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2.マッドハッター

2.マッドハッター


『詠唱できません。』

「え、なんでだよ。」

 早速、専用魔法メモリーの呪文を唱えようとした叶多だったが、その矢先に挫折した。戦闘画面ではないからだろうか?しかしフレアやボルトは選択すると詠唱可能である。

「んー……。」

 ひとまずメモリーの発動は後回しにして、次はギルドを探すことにした。現状ノーヒントなのでヘルプから情報を探す。もし何も情報がなければネットで検索する予定だ。

『ギルドについて』

 あった。

『ギルドに所属して協力プレイをスムーズにしましょう。ギルド案内所から加入申請できます。』

 案内所はこれまで通ってきた、街を含めた全ての中継地点にあるそうで、辿り着くのには苦労しなかった。

 入ると、正面奥にカウンターと女性キャラが配置されていた。金髪で、いささか派手な制服を身に纏ったボンキュッボン。絵に描いた餅。

『アンナ:はじめまして。私はアンナ。ギルド管理を請け負っています。案内所のアンナと覚えてくださいね。』

『アンナ:何かご用ですか?』

『ギルドを作る

 ギルドを探す

 やめる』

 ギルドを探す、を選択すると、ギルド一覧がずらっと出て来た。

 検索条件を入力する。

『人数:五人未満 参加:無条件で承認 脱退:無条件で承認 音声通話:積極的に使用 プレイスタイル:エンジョイ』

『検索しています……』

 程なくして四件並んだ検索結果の一番上。

『マッドハッター』

 それが、加入したギルドの名前だった。


『マッドハッター に参加しました。』

 『このギルドに参加』を選択した、と思った直後には秘密基地風の雰囲気漂う薄暗い空間に飛ばされていた。タナカ以外には、すらっとした細身の男性キャラが一人。タナカが入ってきたのを遠めから見つけ、近づいてきた。

『俳人 から音声通話のリクエストが来ています。許可しますか? はい いいえ』

 あまりにもいきなりで、叶多は少し躊躇した。タイピングチャットで会話するという手もあるのだが……せっかく同じギルドなので断るのも気が進まず、通話を開始することにした。後のことは話してみてから決めればいい。どうせ脱退は自由なのだ。

 許可すると、サー……と小さいノイズがヘッドホンに入る。

「俳人さん、はじめまして。」

「いやあーどうもはじめましてタナカさん。ハイジンといいます。」

 そのすらっとしたキャラが二十年ほど歳を食ったたような声が聞こえてきた。

「今日からこのゲーム始めました。タナカです。オンラインモードにまだ慣れてないので、お手柔らかにお願いします。」

「了解です。初対面なのに馴れ馴れしくして申し訳ない。一緒に楽しみましょう。」

「はい。よろしくお願いします。」

 どんな要注意人物かと心配した叶多だったが、とりあえずあからさまに悪い人ではなさそうだと判断した。

「ギルマスはいま攻略に勤しんでるんで、またタイミングが合ったときにでも。」

 そういえばちらっと見えていたが、このギルドは入る直前まで二人のギルドだったか。メンバーを確認すると、『セト』と名前があった。このゲームのデフォルトネームだ。

「ところでタナカさんは、どんな魔法をお持ちなんですか?」

 俳人はぐいぐい来る人種だった。

「メモリーって名前の魔法ですね。呪文がやけに長いです。」

「なるほど。それは、もしかすると晩成……フレアとかよりも発動するときに消費するMPが少ないのでは?」

「すみません、まだ確認してないです。誰か同じ魔法を使っていましたか?だとしたら、この魔法について知ってることを——。」

「ああいや、そうじゃないです。この詠唱システムって完全オリジナルのシステムだから、なにか法則性がないかって探していたんですよ。」

「法則性があるんですか?」

「おそらく。といっても大したことじゃなく。呪文が長いほど、消費MPが少ないというものです。少し意外でしょう。自分の魔法はマッドっていうんですけど、フレアやボルトと同じ早熟型といって、呪文は短めである一方消費MPは多めなんです。まあ、フレアやボルトなんかは進化しないので厳密には同じ種類というわけではないんですけど。」

 進化するとかしないとかはよくわからないが、追々わかっていくことなのだろう。

「へえ……そうなんですね。参考になります。」

「自分ら、このゲームの完全攻略に燃えてるんですよね。これだけのゲームなのに公式が全然出しゃばってこないし、なんなら零細サークル説を飛び越して幽霊サークル説も出てる。その上プレイ人数が一万人くらいしかいないもんで、とにかく情報が足りないんですよ。」

 その話なら叶多も辰巳から聞いていた。このゲームの開発元であるグループの名前を誰も聞いたことがないのだと。無名団体の処女作にしてはクオリティが高すぎるので、どこかの大手が戯れに名義を変えてリリースしたのではないかという噂もあるらしかった。

「そうだ、よければ攻略をお手伝いしますよ。どうですか、今から一緒にというのは。」

 時刻は午後九時。

「えっと……そうですね。それは心強いです。お願いします。」

「今どこら辺ですかね?」

「高原です。一回目?の。」

「おっと。残念ながらそれだと不可能ですね。マリスがいなくなってからじゃないと協力プレイモードが選べないんですよ。」

「ああ、そうなんですか。」

 突然のイベントは中止となり、やや心安らぐ叶多だった。——え?マリスっていなくなるの?

