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勇者祭4 米衆連合国編  作者: 牧野三河


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105/132

第105話


 訓練区域Fの山中。


 マサヒデ達が山に入り、10日が経った。残りはもう4日である。

 イザベルはテント内の名簿を取り、ふんふん、と頷いて、


「カオル殿、これは驚きました。脱落者がたったの3人」


「おや? これは意外。皆様、頑張っておられますね」


「サクマ殿、リー殿」


 ぴく、とイザベルの眉が動く。


「ローレンス・・・一等陸尉」


 何だ? どうしたのだ?

 カオルがイザベルを見ていると、ばさ! と名簿を机に投げる。


「ちっ! 二等陸尉も参加しておりますに、此奴、何をしておるやら・・・上官であろうが」


 カオルが苦笑して、まあまあ、とイザベルを抑えるように両手を出す。


「イザベル様、時の運もございます。マサヒデ様やハワード様と鉢合わせた、などかもしれませぬし」


「まあ・・・はい」


「それに・・・こういう場合、職ではなく、個の力が試されるもの。尉官ともなりますと、個の力よりも指揮能力を重視されるのでは」


「はい・・・まあ、そうですが」


 むっすりとイザベルが拗ねているが、カオルは笑った。


「さて、我々もそろそろ参りましょう」


 カオルの手に、くるん、と見事に艶消しされたカランビットナイフが回る。

 マサヒデの愛刀、雲切丸を手掛けた名研師、イマイが手掛けた一品。


「私はこのナイフで」


 イザベルは机の上の鞭を取った。


「では私めはこれで」


 ぷ! とカオルが吹き出した。


「おお怖い! 鬼軍曹は山にも現れますか! あれや天狗と思われるやも」


「ふふふ。天狗はカオル殿では。さて! どこから参りましょうか!」



----------



 山の入口、と言っても明確な道というものはないが、そろそろ傾斜が、木が、といった所で、イザベルが足を止めた。


「カオル殿、はや10日が経っております。我らは元気一杯。私達が組みますと、皆、歯も立ちますまい。流石にマサヒデ様、ハワード様も仕留められましょう」


「おやおや! これは大きく出られました!」


 笑いながらも、カオルも同じ事を考えていたようで、にやにやしながら頷く。

 イザベルは右手の鞭を右に向け、


「と言ったわけで、私はこちら側を見て参ります」


「はい。では私は左でございますね」


 笑顔で頷き合い、2人はそこで分かれていった。


「わーれらは魔王軍ー♪ 世界最っ強の歩兵隊ー♪」


 イザベルが歌を歌いながら、木の立ち並ぶ山に入っていく。

 カオルはそれを見送ってから、山に向かって歩いて行った。



----------



「ふんふふふ、ふーんふんふーんふーんー・・・」


 イザベルが鼻歌を歌いながら歩いて行く。


(おやおや!)


 固まった臭い。1人ではない。2人、3人、もっと。


(やれ小賢しい臆病者よ。手を組みおったか)


 まあこうなるかとは十分に予想していた。

 組んでいるのは・・・


 ぷち。

 ぶうん!


 恐ろしい勢いで、しなって止められた太い枝が、恐ろしい音を立てて振られて来た。

 が、イザベルは何事もなく、ぱしっと手で受け止めた。


「ほうほう」


 同じ場所に足元にも。

 足で軽く蹴ってみる。


 ぷち。

 ぶうん!


 こちらも、イザベルのブーツの底で、がつんと軽く止められた。


「んん・・・まあまあ、かな」


 もう少し欲しい所。

 上下2重に仕掛けてあるから、合格はやるか。

 イザベルでなくとも、マサヒデやアルマダは勿論、騎士達にも止められるだろう。


 イザベルであれば、これを囮に、同じような仕掛けを他に作っておき、連動させる。

 その他の方には、石をスリングのように飛ばすようにするか。

 頭に当たれば、うっかり落とした西瓜のように、ぱかん。


 そこまで凝らなくても、この下に小さな落とし穴などはどうだ。

 L字型に浅く掘り、足が抜けないようにする。こうすれば避けられない。

 穴を掘る手間など、大したものではない。

 このくらいはしてほしかった。


(そこまでは欲張りすぎか。が!)


 上下2本。ただ、太い枝が張ってあるだけ。

 イザベルとカオルが追うぞ、とは言い含めてあった。


 これがイザベルに直撃しても止められない。

 あくまで人族相手にしかなっていない。

 勿論、人族なら止められる。直撃したら一発でノックダウンだ。


 頑丈な狼族のイザベルが追って来るぞ!

 分かっているなら、枝の先に、石や杭でも結んでおくべき。


 手と足で止めた枝を、頭を下げてくぐり抜け、枝の向きを反対にして、罠を仕掛け直す。


「ふふふ」


 この先には人が固まっている。海軍兵だ。

 ここから先はトラップ地帯。

 罠を全部仕掛け直してやろうか。飛び込んで逃げ出したら面白かろう。


(ま、それほど時間もないか)


 残念だが、真っ直ぐ行くか・・・



----------



 さてカオルの方は。


(くくく)


 カオルが腕を組んで立っている枝の下には、陸軍兵。

 浅く穴を掘り、上には落ち葉。すぐ側には、解体しかけの新しい鹿の死体。


 中々凝ったものだ。

 やれ食料、と警戒しながらも寄って来る。

 これは罠では? 誰も居ないのか? それとも近くに?

