17."メモリー"VS進化魔法"サンライズ"
17."メモリー"VS進化魔法"サンライズ"
その夜。マッドハッター全員集合の号令を受けて、四人はギルド基地に集結した。タナカとミチコは数日ぶりに顔を合わせた。なよっちい色白とピンクのツインテールとして。
「えー、手詰まりです!」
出し抜けに俳人が言った。
「オフ会の前から何回か言ってませんでしたか?手詰まりじゃないか、手詰まりくさい、手詰まりっぽい、と。」
「そうなんですけどもね……。」
まあ、手詰まりだと断言したのは今日が初めてだ。
「昨日まで、攻略班の方で隈なく調べて回ったんですが、どこにも変化らしき変化がなく……。これはシナリオやフラグが存在しないか、存在してもバグなどの原因があるかで進行不可能と結論付け、実質ゲームクリアだということで話が纏まりました。」
「そうなんですか……すっきりしないですね。」
ミチコが言う。マリスの死の後、どんなストーリーが待っているのか見届けたかったのだろう。
「こればかりは仕方ないな。ゲーム側が続きはないと言っているんだ。問い合わせ先もないし、俺たちがどうこうできる問題じゃない。どこまでも理解に苦しむゲームだ。」
そうそう。セトはこの口調でないと。
「そんなわけで、突然で恐縮ですが、自分とセトさんは以後別のゲームの攻略に移ろうかと考えています。」
「え!?」
ミチコの声が冷静さを失った。
「俺たちはゲーマーであってソースピ専門のプレイヤーじゃない。進展がなかったこの三週間、同時並行でプレイしてきたゲームもある。そっちに専念していくつもりだ。」
「そんな……。」
ミチコにとってはこういう別れが人一倍辛いことを叶多は知っている。逆に言えば、それくらいしかミチコのことを知らない。
「それはいつからですか?」
「明日からですかね。なので今日こうしてお伝えした次第です。」
「明日……急ですね。」
「まあ、自分らはマリス撃破にも成功してますし、ちょうど祝勝会もしたしで、キリがいいんじゃないですかね?またシナリオが追加されたら帰ってきますよ。レベル100になって、魔法も進化させた今、特にこのゲームに残る意味もなくなってしまいましたから。」
叶多は心の中で賛同した。完結した物語よりも新たな冒険に胸を膨らませる。それがロマンだ。
ただ、ミチコが悲しそうなのは無性になんとかしたかった。惚れた弱みというやつだ。
叶多は提案した。
「プレイをしないとしても、せめて、定期的に顔を出すとかはどうですか?ほら、レアアイテムとか取りに行く時に、セトさんたちの力が必要になるかもしれませんし。」
レベル80で習得した"エントリー"で各エリアの隠し迷宮に挑むことができ、難易度の上がったその迷宮の奥にはレアアイテムがある。タナカとミチコはまだレアアイテムをコンプリートしていないのでそのことを言っている。
「意外ですね、タナカさんがそんなことを言うとは。ですが……。」
俳人の困惑はわかる。そんな勝手な都合に別の目標がある相手を巻き込むのはよろしくない。無理は承知だった。
「タナカ。俺たちにメリットがないぞ。特に長い期間拘束されることになるのは気が乗らない。」
「……。」
しかし叶多は、長時間拘束したいのだった。ミチコが悲しむのを先延ばしにするために。
「わかりやすい奴だな。」
「……というと?」
俳人が尋ねるのをセトは無視してくれる。
「明日ぐらい、わがままに付き合ってやろうか。それぐらいなら問題ないしな。」
「明日だけ、ですか。」
「贅沢言うな。」
「我らがギルマスがそうするなら、自分も付き合いますよ。」
「そういうことだ。明日の夜はどこへでも行ってやる。」
セトなりの配慮であることは疑いようがなかった。
「わかりました。ありがとうございます。」
「……では、そういうわけで、今日はこれで。」
「また明日な。」
ミチコは三人の会話には口を挟まず、成り行きを見守っていた。
