一次試験終了×昼食
性格診断とさして変わらないような簡単な適性検査を受けたあと、室内のベンチに座って初と一緒に買ったビー玉を手に持ち、照明の光を浴びてキラキラとそれを眺めながら試験の結果が出るのを待つ。
右隣は緊張でカチコチになっている東が落ち着かない様子で俺をチラチラと見ていて、左隣はツツちゃんがもう一つ隣に座っている女の子の友達と楽しそうに話していた。
「さ、西郷くん、私、無理だよね? 持久走をなんとか走り切ったけどそのあとはボロボロだったから……その持久走も西郷くん頼りだったし……」
「どうでしょうね。結構、色々と評価項目があるみたいですし、俺が気がついてない評価項目もあるはずなのでなんとも言い難いです」
俺の評価項目という言葉を聞いた東はコクリと頷き、反対側に座っていたツツちゃんが不思議そうな顔をして俺を見る。
「評価項目? タイムと態度ぐらいじゃないの?」
「……ああ、気づいていないのか。あまりそういう攻略法をベラベラと話すのは試験として良くないだろうから詳細は伏せるが、色々なものを考慮しているらしい。成績で言うと多分封印されていた闇の受験生とツツちゃんがツートップで俺が一段下がると思うが、一番高い評価を受けてるのは多分俺だぞ」
「……へー、自信満々だね。成績がいい人順で合格者が呼ばれるからちょっと勝負する? 私が勝ったらお昼ご飯も晩御飯も両方一緒にね」
「俺が勝ったら?」
ツツは俺が勝つということを考えていなかったのか「んー」と考える仕草を見せてから口を開く。
「じゃあ、ほっぺにちゅーしてあげるよ」
「いらねえ……」
「ええっ!? この美少女がたよ!?」
まぁ可愛いとは思うけども……。心底驚いている様子のツツを見てため息を吐く。
「いや……あのな、俺は好きな子がいるから」
ツツは俺の言葉を聞いてコクリと頷く。
「いや、それは分かるんだけど……年頃の男の子なんて好きな子がいても可愛い女の子にちゅーはしてもらいたいものじゃないかな?」
ツツは人差し指を自分の唇に当てながらコテリと可愛らしく首を傾げる。あざといけれど可愛いのは間違いなく、確かに言われてみればとりあえず可愛い子とは色々としたいという欲求は普通にある。
まぁ、断るが。
「キスはいらない。なんかそっちの連れがすごい目でこっちを見てるし」
ツツが連れていた友達の男の方の視線がかなりキツいものになっていることに気がついて思わず苦笑いをしてしまう。おそらくツツに好意を抱いていて俺に警戒しているのだろう。
初以外の女の子に手を出すつもりなんてサラサラないのでジェスチャーで否定していると、東がショックを受けたような表情を俺に向けていた。
「えっ……さ、西郷くんも、男の子ですもんね。好きな女の子ぐらい……」
「そう言えば二人はどういう関係?」
ツツは不思議そうに小首を傾げて俺と東に尋ねる。
「どういう関係って……荷物持ち?」
「その言い方だと私の人聞きがめちゃくちゃ悪いですよ。……えっと、さっき道端で声をかけられて」
「それだと俺がナンパしたみたいになりません? 大荷物を持ってたから声をかけたら一緒の試験を受けにきたって感じだな」
俺と東がそう話すと、ツツは感心したように俺を見たあと友人たちの方に目を向ける。
「へー、だって、いい人だね。ルーちゃん」
「へ? あ、う、うん。優しいです」
ツツの友達の少女は控えめに笑ってから俺の方を見る。確か俺に声をかけようと提案した子だったか。
少し細身で色白な姿はとても運動能力が高いようには見えない。ツツも東もさほど筋肉質には見えないが体幹がしっかりとしているのが見て分かるが、彼女は本当に普通の女の子に見える。