「協力プレイが解放されていないのであれば、その間は、よかったら攻略スレとか覗いてみるといいですよ。さっきの法則以外にもいろいろそれっぽいことが書いてあるんで……正確かどうかはちょっと、保証できないですけれど。」

「そうですね。ありがとうございます。」

 二言三言交わして、通話を切った。

 それから、早速スマホで検索した。人の助言を素直に聞き入れるところは、叶多の長所と言えた。


 そこでは、まるで部活帰りの学生がコンビニでたむろするかのごとく(画面の前の彼らのほとんどはまさに「その場」を欲していた。そのことに気づけない叶多たちこそが若いのである)、談義があった。

『ソースピ攻略スレ』

『354:名もなきソーサラー バフォはレベル上げて物理(魔法)で殴ればおk だいたい70』

『355:名もなきソーサラー 当たり引けたっぽい ストームとかボルト・アクアの完全上位互換だわ』

『356:名もなきソーサラー >>355 詠唱音源はよ』

『357:名もなきソーサラー 二回目の悪魔城までやったけどストーリー糞な やる価値ないよ』

『358:名もなきソーサラー >>357 じゃあやるなハゲ』

『359:名もなきソーサラー >>357 ガッツリ楽しんでやり込んでて草』

『360:名もなきソーサラー やっぱ外れ引いたらギルド一択か ソロよかマシ』

『361:名もなきソーサラー 進化魔法の情報出てない?』

『362:名もなきソーサラー アンナたその脇prprしたいお!』

『363:名もなきソーサラー メーカー見てバグまみれのゲームかと思ったら意外とまともで草』

『364:名もなきソーサラー >>360 ここまでマッドとパニックだけ』

『365:名もなきソーサラー 投げたわ 魔法の進化が鬼畜すぎ』


 ——ふうん。「たそ」とか「prpr」とか、本当に使う人いるんだなあ。叶多は半ば感動した。

 最後の投稿は五時間前だった。いくらプレイ人口が一万人程度といっても、やはり新作のゲームの攻略掲示板はそこそこ活発と言ってよかった。リリース自体はちょうど一週間前で、蛇足としてそのリリースから三日後に叶多は振られる運命にあった。

 さて、この掲示板の住人たちがどの程度の実力をもったプレイヤーかは定かではなかったが、これまでのことを総合するに、プレイヤーレベル41で一回目の高原までしか進んでいないタナカは、かなり弱い部類に入るのだろうということは察しがついた。まずは、独力でマリスがいなくなるところまで進めなければ、ついていけない。

 ——日付が変わるまでは、やろうかな。

 初日。モチベーションは腐るほどあった。


——


 黄砂が激しく舞う世界で、はぐれた泡のように、青年の質問が一つ。

「なぜ、二千円などという中途半端な価値をつけたのですか?言うまでもないですが、おそらく円というのは通貨単位です。元手がゼロなのですから、ゼロ円に設定すれば、より多くの者を引き込めたのでは?プレイヤーは多い方がいい。その中でも兵力になる者は更に限られます。」

 それに応える気障ったらしい若い男の声があった。

「人のことは言えませんが、少し短絡的ですね。不自然な利益には警戒するもの。それに取り込みたいのはライトユーザーではなくヘビーユーザーです。有料の方が投げ出しにくくなるのではないでしょうか?その目的の元に、あちらで過去十年に流行したゲームの世界観・システム・値段に至るまでの要素をデータベース化してゲームとしての輪郭を作り、平均値や最頻値や中央値を取り、調整し、こちらの世界を投影したものがアレです。そもそもマーケティングは様々な要因が絡み合うもの。私ですら予想できないほどに……。ゲーム本体でしか干渉できていないのに、これだけで十分な数に達するとは、私も思っていません。『直接持ってくる』プランも順調に進んでいます。……この回答で気休め程度にはなりましたか?」

「はい。了解しました。」

 返事が一つ。

 人気の絶えた街の一画。そこには防護服にも宇宙服にも一致しない格好の青年一人だけが立っていた。

意地でもエタりません。応援よろしくお願いします。

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