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7.進化魔法"マッド"

7.進化魔法"マッド"


「今日はここまでにしましょうか。」

 ミチコがポイントストーンを置く。階層のあるエリアは、このポイントストーンを置いて脱出することで、次回その地点から攻略を再開できる仕様だ。

 結局、トラップがそこかしこに増え、敵も強くなっている二周目のエリアは、到底一周目のように二十分や三十分そこらで攻略できる難易度ではないと、タナカとミチコの両名は思い知った。一周目の旅路を思えば、また悪魔城に辿り着くまでには、随分かかりそうだ。

 叶多は未だ立ち直れないでいた。

 あの後何度かエンカウントしつつ雑魚敵を蹴散らしていったのだが、はっきり言ってメモリーはその下を行く雑魚みを感じさせた。

 不幸中の幸いだったのは、常に二桁ダメージしか出せないわけではないと判明したことだった。メモリーは、敵の攻撃によって受けたダメージの半分を返すようで、敵が強力な技を使ってくればその分威力を増したカウンターとなる。とはいえ、その時にはタナカはボロボロになっているのだが。

 発動条件があり呪文も長い。おまけに進化までの道のりも遠いというのに、明らかにそれに見合うだけの性能ではなかった。これはもう、進化後によほどチート級の魔法に化けることを夢見て日々唱えていくしかない。運営の設定の良心次第だ。

 ——せめて進化後は受けた分と同じダメージを与えられますように。

 下級魔法でやりくりしていくことが確定し、希望的観測に縋るしかなかった。


 次の晩、タナカが黄砂の世界にログインした時にはまだミチコはログインしていなかった。

 雑魚狩りする気分でもなかったので、俳人にチャットを送った。

『俳人さん、こんばんは。攻略の方はどうですか?』

『こんばんは、どうもです、タナカさん。そんなに進んでませんねえ』

 当たり前のように即レス。俳人もセトも真性のやりこみゲーマーだと改めて実感する。その証拠に、タナカがログインしているときで彼らがログインしていないときは一度もなかった。

『セトさんや俳人さんでも手こずるんですね』

『今回は特例中の特例ですよ。かなりボスの難易度がおかしいことになっていて、複数人で挑んだところで、進化魔法がないとお話になりません』

『進化魔法って、そんなに強力なんですか』

『そりゃもうエグいですよ。ええ。そうとしか言いようがないです』

『今度どんな感じか教えてもらってもいいですか?』

『今度と言わず、今日中にでもいいですけど』

『今晩だと、ミチコさんとけわしの山岳を攻略する約束があるので、難しいかもしれないです』

『けわしの山岳ですか。懐かしいですね。それなら自分らも同行しますよ。進展もないですし、足踏みしているよりいい気分転換になりますから。そしてタナカさんたちは攻略が捗る。どうですか?』

 俳人はぐいぐい来る人種だった。思い出した。

『いいんですか?助かります』

『タナカさんたちが悪魔城に早く来てくれるのは、こちらとしても助かりますからね。お互い様です』

 その言葉の意図するところはわからなかったが、叶多にとって、俳人の人との間合いをやたら詰めてくる性格は絶妙に不快ではなかった。


『ミチコ がマルチ通話に参加しました。』

「もしもし。すみませんタナカさん、遅れました。」

「いや、ちょうどですよ。」

「おい、今日のこれはデートか?」

 皮肉っぽい一言。セトからである。

 フレンド専用のマルチ通話機能を使って四人で通話をするのは初めてだった。ギルド内通話では、ご名答、タナカがハブられてしまう。

「チャットで説明した通りですけど、大丈夫ですか?」

 俳人がミチコに振る。

「はい。今日はけわしの山岳の最後まで行くつもりだったので、心強いです。」

「期待に応えますよ。」

 四人はポイントストーンを置いた位置までワープした。一周目と同じなら、あと五階層で攻略完了となる。

 セトが呼びかけた。

「ボスまでの敵は基本的に俺と俳人が狩ってやる。ストレス発散だ。」

『デーモン:ウォオ!』

 言うが早いか、デーモンと戦闘が始まる。インプより遭遇率が低いが、その分通常攻撃をせず、定数ダメージを与える魔法攻撃をしてくる。逃げることも難しい初心者泣かせの敵だ。

「"ボルト"、"ボルト"!」

『909』

『-』

 セトの一撃で沈み、もう一発のボルトは空振りした。

『デーモン を倒しました。』

「さすが……詠唱破棄でワンパン。」

「魔法って、あんなに速く連発できるんですね。私ずっと魔法が敵に当たるのを見てから次の魔法を発動してました。」

「そりゃ、スピードスペルだからな。」

 セトはちっとも自慢気そうに見えない。

「こんなに弱かったか?」

「自分ら100レベですよ。序盤の敵なら、二周目とはいえこんなものでしょう。」

 タナカとミチコのレベルは、共に50代前半である。レベルが高いほどそこから上がりにくくなっていくのがこの手のゲームの常識だが、魔法を進化させるのに比べれば、この二人にとっては朝飯前だろう。

 彼らが敵を倒せないなどと嘆くことは、本来ありえないのだ。ましてや、この水準のプレイヤーの数が一人や二人ではないのにも関わらず誰もエンディングを見ていないなんてことは。

