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違和感×評価方法

 何の意味があるのかは分からないが低い位置に設置された綱の上を歩きながら考える。

 一般に周知されていない試験がある……と推測する理由はみっつだ。


 ひとつはあからさまに嘘の記録を受験生に教えて、真実らしい記録は保管していること。

 ふたつめはこの体力試験を突破出来なさそうな探索者がいること。

 最後にそもそも協議で出した記録よりも試験官の意見で決まる。


 根拠としてはあまりに薄弱であるが…….正直なところ体力試験で東が受かる見込みはないので、確率が低かろうとそれを探るというのは悪い手ではないかもしれない。


 考え事をしながらの綱渡りを終えて何の参考にもならない記録を言い渡されたのと同時にポケットの中のスマホで測っていたタイムを確認する。


 今度は明らかに実際のタイムよりも速く綱を渡り切ったことになっていた。


 ……やっぱり何かはあるな。通り過ぎ様に横目で紙に書かれている方のタイムを確認するとスマホで測っていたタイムに近く、あちらが確認するためのタイムには嘘が書かれておらず、あくまでも俺たちに知らせているのが嘘の記録ということだけのようだ。


 俺が頭を悩ましながら次の競技のところに移動すると東はおらず荷物だけ置かれていだ。どうやら俺を待っている間に東の番が来たらしい。


 荷物の前に行って拾い上げると、近くにいた土田が俺を見て小さく手を上げる。


「や、ヨクくん、もうちょっとで一次試験も終わりそうだね」

「ああ、そっちはどうだ? と言っても土田がいい結果を出しているのは見ていて分かるけど」

「ツツちゃんね」

「土田」

「ツツちゃんね」

「……ツツちゃんが受かりそうなのは見てたけど、もう二人の方はあまり見てなかったからな」

「んー、ふたりとも合格ラインにはギリギリって感じかな。そっちもヨクくんは合格は簡単そうだね」


 ヨクくんは……ね。まぁ傍目から見たら東は下から何番目というレベルでかなり厳しいだろう。それに試験も大半が終わったわけで、不合格なのは決定しているように見えるのは間違いないだろう。


 俺はボリボリと頭を掻きながら汗をかいて息を切らせながらこちらに来る東に向かって手を上げる。


「ツツちゃん、そっちの三人も合格するなら一緒にってのは難しいですね。合計で五人になるので」

「……ふーん、何かあるんだ。面白いね。あ、お昼ご飯一緒に食べよ?」

「あ、昼はひとりで食うんで」

「東さんと一緒でもなく……?」


 俺は頷いて東と合流する。

 初以外とは一緒に食いたくないんだよな……と思いつつツツちゃんが次の競技に向かって行くのを見る。


 思考を戻すとして……何かがあるとしたら試験官が用意した推理ゲームのようなものを解けということだ。つまり難易度が高いことはあっても理不尽はなく、つぶさに観察していれば手がかりは見つけられるはずである。


「……西郷くん、完全に順番の方が記録を取る人も簡単なのにある程度自由に動けているのが不思議だよね」

「まぁ、そうかもしれませんね」

「だとすると……ここにいると見つけられないかも」


 周りをキョロキョロと見回しながらフラフラとどこかに歩いていく。


 俺は俺で考えるか。タイムの偽装によってどう変わるか……だが、パッと思いついたのは減らしたり増やした数字が暗号になっている……だが、記録に取ってある分は盗み見なければ分からないし、暗号をその場で解くのなんて探索者と全く関係がない。


 探索者に必要な技能という意味で考えると、ダンジョンの中で違和感を見逃さない幅広い視点、あるいは不意打ちに対する警戒ってところか?


 だとすると思考というよりは観察能力を見ているはずである。

 毎日試験をしていてそれが合格者からバレていないのは少し不思議だな。


 ……いや、そもそも答えがあるのか? 答えがネットに流されたり知り合いに教えられるリスクを考えると毎日試験用に謎みたいなものを用意する必要があるが、そんなものは不可能に近いだろう。


 だとしたら……と、俺が考えていると背後から近づいてきた大男に肩をポンと叩かれる。


「どうかしたのか? 立ち止まっているが」

「……ああ、少し聞きたいんですけど、俺が荷物を背負わず持久走でフラフラになって、他の競技も散々な結果だったとしたら……今立ち止まっていたという理由で合格になりますか?」


 ハッキリと言ってしまえば「意味不明」の一言で片付けられるような言葉だが、一瞬だけ大男の試験官は考える素振りを見せる。


 ……正解か。

 つまり、答えのないクイズだった。不自然を見せて、その不自然に気がつくということそのものが探索者に必要な資質であるということだ。

 答えがない故にネットや知り合いに攻略方法のようなものを共有することが出来ない……ということだ。


 東が気がついたタイムがおかしいこと以外にも何かしらの不自然があるのだろう。


 大男は頭をボリボリと掻いてから、俺の方に口を寄せて小声で尋ねる。


「どうやって気がついた?」

「そもそも俺の予想が正解かどうか……試験の違和感に気がつくかどうかを試して……というか、観察力があるかの試験であって、不自然に対して反応してるのかを見るって内容であってます? 答えがない問いだけがあるというか」

「それで合ってる。観察力があるやつはダンジョンで重宝されるからな。……その評価項目まで見つけた奴は流石に初めてだが」


 大男はそう感心したように言ってから俺の方を見る。


「試験終わったら、俺のいるパーティにこないか?」

「……それいいんですか?」

「ああ、もちろん。この試験を探索者が引き受けるメリットは有望な奴をいち早くスカウト出来るってことだからな」

「なるほど。……まぁでも、世話になる人は決まってるんで」


 男は少し残念そうな表情をしてからポケットから名刺を取り出して俺に渡す。


「早いな。見る目がある奴だ。俺の連絡先とか載ってるから、気が変わったりそこを辞めたら、良ければ連絡してくれ、歓迎するぞ」


 随分と評価してくれているな。……まぁ探索者なんて危険なことをするのは初のためだけで、それがなければ探索者なんてしないので他のところで探索者として働くことはないが名刺を突き返すのも悪いので一応受け取っておくか。


 初の研究で協力を頼むかもしれないし、初は嫌がるだろうが。


 そうしてから競技に戻って競技を受ける。おそらく競技の評価も最上位層に食い込んでいるだろうし、俺はまぁ問題なく受かるだろう。


 東は少し難しいかもしれないな。不自然に気がついた態度による加点が体力のなさをどれぐらい打ち消すのか……という感じで評価は人によって割れそうだ。


 あとは簡単な適性検査を受けたら合格発表か。

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