ナガタニと申します」


 ナガタニが頭を下げると、2人も頭を下げた。


「む、宜しくお願い致します」

「宜しくお願い致しまーす! ご贔屓に!」


 ずいとカゲミツが前に出て、


「こいつ、そこそこ剣も使うし、金がねえから冒険者仕事もすると思う。世話になると思うから、よろしく頼むぜ。さてナタノスケ!」


「は」


 にやりとカゲミツが笑って、ナガタニの腰を指差す。


「お前の得物! 見せてくれよ! それを楽しみに来たんだ!」


「それは構いませぬが」


 カゲミツがにこにこしながらホルニに顔を向け、


「ね、ホルニさん聞いて! こいつ、ゾエの一剣流道場の宗家に指名されてんの! 10年後は宗家!」


「おお!」


「その腰の物は、どーんな物かな! 看板に見合う物かなー!」


 ナガタニが慌てて手を振り、


「いや、大した物では!」


「まあまあまあ!」


 ぱすん! とカゲミツがナガタニの腰から剣を抜いて取ってしまった。


「あっ!?」


 驚いて声を上げた時には、もうカゲミツはホルニと並んで剣を立てている。


「どおれどれ・・・お。ホルニさん見て」


「この肌の詰み具合、鍛冶族の作ですな。間違いない」


「だな。見ろよここ。この柾の詰み! これあ良いぞ」


「鎬のこの山の具合がまた・・・良いですな。剣にしてはやや低めですが」


「かといって薄くもない。絶妙だぜ」


「整った美を感じます。これは良い職人が手掛けたに違いありません・・・」


 ぶつぶつ言い出した2人の向こうで、カウンターの女がナガタニを手で招き、横の椅子を指差す。頷いて座ると、しー、と口に指を当て、手で「お茶」と作って、奥に入って行った。


「この刃の作り方よ」

「先に行く所がこう」

「だよな。この剣先に入るここ。ここよ」

「ううむ、この横手は中々に」


 2人は夢中になって顔をくっつけ、ナガタニの剣に顔を寄せている。


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