表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/79

第29話 統制を無視する最強の女

 

「第二試験――集団戦」

 ルシアンの声が、響く。

「五人一組」

「隊を編成し、模擬戦を行う」

「評価基準は――統制」

 短く、それだけ。

 隊が編成される。

 ガレス。

 ツクヨミ。

 ラゴウ。

 同じ隊に編成される。

 残り二名は、騎士団の出身だ。

 ガレスが前に出る。

「配置を決める」

 迷いがない。

「俺が前衛」

「右を任せる」

 ラゴウを見る。

「指示通りに動け」

 ラゴウは肩をすくめる。

「善処する」

「善処では困る」

 ガレスは明確にラゴウを牽制する。

「集団の駒としての統制を守れ」

 合図。

「――開始」

 ガレスが踏み出す。

 正面を受ける。

 崩れない。

 味方を守る。

 完璧な前衛。

 ツクヨミが動く。

 静かに。

 いつの間にか、必要な位置にいる。

 穴を埋める。

 崩れない。

 ラゴウも動く。

 だが。

 一歩、外れる。

 隊列から。

「戻れ!」

 ガレスの声。

 ラゴウは止まらない。

「遅い」

 敵の側面へ回る。

 踏み込む。

 一撃。

 一人、崩す。

 だが、その瞬間。

 前線が薄くなる。

「前が空いた!」

 味方が叫ぶ。

 ガレスが踏み込む。

 受ける。

 押し返す。

 だが。

 わずかに押される。

(……足りない)

 ツクヨミが動く。

 半歩。

 ずれた位置に入る。

 穴が埋まる。

 何もなかったように。

 戦闘は続く。


 ラゴウは止まらない。

 指示を無視。

 流れを追う。

 崩す。

 繋ぐ。

 また崩す。

 隊の形は崩れている。

 だが。

 敵が先に崩れる。

 最後。

 ラゴウが踏み込む。

 決める。

 沈黙。


「……勝利」

 ルシアンの声。


 だが。

 空気は、静かではない。

 ガレスがラゴウを見る。

「なぜ従わない」

「勝っただろ」

「過程が問題だ」

「結果が全てだ」

「違う」

 ガレスの声が低くなる。

「隊は、一人で戦う場ではない」

 ラゴウは笑う。

「じゃあ言うけど」

 一歩、近づく。

「さっきのままなら、負けてたぞ」

 沈黙。

 ガレスは答えない。


 だが、分かっている。

(……事実だ)

 ツクヨミが、静かに言う。

「どちらも正しいよ」

 二人が視線を向ける。

「統制がなければ崩れる」

 一拍。

「でも」

「流れを掴む者がいれば」

「配置は変わる」

 沈黙。

 ガレスは視線を落とす。

(……そんな理屈が、許容できるか)

 だが。

 否定もできない。


 ルシアンが前に出る。

「評価を行う」

「ガレス――統制、維持、判断・・・・・優秀」

「ツクヨミ――柔軟な対応、位置取り・・・優秀」

 一拍。

「ラゴウ」

「統制を乱す、指示無視・・・評価は極めて低い」

 ラゴウは肩をすくめる。

「……だろうな」


 遠くで、王が見ている。

(……違うな)

 ラゴウを見る。

(あれは、崩したのではない)

(流れを奪った)

 ふ、と王は可笑し気に笑う。

「……油断のならないひとだ」

 ――目が離せない。


 ◇ ◇ ◇


 演習場の端。

 試験を終えたばかりの空気が、まだ熱を残している。

 ラゴウは肩を回しながら、小さく息を吐いた。

「……微妙だな」

「何がだ」

 低い声。

 振り向くと、ガレスが立っていた。

 背筋は真っ直ぐ。

 鎧の隙間すら、乱れていない。

 さっきまでの戦いと同じ姿勢のまま。

「全部だよ」

 ラゴウは軽く笑う。

「剣は噛み合わないし、槍は最悪。騎射だけだな、まともなのは」

「自覚はあるようだな」

 ガレスは淡々と言う。

「ならば、修正しろ」

 ラゴウは片眉を上げた。

「簡単に言うな」

「簡単なことだ」

 一歩、近づく。

「型を守れ」

 ラゴウは鼻で笑う。

「型で勝てる相手ばかりならな」

「勝てる」

 即答だった。

「型は、最も効率的に生き残るための体系だ」

 一拍。

「逸脱は、死を招く」

 ラゴウの目が細くなる。

「……それで勝てるなら、さっきのは何だ?」

 ガレスの眉が、わずかに動く。

「隊が崩れてたぞ」

「お前が崩した」

「だから勝った」

 沈黙。

 ガレスは視線を外さない。

「違う」

 低く、言う。

「偶然だ」

 ラゴウは肩をすくめる。

「偶然でも、結果だ」

「再現性がない」

「あるさ」

 ラゴウは一歩、踏み出す。

「流れを見てるだけだ」

 ガレスの視線が、わずかに鋭くなる。

「流れ、か」

「曖昧だな」

「曖昧でいいんだよ」

 ラゴウは笑う。

「全部決めて動く方が、よっぽど危ない」

 ガレスは、わずかに息を吐く。

「それは、未熟な者の言い訳だ」

 その一言で、空気が変わる。

 ラゴウの笑みが、消える。

「……言うな、おまえ」

 一歩、詰める。

 距離が近い。

 だが、ガレスは動かない。

「事実だ。統制が成熟していなければ、味方を殺す」

 ラゴウの目が、細くなる。

「じゃあ聞くが」

 低く。

「型通りに動いて、全員助かるのか?」

 一拍。

 ガレスは、答えない。

 だが。

 視線が、わずかに揺れる。

 ラゴウは、そのまま言う。

「わたしは、崩してでも、生き残る方を選ぶ」

 沈黙。

 ガレスは、静かに言った。

「おまえは、近衛には向かない」

 ラゴウは、わずかに笑う。

「そうかもな」

 一拍。

「でも、選ぶのはおまえじゃない」

 その言葉に。

 ガレスの目が、ほんのわずかに細くなる。

 遠く。

 王が、こちらを見ていた。

 

第29話までお読みいただき、ありがとうございます。

昨日、あやまって29話をとばして30話を投稿してしまいました。

29話、投稿します。

読んでいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