よくそんな距離を走れたなと思っていると、ツツに肩を叩かれる。
「もう、あまりじっと見てたらダメだよ」
「ああ、悪い。……そろそろか」
初とそんなに体格が変わらなさそうなのにな、などと思っていると試験官の大男がのしのしと歩いてきて口頭で発表していく。
少し適当に感じるが、始まったばかりの資格で毎日やるとなるとこんなものか。
「えー、まず、この資格の意味は知っての通り迷宮探索の適性がないものが迷宮に挑戦して取り返しの付かない怪我や死亡を防ぐためのものだ。こちら側に裁量が多いため納得のいかない結果もあるだろうが、そこは飲み込んでほしい。あと、なんやかんやと人手不足な業種なのでまた別日にまた受けて合格してくれると非常に助かる」
俺の場合一発で受からなかったら偽造する予定だけどな。などと考えていると試験官の男の目が俺の方に向く。
「えー、まず西郷良九、日向葉、土田月」
一息で俺とツツの名前が呼ばれて、ツツは本当に俺の方が先に名前が挙がったことに目を開く。
それから数人の名前が呼ばれて、ツツの友人の男がホッと息を吐く。
あとこの五人の中で呼ばれていないのは、ツツの友達の女の子と東だけか。
「──以上だ。合格者は一時間半後にまたここに集まるように」
隣にいる東に何と声をかけようかと考えていると、東は嬉しそうに俺の方を見て笑みを作る。
「合格おめでとう。西郷くんはやっぱりすごいですね」
「……あ、あー、ありがとうございます。すみません」
「まぁ一発で合格は難しいみたいですし、そもそも持久走でヘロヘロでしたからね」
もう少しのところだったのではないだろうか、と思いはするが年上を変に慰めるみたいな言葉になると失礼だろうか。
人が出ていくのを横目で見ながら東に尋ねる。
「えっと、これからどうしますか?」
「あー、んー、まぁ帰ろうかな」
「フラフラですけど大丈夫ですか? 鞄も重いですけど」
俺がそう言うと東は少し微笑んでから意地悪そうな表情をして俺の頬を触る。
「えー、西郷くん送ってくれるつもりなんですか?」
「……まぁ、荷物を持って帰るのは難しそうですし、待っていてもらえるなら」
東にとって俺の返事は非常に意外なものだったのか、歳のわりに幼さを思わせる表情を浮かべて驚いたあと、照れたように自分の頬を掻く。
「西郷くんにそんなお姫様扱いされちゃったらお姉さん照れちゃいますね」
「お姫様扱いというか……まぁなんでもいいですけど、どうしますか?」
「流石に大丈夫ですよ。じゃあ、また……」
東が立ち去るため鞄を持ち上げようとするが一向に持ち上がる気配がなく、むしろ鞄の重さに身体がフラついていた。
倒れそうになっている東の肩を軽く支えてから、再び声をかける。
「あー、待てそうにないですし、待っていてもらえません?」
「う……あ、あ、お昼ご飯食べるよね? 奢るよ」
「……あー、じゃあ喫茶店とか行きますか。飲み物を飲むぐらいでいいですけど」
人前で飲食はしたくないが……まぁ東のために言い訳ぐらい用意した方がいいだろう。
俺が東の鞄を背負うと、ツツがぴょこぴょこと俺の前で跳ねる。
「えー、ご飯行くの? 私の誘いは断ったのに」
「いや、特に腹減ってないから食った。する予定はないけどな」
「一緒に行っていい?」
「それは東さんに……」
と俺が目を向けると、東は俺が背負っている鞄の中から財布を取り出して中身を確認する。
それから一瞬考えてから胸を張ってぽふんと胸を叩く。
「ふふ、若人達よ、お姉さんに任せなさい!」
「……ありがたいんですけど、大丈夫ですか?」
まぁ俺は食事はしないつもりだが……。金が足りるのか不安である。




