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第62話 獄吏の覚醒

「殺しちゃっていいんですか?」

 侍女の声が興奮で上ずっている。

 井戸での騒ぎを聞きつけてやってきたラゴウが、顔をしかめる。

「おい」

 シキが言う。

「黒幕を吐かせてからだな」

 その瞬間。

 ユイが跳ねた。

「きゃあ!」

 両手を振り上げる。

「拷問していいんですか!?いいんですかいいんですね!?」

 くるくるとその場で回る。

「爪を剥して骨を砕いて眼球つぶして再起不能にしちゃった後でやっぱり五体満足のまま生かしとけとか、ナシですからね!?」

「久しぶりー!」

「腕がなるー!」

「血がうずくー!」

「どんな器具使おっかなー!」

 ラゴウは頭を抱えた。

「・・・お前・・・いったい・・・」

「うふっ」

 こらえきれない満面の笑みで。

「姫様、内緒にしてましたが、実はわたし!」

(・・・なんか、聞きたくない)

「3年前に拷問やりすぎて重罪人殺しちゃって獄吏を罷免されたんですー!でもでも、もうちょっとで吐くとこだったんですよ、ちゃんと吐かせてたら大功績で獄舎の看主に抜擢される予定だったんですから!!最年少の草原看守だったんですよー!!」

 えっへん、と胸を張る。

 ラゴウはげんなりと肩を落とす。

 拷問をやりすぎて、草原を追放されるような形で、異国に嫁ぐ王女の侍女につけられたのか。

「3年前にだいぶ没収されちゃったけど、けっこう隠し持ってる器具とかあるんですよぉ」

 男が震える。

 その震えを、ユイは楽しそうに見下ろした。

「大丈夫大丈夫」

 しゃがみ込む。

 目線を合わせる。

 にこっと笑う。

「すぐ終わるから」

 男が叫ぶ。

「や、やめろ!俺は命令されただけだ!」

「誰に?」

 即答。

 男は口をつぐむ。

 ユイは首を傾げた。

「つまんないなあ」

 立ち上がる。

 袖をまくる。

「ねえ」

 振り返る。

「これ、どこでやります?」

 シキがため息をついた。

「・・・裏に連れていけ」

 ユイの顔がぱっと明るくなる。

「やったー!」

 振り返る。

 男を見下ろす。

 その笑みは、さっきまでの侍女のものではなかった。

「逃げないでね」

 やさしく言う。

「逃げたら、ゆっくりじっくり、時間かけて、壊すから」

 男の顔が、完全に引きつった。


 人気のない裏庭は、静かだった。

 石壁。

 湿った空気。

 鎖に繋がれた男が、震えている。

「・・・助けてくれ」

 掠れた声。

 ユイは首を傾げた。

「助ける?」

 にこっと笑う。

「誰を?」

 男の顔が引きつる。

「お、おれは命令されただけだ!」

 ユイはゆっくりしゃがみ込んだ。

 目線を合わせる。

 逃げ場を塞ぐように。

「誰に?」

 沈黙。

 ユイはにっこりと笑った。

「だよね?ここであっさり暴露されたら、あたしのお楽しみがなくなっちゃう」」

「・・・ひっ・・・」

 立ち上がる。

 靴の裏に隠してあった、小さな銀の器具を取り出す。

 光を反射して、鈍く光る。

 男の目が見開かれる。

「ま、待て!」

 ユイは振り返る。

「安心して」

 にこっと笑う。

「まだ痛くないから」

 男が叫ぶ。


 ◇ ◇ ◇


 静かな足音。

 ラゴウだった。

 その後ろに、シキ。

 さらに、少し遅れてツクヨミが入る。

 空気が違った。

 鉄と血と、湿った石の匂いに、もうひとつ――甘く冷たい匂いが混じっている。

 男は鎖に繋がれたまま、崩れていた。

 息はある。

 だが、もはや声は出ない。

 ラゴウは一歩進む。

 足元で、何かが軋む。

 砕けた爪。

 血に濡れた布。

 見慣れない小さな器具が、いくつか転がっている。

 ユイが振り返った。

 顔はいつも通り、にこやかだ。

 だが、その目だけが、やけに澄んでいる。

「終わりました」

 軽い声だった。

「井戸に撒かれていた粉の正体、吐かせました」

 ラゴウの視線が男に落ちる。

 ユイは、楽しそうに少しだけ首を傾げた。

「白い花を乾燥させて砕いたものだそうです」

 ユイは、一歩、男に近づく。

 靴先で、男の顔を少しだけ上げる。

「名前も、ちゃんと聞きましたよ」

 ラゴウが問う。

「・・・何だ」

 ユイはにこっと笑った。

「――月白花、だそうです」

 その名が、静かに落ちる。

 シキの視線がわずかに動く。

 ツクヨミは、何も言わない。

 ただ、その指先だけが、ほんの一瞬止まった。

 ――ほんの、わずかに。

 ラゴウの目が細くなる。

「・・・それで?」

 ユイは、嬉しそうに頷いた。

「粉にして、水や薬に混ぜていたみたいです」

「効果は?」

「一時的に症状を抑えます」

 さらりと言う。

「でも、身体の反応を鈍らせるだけなので――量を間違えると、ああなります」

 男を見下ろす。

 ぴくりとも動かない。

「誰の指示だ」

 ラゴウの声が低く落ちる。

 ユイは一瞬だけ困ったように眉を下げた。

「そこまでは、もう少しだったんですけど」

 視線が、横に流れる。

「途中で、切れちゃいました」

 軽い言い方。

 だが意味は明白だった。

 沈黙。

 シキが、ゆっくりと口を開く。

「……早いな」

 ツクヨミは肩をすくめた。

「口が軽そうだったから」

 軽い声。

 何もなかったかのように。

 ラゴウは何も言わない。

 ただ、男を見下ろす。

「……月白花」

 もう一度、呟く。

 その名だけが、地下牢に残った。

 ユイが、ふっと息を吐く。

 満足したように。

「久しぶりに、全部使えました」

 くるりと振り返る。

「次は、もう少し早く呼んでくださいね」

 にこっと笑った。

 まるで、仕事を終えた侍女のように。


第62話までお読みいただき、ありがとうございます。


ユイの本領発揮回でした。

そして、はじめて名前が出た「月白花」。


まだすべては見えていませんが、少しずつ繋がり始めています。


次回は、この花の正体に近づきます。

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