セトと俳人がギルド基地を出て、二人残った。
「急で驚きましたね。」
ミチコが切り出した。
「そうですね。根っからのゲーマーであるあの二人なら遅かれ早かれそうなるだろうとは思っていましたが、唐突でしたね。」
「えっ、そうなると思ってたんですか?随分余裕なく見えましたけど。」
「……いや、まあ……やっぱり50:50くらいでしたかね、本当にそうなるとは思ってなかったですし、あれだけ急だったので。」
いい男は背中で語らなければならない。間違っても、あなたのために食い下がっていたんですよなどと恩着せがましく言ってはならない。叶多は頑なにそう信じて格好つけた。
「タナカさんも寂しがり屋なんですね。私と同じくらい。」
「そりゃあ、セトさんと俳人さんにはお世話になりっぱなしでしたからね。寂しくもなりますよ。」
「私も寂しいです。二人とも意志は固かったですもんね……。あと一晩しか一緒にソースピをプレイできないなんて。」
「明日、どうしましょうね。」
「どうしましょうね。最後になってしまうなら、せめて楽しんでほしいですよね。」
「セトさんや俳人さんが楽しいと思うことですか……。」
そうなると迷宮探索は没だ。こちらの都合でしかない。
「一応、同類の人間として、セトさんが喜びそうなことなら思いつきます。俳人さんはわかりませんけどね。」
「わかるんですか?」
「はい。バトルステージを使いましょう。」
「あー、あらしの高原の近くにあるあそこですか。入ったことないんですけど、何ができるんですか?」
「PVP、簡単に言うとプレイヤー同士の対戦シミュレーションができます。最大四体四、八人まで対戦できるんです。入ったことがないなら、今から行ってみませんか?」
「はい、是非!」
バトルステージは、巨大な岩を切り崩して作られた、山に囲まれた天然のリングである。「レギュレーションバトル」と「カスタマイズバトル」とがあり、前者は最大制限時間五分の間に相手を先に倒した方の勝ちというルールの元、ランダムなインターネット上の相手と対戦するモード。後者はルールを自由に決め仲間同士で対戦するモードだ。
今回は「レギュレーションバトル」を選択した。
『※対戦人数を選択してください。』
「さあ、初陣ですね!」
「私、足引っ張っちゃうと思います。」
「初めてですし、もちろんそこはフォローしますから大丈夫——。」
「なので、今回は観戦モードにしておきますね。」
「えっ。」
『1on1』
『NOW LOADING……。』
「せっかく試したい一石二鳥の戦術があったのに!」
「すみません、今日は応援に徹しますね!がんばってください、見て覚えるので!」
——ちくしょう、やるっきゃないか。
対戦相手が正面奥に現れた。
『卍白夜の魔導士卍』
——うお!話がわかる相手だ!まともな奴なら絶対ONにしない通話設定もONにしてやがる!
『READY,』
『FIGHT!』
——対戦よろしくお願いします。
「予兆なき破滅に、奈落を満たす声は、独善にて捻れん——"ダークネス"!」
ゴオッ!
「影をも照らす白夜、遍く潜むこと能わず、その笑みのみ凍てつく——"サンライズ"!」
カッ!
フィールド全体が明るくなった。
『126』
ダメージを受けたのは卍白夜の魔導士卍の方だった。バトルステージでは対人戦という性質上、攻撃の威力が普段の十分の一となっている。
「いい詠唱ですね!」
ミチコには敵わないが。
「そっちこそ。俺様の詠唱より早いとはやるな!」
「今の魔法は何をしたんですか?」
「その内わかるさ!かかってきな!」
相手はロールプレイをしているようだ。叶多はそういうのも大歓迎だった。
——ニクいことをしてくる。そっちが光で来るなら、こっちも光だ。
「止めどない熱量が、無尽にて注がれる、偽りを眩ませよ——"シャイン"!」
ジュウッ!
『125』
「限りなき螺旋の先、己が敵全てを今、呵呵として超越せん——"アップグレード"!」
グイン!
