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3.裏切りのピンク・ツインテール

3.裏切りのピンク・ツインテール


 その時は思ったより早く訪れた。

 ソースピを始めて二日目、日曜日。その正午過ぎ。

 叶多は、マリスがいなくなるまで、を目標にしてプレイを続けていたが、悪魔城攻略中、突如としてマリスが悪魔側に寝返った。意外な展開、むしろ少し強引な展開と評して然るべきだった。

 東の塔と西の塔、そして奥の殿という構造の悪魔城を攻略するに際して、タナカが東の、マリスが西の塔を制圧した後で殿にて合流する、ということになっていた。東の塔には魔将ベルゼーブが控えており、倒すのに数回のリトライを要した。そして、塔が崩壊するアクシデントがありつつ、運よく殿に続く通路が開き辿り着いてみれば、名称不明の悪魔の傍にマリスが従順に立っていた。

『タナカ:なぜだマリス!』

『マリス:……。』

『???:侵入者を追い払え。』

 悪魔が囁き、マリスは頷いた。

『マリス:裁かれるべき罪、滅ぼす戦火の唸り、儚き祈りを享く、剛なる終章の鉄槌、彼方より降れ——』

 マリスの口から、叶多にとっては聞き馴染みのある呪文が聞こえた。ここまでずっとこの魔法でタナカを支えていた。

『"メテオ"!』

 小さな溶岩が無数にタナカを襲う。命からがら、タナカは悪魔城を脱出した。


 画面は暗転し、タナカは出発の地であった魔法使いたちの街に戻っていた。

『タナカ:すまない……こんな結果になってしまって。』

『年老いた魔法使い:気を落としすぎるでない。まずはお前の生還を喜んでおるよ。』

『片足の魔法使い:ここでしばらく休むもよし、また行ってくれるならそれが最上だ。だが死ぬなよ。』

『育児する魔法使い:既に、お前たちのように何人もの魔法使いが私たちの街を守ろうとして悪の魔の拠点に向かっていると聞いているわ。今後は他の信頼できる者と手を組み、行動することも考えるべきね。』

『タナカ:ありがとう、みんな。俺は諦めないよ。』

『※協力プレイが解放されました。フレンド機能やギルド機能を活用してストーリーを進めましょう。』

「……ふう。」

 ここからいわゆる二周目が始まるのだ。ひとまずここで区切りをつけて、今後の方針について聞くためにギルドに顔を出すことにした。


 ギルドの基地には、俳人と、見知らぬ二人がいた。デフォルトのカスタマイズのままの男性キャラクターと、ちんまりとしたピンク色のツインテールの女性キャラだった。タナカ含め、全員が魔法使いの証である杖を持っていること以外は、多様性に富んだメンバーである。

『ギルド内通話が開始されています。参加しますか? はい いいえ』

 叶多は今度は躊躇わず参加した。

「こんにちは。」

「おお、タナカさん昨日ぶりです。」

「はじめまして。」

「はじめましてー!」

「はじめまして。」

 男の方は、叶多と同年代だろうか。落ち着いている。女の方は、見た目に反してやや大人びた声をしていたので驚いた。ピンク髪の相場から決めつけすぎた。

「自分が間に入って紹介しましょうか。じゃあまず、セトさん、ミチコさん、この方がタナカさんです。昨日始めたそうです。で、タナカさん、この二人がセトさんとミチコさんです。セトさんがうちのギルマス、ミチコさんはギルドに入ったのは今日ですけど、四日前に始めたそうです。」

「よろしく。」

「よろしくお願いします。」

「どうも。」

「しかし……立て続けに二人増えたな。」

 セトのその言い方は、あまり歓迎していないように聞こえた。

「すみません……検索結果の一番上がたまたまここで。」

「私もそうでした……。」

「きっと作成順でしょうね。まあまあ。作成の時点で定員を五人未満に設定してますからこれ以上は増えないですよ。」

「言い方が悪かった。気を悪くしないでくれ。予想外だっただけだ。メンバーそれぞれの楽しみ方にも口を出さない。ただ……もし俺たちの攻略を手伝ってくれるなら、とても助かる。」

「どうですかねえ……難しいと思いますけど。」

「手伝いますよ!」

「俺もです。手伝います。」

「うーん……。」

 俳人は困った声を出した。

「嫌味に聞こえたら申し訳ないんですけど、自分ら二人は他のゲームからの付き合いで割とガチで攻略してて、現状ガチ勢二人+初心者二人の構図になってるわけです。元々二人で攻略は進めるつもりだったもので、誰が入っても特に影響がなく、初心者の経験値稼ぎの助けになるかもと思ってスタイルをエンジョイに設定してたんですけど、実際こうして入ってくれたお二人にガチの攻略を手伝わせるのは少し、こう……。」

「俺も無理にとは言わない。むしろ、まだはっきり言ってお荷物になる可能性の方が高い。だから当分の間はギルドのメンバーとしてお互い経験値ブーストなどのメリットを共有しつつ、戦力になれると思えてきたらその時には是非手伝ってほしい。」

「「……。」」

「ギルマスはこんな風に言ってますけど、もちろん分からないこととかあったら教えますし、あくまでみんなで楽しい雰囲気でこのゲームを攻略していけたらなと思ってますよ。」

