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胸元×隠された試験

 多くの競技が機械的に進んでいくが、持久走の影響もあってか思うように結果が出ない人が多いようで全体として不満げだ。

 そう思っていると、隣にいた東が暑さのためか胸元をパタパタとしながら「あれ?」と首を傾げる。


「あのさ、西郷さん」

「な、なんですか? み、見てませんよ、胸元」


 俺が慌てて否定すると、胸元を扇いでいた手を止めて視線を落とし、それから「にやー」っと意地悪な笑みを浮かべる。


「へー、西郷くんも興味あるんだ。まