18.進化魔法"コミュニケーション"
18.進化魔法"コミュニケーション"
翌日、別れの夜。マッドハッターの四人はバトルステージに入場した。
「レギュレーションバトル」の4on4を選択しようとしたタナカを、セトの声が制止する。
「よく考えてみろ。この時間にこのゲームで4on4をやろうとする奴らがどこにいる。仮にいたとしてもマッチングに時間がかかりすぎる。」
「あ……確かにそうですね。そこまで考えていませんでした。」
「やるなら、こっちだ。」
セトが「カスタマイズバトル」を選択した。マッドハッター内でのバトルとなる。
『※ルールを設定してください。』
「チーム分けはどうします?」
俳人が仕切る。
「マグネットを使ってやってみたいことがあるので、俺とミチコさんは同じチームがいいです。」
それとは別に下心もあるにはあるが、そっちはメインではない。
「となると、自動的に自分とセトさんになりますかね。」
「あのなあ……。」
セトが呆れた声を出す。
「俺もここで何回か戦ったことはある。大方俺のコミュニケーションを気持ちよく使ってもらおうだとか思ったんだろうが、それはもうやったことがあるんだよ。それを鑑みると、このチームじゃ戦力が偏りすぎてる。俺たちの圧勝だ。」
「言いますね。」
「事実だ。面白くない。最後に思い出を作らせてくれるというなら、チーム分けは、俺と俺以外だ。それで俺がボロ勝ちしてこそ痛快。他のルールもそっちで決めていいぞ。」
「……そんなに強いんですか?コミュニケーション。」
ミチコが俳人に訊いている。
「それはもう、最強と呼ぶにふさわしいですよ。いやあ、セトさんと同じチームだったら勝ちだったんですけどねえ……。」
お言葉に甘えて、ルールを設定させてもらう。といっても、不平等な条件にできる項目は少ない。俳人とミチコが色々と設定する中、叶多は一つだけ、「詠唱破棄不可」を追加した。
「設定、終わりましたよ。確認してください。」
「ああ。」
セトがルールに目を通す。
「特に異議はないな。俺はこれでいい。もう少しハンデをつけるか?ほとんど何もハンデがないじゃないか。」
——ハンデがない?MP消費二倍、魔法攻撃力二段階ダウン、魔法防御力二段階ダウン、ついでに詠唱破棄不可まで付いているのに?
「状態異常まで付けると心が痛むので……。」
ミチコが言った。
「そうか。なら始めるぞ。」
『3on1』
『NOW LOADING……。』
「本気で来い。」
『READY,』
『FIGHT!』
「暁の揺らぎを、血潮の昂りを、束ねた灯籠よ——"フレア"!」
「迫る焼夷の波、彼は誰か誰そ彼か、高く高く翔び、視えぬ物こそ真、尽く操作せよ——"マグネット"!」
「夜霧が月を隠す、いざ進め野郎共、蔦の絡み付いた肢体よ——"マッド"!」
ボウッ!
グニャ……
ドグチャッ!
『248』
『1,325』
『行動不能付与』
三つの魔法がはたらいた時、セトは既に詠唱していた。
「冷たい血の歓び、消える命の理を待つや、白の星を黒が塗り潰す、誰も信ずることなくして、栞を挟まず閉じる、サイケデリックファンタジー、オールフォーディフィート、やおら単音に定まり、母なる思し召しのまま、紡がれゆくは——"コミュニケーション"!」
マッドの行動不能は、マリス戦と同じく詠唱中の相手の行動を阻害できない。それでもたかが一発の魔法、その魔法が終われば行動不能、マグネットで回避も容易、次の詠唱準備も万端、残り体力も明白、数々のハンデも付与済み。
それでも、セトの勝利は揺るがなかった。
ブゥン……
タナカとミチコと俳人の行動選択画面に異変が起きた。そこにあった全てのコマンドの選択肢が消え、
タナカには、次の三択。
『敗北』
『セトのHP1,000,000回復&全ステータス変化の反転』
『自身に1,000,000ダメージ』
ミチコには、次の三択。
『敗北』
『セトに無敵状態付与』
『寝返り』
俳人には、次の三択が示される。
『敗北』
『自身に全状態異常付与』
『直前の攻撃を自身へ転移』
「え……。」
「嘘……。」
「これが強いんですよねえ……。」
タナカは『セトのHP1,000,000回復&全ステータス変化の反転』を、
ミチコは『寝返り』を、
俳人は『直前の攻撃を自身へ転移』を選択した。
『合意』
『合意』
『合意』
『+1,000,000』
『魔法攻撃力:UP』
『魔法防御力:UP』
『ミチコ が寝返りました。』
ドグチャッ!