 叶多は少し怯んだが、なるほどそれはあんまりだ、ここを脱退しよう、とは思わなかった。

「分かりました。大丈夫です。がんばります。」

「私はついていけるか不安ですけど、とりあえずやるだけやってみようと思います。」

「助かる。俺たちの目的はこのゲームのエンディングを見ることだ。屈辱的なことに、リリースから一週間が経ってなお、誰もエンディングを見ていない。こうなったら俺たちが最初に見てやろうじゃないか。」

 リリースから一週間経って誰もエンディングを見ていない?叶多はすぐには信じられなかった。

「じゃあ、自己紹介代わりに、それぞれの専用魔法を知っておきますか。自分のは、マッド。早熟型魔法です。ギルドの名前『マッドハッター』はこれにちなんで付けました。」

「俺の魔法は、コミュニケーション。晩成型魔法だ。」

 叶多は、少し面白かった。セトの無骨な物言いとコミュニケーションという組み合わせは皮肉が効いていた。

「私の魔法は、マグネットです。えっと……そのナニナニ型ってどこで見るんですか?」

「ステータス画面の魔法のところから見れますよ。」

「ありがとうございます。……標準型でした。」

「俺の魔法は、メモリーです。晩成型。」

「晩成型……!」

 意外にもセトが敏感に反応した。

「タナカ……!必ず一緒に、やり遂げような……!」

「?そもそも、これって何を表してるんですか?」

「二つの性質を表している。一つ目は、呪文の長さとMPの消費量だ。早熟型は呪文が短く、その代わりMPを多く消費する。反対に、晩成型は呪文が長く、その代わりMPの消費は少なくて済む。」

「標準型はその中間ですか?」

「そうだ。そして二つ目は、進化に必要な詠唱の回数を示している……と考えられている。俺たちの専用魔法は、進化させることで中級魔法から上級魔法になる。早熟型は、その進化までに魔法を発動あるいは呪文を詠唱しなければならない回数が少ない。反対に、晩成型は多い。」

「現に、自分のマッドはもう進化してます。進化すると、桁違いに性能が跳ね上がることを体感しました。ですが……。」

「ああ。俺のコミュニケーションは、未だに進化しない。」

 叶多は、段々と事の重大性がわかってきて恐ろしくなった。セトはガチ勢だ。呪文の詠唱のような単純作業は慣れっこのはずなのに、回数の違いだけでまだ魔法を進化させられていないのだ。

「そうなんですね。」

 ミチコはそこら辺がわかっていないようである。

「……ちなみに、セトさんは今まで何回詠唱したんですか?」

「約30,000回だ。」

「「さんまんかい!?」」

「今31,580回だ。」

「あの、本当に回数の差なんですか?」

「二人とも、自分の専用魔法を唱えるとカウンターが回るのに気づいているか?それは回数に何らかの意味があるという状況的証拠だ。そして俳人がマッドを進化させた時、回数はピッタリ1,000回だった……これは確定的だろう。信じたくないが。」

 気づいているも何も、叶多はまだ専用魔法を発動できていないのだった。

「専用魔法の変更って……できませんよねー……。」

 できていたらセトがやっているはずだ。

「ああ。この専用魔法は、個々のデータ、アカウントに対してランダムに呪文のフレーズを、早熟型なら三フレーズ分、標準型なら五フレーズ分、晩成型なら十フレーズ分抽選して、『世界に一つだけの魔法』を割り当てているんだ。専用魔法を変えようと思うなら、既存のデータを消して新品のデータを買い直すしかない。」

「同じ魔法を使う人はいないってことですか?」

 今度はミチコが質問した。

「部分的に同じ呪文のフレーズを使う奴はいるかもしれないが、魔法の種類が被ったのは今まで見たことがない。」

 ということは、掲示板で見かけたマッドの進化報告は俳人さん本人がしていたのだ。

「というわけだ。空いた時間に積極的に詠唱しまくれ。」

「そうなんですけど、実は、詠唱できないんですよ。」

「なぜ?」

「俺もわからなくて……。」

 叶多はギルドの三人にメモリーの説明をした。

「それなら、原因は大体見当がつく。」

 セトが言葉を即座に返したので驚く。

「直前に受けたダメージに応じてダメージを与えるんだろう?じゃあ、ダメージを受けていなければ発動できない魔法なんじゃないのか?」

 言われてみれば一理ある。

「まだ試してませんけど、きっとそうだと思います。詠唱自体ができなかったので。」

「なら話が早い。」

 どんな解決策を示してくれるのか。叶多は次の言葉を期待した。

「タナカ、お前はギルド追放だ。」

「……え!?戦力外通告!?」

「その後ミチコに殴られろ。」

「私?」

「……よく意味がわからないんですが……。」

 ギルド追放。〜もう遅い〜のよくある冒頭だろうか?

「多分セトさんが言いたいのは、『レベルが低いミチコから打撃を受けることでダメージを抑えつつ発動条件を満たせ、ただしゲームの使用上ギルメンにはフレンドリーファイアができないから打撃を受けるためにギルドを一度脱退する必要がある』ってことですね。」

「ああ。それが一番効率的に詠唱の回数を稼げる。」

「えぇ……?」

 理屈はわかったが、抵抗がある。

「私、協力しますよ、タナカさん。」

 叶多はミチコを恨んだ。断れない流れにされた。

「わかりました……。」

 かくして、タナカは一日でギルド追放となり、ミチコのサンドバッグとなることが決定した。

 憐れという他なかった。


 メモリー進化まで 詠唱残り???回

意地でもエタりません。応援よろしくお願いします。

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