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14.「です」

14.「です」


 マリス撃破からちょうど三週間後の日曜日。

 いそいそと着込んで外出の支度をする叶多を見て、母親は言った。

「どうしたの、早いね。デート?夜には帰ってきてね。」

 ——もう別れたよ。

 気分が落ち込んだ。両親には沙耶香と別れたことを報告していない。自業自得だ。

 沙耶香とのデートは、その頃やっていたゲームよりも遥かに楽しいと感じた。予想できない、通じ合う楽しさ。最初は水族館に行った。次は映画館。遊園地。最後のデートは駅の近くのカフェと雑貨店とサブカルグッズのチェーン店。沙耶香も楽しんでいると思っていた。

 ——沙耶香……。

 好き、から、冷めた、へと沙耶香の心が移ろった、そこにはXという何かしらの理由が必ずある。心当たりを探せば、いくつも出てきた。それら全てはXに当てはめることができた。しかし、本当のXはどれなのか、そもそも解が全部でいくつあるのか、もう永遠に知ることができない。

「……ふう。」

 気を抜くとすぐこうして、もう終わったことを考えてしまう。

「雨は降らないって予報だけど。」

 母親が言った。叶多は傘を持って玄関にいた。

「行ってきます。」

 雨を防ぐためのものではなかった。強いて言うならば、なかなか止まない心の雨に濡れてしまわないように。


 幸運にも全員が三時間以内に来れる距離に住んでいるということで、西新宿の安めのレンタルスペースを俳人が借りて(俳人にとっては地元だそうだ)、日帰りのオフ会を開くことになった。

 叶多はミチコが二つ返事で参加を承諾したことに驚いた。工作していなければ女子大生のはずである。何の抵抗もないのだろうか。

 そんなことを考えながら、中三の修学旅行以来の新幹線で東京へ。待ち合わせ場所のいわゆる「LOVEオブジェ」の辺りに着いた時、時刻は十一時半。待ち合わせの三十分前だった。