『1,325』
『行動不能付与』
叶多が戦況を正しく把握するのにしばらくかかった。どうやら今のコミュニケーション一発だけで、セトのHPは全回復しハンデだった数値の下降変化が全て上昇へと反転、ミチコは引き抜かれてセトのチームになり、俳人はマッドをくらって大ダメージを負い行動不能となったようだ。セトは行動不能を解除されている。
「詠唱しないのか、タナカ?好きだろ、詠唱。」
「……チートすぎませんか。」
「タナカさんすみません!セトさんチームになっちゃいましたけど、攻撃とか変な行動はしませんから!」
「無茶振りですが、あとは任せましたよタナカさん。」
「いや……無理でしょう、これは。」
「来ないならもう一度行くぞ。」
セトは楽しそうだった。
「冷たい血の歓び、消える命の理を待つや、白の星を黒が塗り潰す、誰も信ずることなくして、栞を挟まず閉じる、サイケデリックファンタジー、オールフォーディフィート、やおら単音に定まり、母なる思し召しのまま、紡がれゆくは——"コミュニケーション"!」
ブゥン……
『敗北』
『自身のMP消滅&自身のMP回復不能』
『セトの魔法による効果二倍』
「これって、『敗北』を選んだら俺だけ倒れるやつですか?」
「そっちのチーム全体の敗北だ。」
「そうですか……。」
『自身のMP消滅&自身のMP回復不能』を選択。
『合意』
「……。」
——合意、じゃねんだよ。これのどこがコミュニケーションだって!?ああ!?
「一応そっちにも勝ち筋はあったんだぞ?タナカが予めガッツをかけておいて『自身に1,000,000ダメージ』の選択肢を引いて耐えてメモリーすれば俺をワンパンすることができた。今魔法を使えなくなったからそれも消えたが。」
「無茶言わないでくださいよ……。」
『合意』
『魔法効果二倍付与』
「え!俺魔法効果二倍選んでませんよ。」
「俳人が選んだだけだ。これで今後はコミュニケーションの効果も倍になる。一回発動するごとに地獄の三択が二回だ。」
「あー、すみません、タナカさん。裏目ってしまいましたか。ところで、そろそろ自分の行動不能解けますけど、もうちょっと続けますか?マッドなら撃てますよ。」
「ああ、そうですね……。」
もはや叶多にできることはなかった。
叶多は宣言した。
「降参です。俺たちの負けです。」
「楽しかった。とてもいい思い出になった。」
セトが楽しそうで何よりだ。
「このギルドはサドの人が多いですね。」
「タナカさん、私のことを言ってますか?」
「自分は、どちらかというとマゾですかね。」
「要らん。」
今日はやられ役だった俳人が楽しんだことを祈る。何か思い出になっているといいが。
——この四人での攻略ももう終わりか……。
ミチコの雰囲気もどことなく暗い。
「そういえば、タナカが言っていたマグネットを使った戦術ってなんだったんだ?」
「披露する前に負けましたよ。『今度会ったら』見せますね。まあ、大したものじゃないですけど。」
「そうですね。『今度会ったら』また色々お話ししましょう。」
「ここに帰ってくることがあったら、必ずタナカさんとミチコさんにも連絡しますから。その時はまた攻略の続きをしましょう。」
「ああ。このゲームがラスボスとエンディングを搭載する日が来るなら、一番に挑んでやる。」
「楽しみにしています。」
「……では、この辺りで。今日までありがとうございました。」
「ありがとう。」
「ありがとうございました。」
「ありがとうございました。」
セトと俳人は通話から抜け、間もなくログアウトした。
ギルドメンバーとしての在籍が、情報としては残存している。しかし事実上、マッドハッターはギルドマスターとサブマスターを失った。
コミュニケーション 進化済み
マッド 進化済み
メモリー進化まで 詠唱残り 80,136回
マグネット進化まで 詠唱残り 9,309回
意地でもエタりません。応援よろしくお願いします。




