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第23話 王を誘惑してみる

 ラゴウはふらりと笑った。

「なあ」

 アレクを見上げる。

  「聖女と、どんな話したんだよ」

 灯りが揺れる。

「手くらいつないだ?髪、触った?」

 小さく笑う。

  「きっと、いい匂いがするんだろうな」

 アレクは眉を寄せた。

  「・・・酔ってますか?」

  「・・・あんたってさ」

 ラゴウは続ける。

  「どんなふうに、聖女とキスすんの」

 静かな沈黙。

「そういう意味で、聖女に触れたことはありません」

 アレクは言った。

「彼女は神に仕える不可侵の巫女です。カナリアは、その役目に誇りを持っている」

 ふうん?とラゴウは笑う。

「じゃあ、わたしは?」

 視線を細める。

  「聖女のかわりに抱いてた?」

「代わりだと思ったことはありません」

「・・・あんた、うそつきだよな」

「うそなどでは」


 怖がらせないように。

 痛くないように。

 傷つけないように。

 いつもいつも。

 どれほど慎重に、草原の少女に触れていたか。


 ラゴウは低く言う。

  「わたしを抱きながら、聖女の名前を呼んだだくせに」

  「それは」

  「言い訳してみろよ」

 ラゴウは不敵に笑う。

 アレクは静かに言った。

  「それは、わたしの失態でした」

 ラゴウは顔をしかめる。

  「もっと見苦しく弁解しろ。あっさり認めるなバーカ」

 逆鱗に触れると、このまま食い殺されそうな満面の微笑みだ。

 ラゴウは王から視線を離さない。

  「しかし、あなたをカナリアの代わりにしたわけではなく」

 言葉を選びながら、アレクシスは慎重に言いつのる。

 カナリアとは幼いころから共に育ったこと。

 聖女に求婚したこと。

 しかしそれはすでに過去の話であること。

 王としての立場。

 教会とメフィストの思惑。

 ラゴウはため息をついた。

  「つまり」

  「・・・ラゴウは聖女の代わりにすらならいって言ってんの?」

  「ちがいます」

 アレクシスは即答したが、ラゴウは無視する。

「要するに」

 ふらりと笑う。

 酒が回る。

 気分が、妙に高揚している。

 ラゴウとジンナイの境界が、曖昧になる。

  「わたしとの情事に集中してなかったと」

 アレクは眉を寄せる。

  「……やはり、酔っていますね」

 ラゴウは笑った。

  「集中、させてやろうか」

「・・・何を言って」

「あのさ」

 ラゴウは近づく。

  「ほかのこと考えるなよ」

 指で軽く王の胸をなぞる。

  「自分を抑えすぎなんだよ、あんた」

 視線を上げる。

「おんなってそう簡単には壊れないから」

  小さく笑う。

  「もっと、あんたのしたいようにして、大丈夫だ」

 でないと、と声を落とす。

  「楽しめないだろ」

 ラゴウはアレクの膝に乗った。

 首に腕を回す。

 灯籠の光が揺れる。

 ラゴウが囁く。

「教えてやろうか」

 唇が近づく。


  「キスって、こうやるんだよ」


 ラゴウの唇が近づく。

 あと、ほんの少し。


 その瞬間。

 アレクの手が、ラゴウの顎を止めた。

 距離が止まる。

 吐息だけが触れる。

 ラゴウが笑う。

「なんで止める」

「・・・これはあなたの本意ですか?それとも酔った勢いですか」

  「だからさ。そういうの、ごちゃごちゃ考えてるから、退屈になる」

「退屈、とは」

「あんたは怖いだけだ。なにもかもを、さらけだすのが」

 王は黙る。

 言葉が出ない。

「でも、さらけ出さなきゃ、おもしろくない」

  アレクは低く言った。

  「……あなた酔ってるでしょう」

  「だから?」

  「正気ではない」

  ラゴウは目を細める。

  「じゃあ」

 ささやく。

  「正気だったら?」

 沈黙。

 香の煙が流れる。

 灯籠の光が揺れる。

 アレクの指が、ラゴウの顎に触れたまま止まっている。

 その距離。 ほんの数センチ。

 ラゴウは小さく笑う。

「なあ」

  「そんな顔するくらいなら」

  低く言う。

「最初から追いかけてくんなよ」


 アレクの瞳がわずかに揺れた。

 それでも。 唇には触れない。

 ただ。

  「……帰りましょう。あなたの侍女と護衛が、心配している」

 低く言った。

 ラゴウは一瞬、黙る。

 それから。 くすっと笑った。

 ゆっくり立ち上がる。


 アレクの膝から降りる―― かと思った瞬間だった。

 ラゴウの手が、ふいにアレクの胸を押した。

 ぐらり、と王の重心が揺れて、椅子が軋む。

  「……っ」

 次の瞬間。 ラゴウはそのまま体重をかけた。

 アレクの背が、長椅子に倒れる。

  「王妃」

 低い声。

 だが、ラゴウは笑う。

 金の瞳が挑発するように揺れる。

 酒が回る。

「逃げるなよ」


第23話、読んでいただきありがとうございます。

ラゴウ、だいぶ攻めましたね。

そして、踏みとどまるアレク。

近づいているのに、あと一歩が届かない。

この距離感、楽しんでいただけたら嬉しいです。

さて、このまま何も起きないのか――

それとも、次はもう少し動くのか。

気になる方は、よければブックマークして続きも追っていただけると嬉しいです。

次回もお楽しみに。

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