 恐る恐る鹿に手に掛け、肉を切り出した所で、というわけか。


(他の参加者を舐めているな)


 誰も引っ掛からないだろう。

 だが、この隠形は一般の者にしては中々。

 これはイザベルでも、目だけでは分かるまい。鼻ですぐバレる・・・


(あ、なるほど!)


 鹿の遺体は、血の香でイザベルの鼻を誤魔化す為だ。

 万が一、誰ぞ引っかかればおまけに、という程度。

 やれやれ呆れたぞ、などとイザベルが様子を見に来たら、という訳だ。


(そうか! この者は最初からイザベル様狙いであったか!)


 中々、肝が据わっているではないか!


「ちち、ちちち・・・ひゅい、ひゅい・・・ちちち・・・」


 小鳥の鳴き声。

 勿論、カオルの口から出た音。


(くくく)


「ちちち! ち! ち!」


 かさ。

 ほんの少し、落ち葉が動いた。


「!」


 カオルには、目線がばっちり合ったのが分かった。

 息を飲む音が聞こえた。


「くくく・・・白旗を上げても良うございますよ」


 静かな声であったが、隠れている者にはばっちり聞こえたはずだ。

 ばしゃっと葉を撒き散らし、下から兵が飛び出てくる。

 手には石の短槍。


「ははあ」


 するん、と滑るように、カオルが枝から落ちてきて、ふわりと地に降りる。


(陸軍兵か)


 顔を黒く塗っている兵が、ぎょっとしたのが見えた。

 カオルが下りた時、かさ、とほんの少し葉が鳴った程度で、ほとんど聞こえなかったのだ。声を掛けられなかったら、真横に下りられても気付かなかったに違いない。


 風が吹いて、かさかさと枝が揺れ、ぱらぱら、と落ち葉が流れていく。


 どきりとして、陸軍兵の腰が引けたのが見えた。


(そこまで驚く事もあるまいに)


 カオルは思わずくすっと笑ってしまったが、軍人達は皆、カオルは山伏が使う密教術なる未知の魔術のようなものを使うぞ、と聞かされている。

 忍の術を使った時にバレないよう、マサヒデとアルマダが先に言っておいたのだ。


 そして、最も得意なのが、風の神を下ろす術である、と。

 風が吹いて腰が引けるのも当然だが、そんな事を言われていたなどと、カオルは知らない。


「ふふふ。お逃げになっても構いませぬが」


 かさかさ、と風に吹かれた落ち葉が転がっていく。


「私から逃げられましょうか」


「ふ!」


 突き出された短槍を、軽くナイフで左上に流す。

 左手で手刀を入れると、短槍がいとも簡単に折れてしまった。


「ふふふ」


 折れた短槍が投げつけられ、一瞬遅れて、落ち葉と泥が蹴り上げられる。


(中々)


 ひょいと横に避ける。

 短槍に目が取られていると、もろに泥を被った所だ。


「今のは良うございました。ささ、続けましょう」


 陸軍兵は、ベルトに挟んでいた、石のナイフのようなものを抜き、半身で腰を落とした。


(諦めぬか! 流石!)


 感心しながら、カオルが手を軽く動かすと、くるりとカランビットナイフが出て来た。


「良いナイフです。私はこのナイフで」


 一歩踏み出した瞬間、は! とカオルが半身になった。


「ん・・・」


 陸軍兵が半身になって隠した左手に、いつの間にか石が握られていた。

 顔に投げつけると同時に、腹にナイフが来た。


 しかも、石を投げる一瞬、ちらりと目を動かした。

 目でフェイントまで入れてきたのだ。

 これはかなりの高等技術。


「流石!」

「ぬ!」


 引かれたナイフと一緒にカオルが踏み込む。

 ナイフが引かれると同時に、などと出来る事ではない。

 上級者同士のナイフの場合、どこでも良いので、斬るか刺すか。

 少しずつ弱らせる、ただ速さのみの動き。中々急所には入らないからだ。

 それに合わせて体ごと前に出てくるなど、とてもあり得ない。


「何!?」


 陸軍兵が声を上げた時には、カオルは真横に立ち、ナイフを首に当てていた。


「動くと死んでしまうので、動かないで下さい」


「・・・」


 三日月の曲線のカランビットナイフの内側が、びたりと首に当たっている。

 こくん、こくん、と首が脈打つたびに、ナイフの刃を感じる。


 カオルの左手が伸び、ぱちん、と陸軍兵の腰のポーチを開け、白旗を出す。

 ぺん、と腕に乗せて、ナイフを引いた。


「流石の動きでしたが、失格です。山を下りて下さい」


「はい」


 陸軍兵が石のナイフを放り投げ、右手で旗をひらひら振りながら歩いて行く。

 去ってから、


「ふう!」


 と、カオルが大きく息をついた。

 たった一突きの攻防であったが、何重にも重ねられた一突きであった。


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