『魔法攻撃力:UP』
「止めどない——。」
続けてシャインを唱えようとした時、叶多はMPが切れていることに気づいた。
「まさか……。」
「いかにも!進化したサンライズによって作り出された白夜は相手を五倍疲弊させる。俺様以外の全員、行動回数が五分の一に減ったり、MPを五倍消費したりするってわけさ!」
「なるほど……。」
三色魔法やシャイン、ダークネスを含む早熟型魔法のMP消費は元々激しい。そこに白夜が加わると、一発撃つだけでMPが空になる。しかしMP薬の補給の手際なら分がある。まだ勝ち目が消えたわけではない。
MP薬をアイテム欄から引っ張り出す間にも、
「限りなき螺旋の先、己が敵全てを今、呵呵として超越せん——"アップグレード"!」
グイン!
『魔法攻撃力:UP』
相手はどんどん魔法攻撃力を上げている。
「止めどない熱量が、無尽にて注がれる、偽りを眩ませよ——"シャイン"!」
ジュウッ!
『126』
詠唱のペースが逆転したが、焦りすぎては勝機を逃す。今はとにかく手数で押していけばいい。
「さあ、勝てるかな?」
卍白夜の魔導士卍は悪役ぶって煽った。
「——"アップグレード"!」
『魔法攻撃力:UP』
「これでマックスの五段階アップ。勝負は決まったも同然だな。はっはっは。」
お手本のような悪役ムーブだ。こっちも釣られてノリがよくなってくる。
「そっちの体力も減ってきましたよ。」
「しかしお前の攻撃ではまだまだ俺様を倒せない。更に白夜状態。対して俺様はあと二、三発でお前をK.O.だ。くらえ……暁の揺らぎを、血潮の昂りを、束ねた灯籠よ——"フレア"!」
ボウッ!
『1,156』
「悲しみの旋律、暴虐の過去は、雨雲の匂いを詰めて、迸るは激情、時は戻らず、アンチワールドエンド、ブーストアンドバースト、反逆せよ仇なす者へ、光明いずこより射す、我が手には——"メモリー"!」
チュイン!
『578』
「それがお前の専用魔法か!面白い、次の一発で勝負を決めよう。」
ああ、この人間違いなく良い人だな……と叶多は思った。相手視点で出し惜しみしていた割にそこまで強くないメモリーを見て「面白い」と褒めてくれるのはなかなかの器だ。
「行くぞ!止めどない熱量が、無尽にて注がれる、偽りを眩ませよ——"シャイン"!」
ジュウッ!
『1,138』
タナカは耐えた。
「とどめだ!悲しみの旋律、暴虐の過去は、雨雲の匂いを詰めて、迸るは激情、時は戻らず、アンチワールドエンド、ブーストアンドバースト、反逆せよ仇なす者へ、光明いずこより射す、我が手には——"メモリー"!」
『569』
「……お見事っ!」
『卍白夜の魔導士卍 を倒しました。』
——対戦ありがとうございました。
ステージを降り、退場する。ミチコが出迎えてくれた。
「お疲れ様です。参考になりました。」
「いや、あれは超特殊なので参考にしないでください。ほとんど接待試合でしたし。」
双方詠唱好きのエンジョイ勢とかいう世紀末だった。叶多にとってはこの上なく楽しい対戦だったが、あれを対人戦の模範例とは考えてほしくない。とは言え、今になってこのプレイ人口の少ないゲームの対人戦をガチでやっているプレイヤーも少なく、説明が難しいところだった。
「とにかく、明日はここにセトさんと俳人さんを呼びましょう。ここなら、セトさんが進化したコミュニケーションを最も気持ちよく使えるはずです。」
「確かに、ボス以外には効くんですもんね。コミュニケーション、一回は見てみたいと思っていたんですよ。」
「同じくです。……そうだ、今日の分の詠唱まだなんで、ミチコさん、久しぶりに五百回聞いていきませんか?」
こんな提案に乗るのは世界中でミチコだけだ。
「いいんですか?じゃあ、お願いします。」
二人はバトルステージを後にしてつららの洞窟へ向かった。前に同じことがあった時よりも、叶多は幸せな気がした。
コミュニケーション 進化済み
マッド 進化済み
メモリー進化まで 詠唱残り 80,652回
マグネット進化まで 詠唱残り 9,311回
意地でもエタりません。応援よろしくお願いします。