 四人は気軽に短文を投稿できるSNSでのアカウントを交換し、ギルドチャットよろしくDMを送り合える場ができていた。叶多はそこへ一言、

『着きました』

 と送った。他の三人からの連絡はまだ来ていない。一番乗りのようだ。

 暇潰しに攻略スレを覗いてみる。


『ソースピ攻略スレ』

『811:名もなきソーサラー メテ男ホントウザいタヒね』

『812:名もなきソーサラー >>811 じゃあ頃せばええやん』

『813:名もなきソーサラー 唯一メテ男倒した奴ら晩成型で一撃五十万与えたとか言ってて草も生えない バケモノ』

『814:名もなきソーサラー 大体二千円のガチャでハズレ引いた僧に人権ないのは紛うことなきクソゲー 魔法使いのゲームで魔法が十三種類って舐めてるとしか思えない』

『815:名もなきソーサラー メテ男メンバー募集 二十三時から 標準・晩成限定』

『816:名もなきソーサラー 最近ちょくちょく晩成型募集とか言ってる奴らはエアプか? 晩成型なんてまずもって数が少ない上にほぼ全員未進化の雑魚だぞ ソースは俺』

『817:名もなきソーサラー アンナたその脇prprしたいお!』

『818:名もなきソーサラー >>816 未来があるだけいいんでない? 早熟は未来がない』

『819:名もなきソーサラー なんだかんだで標準型が一番 早熟より尖ってるのが多くてワンチャンある』


 ——完全に荒らしだけど、ペロペロニキの一途さには感服するな。

 苦笑していると、男の声がした。

「間違ってたらすみませんが、タナカさんですか?」

 その声はまるで——。

「俳人さんですか?俺はタナカです。」

「ああ、やっぱり。そうだと思いましたよ。リアルでは初めましてですね。」

 俳人は、黒のダウンジャケットに黒のジーンズという黒ずくめの大柄な男だった。眉が太く印象的な顔をしている。

「これ、『杖』の蕎麦、二八のお気に入りのやつです。お近づきの印にどうぞ。タナカさんは傘ですか。」

「えっ、ありがとうございます。お返しできない上に捻りもなくてすみません。思いついたのが傘ぐらいで。」

 四人は待ち合わせの目印として、「細長いもの」を杖に見立てて持ってくるというちょっとしたジョークを合言葉代わりにしていた。確かに細長いが、蕎麦とは。

「お陰で見つけやすかったですよ。こういうの一つ取っても、その人の個性が出て面白いものです。それにお返しなら、今日楽しむことができれば自分は十分ですから。カラオケも一応予約してありますよ。」

 この人には敵わないな、と叶多は思った。マッドハッターのメンバー全員に言えることだが、もし彼らが本当は善人でなかったとしても、彼らに騙されるなら本望だ。

「セトさんももうすぐ来ますよ。」

「俳人さんはセトさんとオフ会をやったことがあるんですか?」

「ありますよ。彼もいい人です。ちょっとゲームとは雰囲気が違いますけど。」

 そこに、

「あの……。」

 右手で摘んでいる棒磁石。細長いもの。

 近づいてきた女性におおよその見当がついた。

「えっ、ミチコさんですか!?」

 叶多は色々とびっくりして声が裏返った。本当に女子大生なんかい!棒磁石ってどんなセンスじゃ!

「はい。よかった。人違いじゃないんですね。」

「どうもミチコさん。自分は俳人です。」

「タナカです。」

 ミチコはキャメル色のコートを羽織り、バッグを提げていた。髪は言っていた通り、黒のロングだ。どうやら背が叶多よりも高い。歳は五つも違わないはずだが、高校の同級生の女子とは雰囲気からして異質だった。顔は何やら整えてある風だ。まあ、美人なんじゃないの?

 ——これが女子大生か……。

「俳人さん、タナカさん……。うーん、やっぱり違和感がありますね。」

 なんとなくミチコからその類のことを言われそうな気はしていた。ミチコの同一人物判定は厳しい。

「"メモリー"!」

 外なので声はもちろん抑えめで言ってみた。

「おー、タナカさんですね!」

 クリアできたようだ。それでいいのか。

「これ、『杖』の二八蕎麦です。お近づきの印にどうぞ。ミチコさんは棒磁石ですか。いいですね。」

「私の魔法はマグネットですからね。理科で使ったのを思い出して、小学生の時のお道具箱をひっくり返して見つけてきました。」

 俳人の言う通りだ。これはなかなか面白い。

 ——ところで、胸があるな。

「あ、セトさん。どうも、お待ちしていましたよ。」

 俳人が振り返って言った。予想通り、叶多と同年代の男子がいた。

「……。」

 カチカチカチ。

「セトさん、これ蕎麦です。どうぞ。セトさんは折り畳み定規ですか。」

「……。」

「セトさんですか?私ミチコです。」

「タナカです。初めまして。」

 セトは無言で会釈した。口がへの字。こちらの目はしっかり見てくる。不思議だ。

 と思ったら、一言だけ、

「セトです。」

 です!?!?

 見るとミチコも目をまん丸にしていた。

「ああ、セトさんはオフ会だと割とこんな感じなので気にしないでください。」

 セトも紺のダウンジャケットを着ている。カチカチ、と二、三度片手で折り畳み式の三十センチ定規を開閉した後で、それをダウンジャケットのポケットに突っ込んだ。叶多はとりあえず、セトのおかげで自分の身長が一番低くないことに対して安堵していた。

「さて、これで全員集合ですね。向かいましょうか。近くですよ、マッドハッターの祝勝会場は。」


 コミュニケーション 進化済み

 マッド 進化済み

 メモリー進化まで 詠唱残り 82,154回

 マグネット進化まで 詠唱残り 9,312回

意地でもエタりません。応援よろしくお願いします。

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