 叶多の違和感に構わず、一行は先を急ぐ。タナカとミチコも多少戦ったが、セトと俳人にかかれば、道中の敵などETCのゲートのようなものだった。ボーッとしていたら、最上層にいた。

「さあ、二人の本気も見せてもらおうか。」

「え!?ここでこそセトさんや俳人さんの力が必要ですよ!?」

「そうですよ!私とタナカさんだけだと不安で不安で仕方ありません!」

 ミチコは意図せず叶多を傷つけていることに気づけていなかった。

「手は貸しますよ。自分の進化魔法で楽勝間違いなしです。進化魔法を見るのがタナカさんの今日の目的の一つでもあったでしょう?ただ、あんまりイージーゲームなんで、面白みがないというか……。」

「ああ……ピンチになったら助太刀するから序盤は自力で……ってことですか。」

「そんなあ。」

「やりましょう、ミチコさん。元々俺たち二人だけの予定だったんです。」

 更に奥へと進んでいくと、黒い影がスッと前に降り立った。

『メフィレス:我が名は魔将、メフィレス。貴様らを阻む者。』

 魔将。ベルゼーブに苦戦した記憶が蘇る。

『メフィレス:通りたくば来い。そして眠れ。』

 戦闘が始まった。

「ミチコさん!」

「はい!……迫る焼夷の波、彼は誰か誰そ彼か、高く高く翔び、視えぬ物こそ真、尽く操作せよ——"マグネット"!」

 ——何度聞いても、素晴らしい。

「タナカさん!今回はどれですか!?」

 叶多は迷った。定石を考えるなら、メフィレスの攻撃とタナカに反発する属性を与えるところだ。しかし、今回は背後に彼らがいる。無茶していい状況だ。お披露目させてもらおう。

「俺の攻撃にN、メフィレスにS!」

「わかりました!」

 グニャ……

 ——よし。

 ブシュウ!

 直後にメフィレスがどす黒い霧を吹き、タナカが被弾する。

『CRITICAL! 770』

『盲目状態付与』

 ——ここのクリティカルは、悪くない!

「悲しみの旋律、暴虐の過去は、雨雲の匂いを詰めて、迸るは激情、時は戻らず、アンチワールドエンド、ブーストアンドバースト、反逆せよ仇なす者へ、光明いずこより射す、我が手には——"メモリー"!」

 チュイン!

『385』

 観戦している二人には、どう映っただろうか。

 次は撃てない。あの霧をくらえば戦闘不能になるリスクが大きすぎる。となれば——。

「すみません!こんな感じです!後はお願いします!」

「了解です!」

 俳人がすかさず乱入してくる。メフィレスは次の一撃をタナカに向けて放とうとしていた。


「夜霧が月を隠す、いざ進め野郎共、蔦の絡み付いた肢体よ——"マッド"!」


 メフィレスは全方位から焦茶色に激しく襲われた。

 ドグチャッ!!

『メフィレス:ギャウア!』

『6,577』

『行動不能付与』

「あと少しですね。行動不能の状態異常がついているので、敵は行動できません。今のうちにお二人のどちらかでとどめをどうぞ。経験値が多く入ります。」

 見れば、メフィレスの全身は完全に泥で固まっていた。

「ミチコさん、やっちゃっていいですよ。」

「わかりました。"ボルト"、"ボルト"!」

『242』

『243』

「ミチコさん、メフィレスにはボルトじゃなくてアクアですよ!見えにくかったですけど開始時に属性相性出てましたから!」

「"アクア"、"アクア"、"ア"……MP切れました!」

 タナカと俳人は同時に噴き出した。そんなに大声で発表せんでもよろしい。

『459』

『466』

『メフィレス:……!』

『メフィレス を倒しました。』

 メフィレスが消滅した。これにてけわしの山岳クリアとなる。

「ありがとうございました。」

「ありがとうございました。マッド、強かったです。」

「いえいえ、全て想定通りでしたから。こちらこそ楽しかったですよ。」

「あれは、大ダメージに行動不能の追加効果ですか?」

「ちょっとだけ違いますね。中ダメージと行動不能です。」

「確かにエグかったです。進化前はどんな性能だったんですか?」

「ダメージがほとんど与えられませんでしたね。行動不能も進化したら十秒ですけど、進化前は五秒だけでした。」

 いかにも順当な強化といった感じだ。

「タナカ。」

 セトが進み出てきた。

「あのメモリーという魔法……。」

 威力についてだろうか。その予想は半分当たっていた。

「うっ……!辛いよな……!あんなに大ダメージを受けてやっと反射したのが三色魔法未満のダメージだなんて!理解できるんだその気持ち!きっといいことがある、諦めずにいこう!」

 晩成型魔法同士ということで、シンパシーは過剰に感じてくれているようだ。むしろ、セトの専用魔法であるコミュニケーションに興味が湧いてきた。どれだけ使えないのか。

「希望はある。標準型魔法の進化例を見るとどう考えても早熟型より性能の向上率が著しいんだ。晩成型魔法は間違いなく、最強の魔法になると信じている。」

「最強の魔法、ですか。」

「少なくとも信じていた方が気が楽だ。だから俺はそう信じておく。」

 最強の魔法。自分が持っているのがそれだと。

 信じてみるのも悪くないかもしれない。


 メモリー進化まで 残り99,674回

 マグネット進化まで 残り9,957回

意地でもエタりません。応援よろしくお願いします。

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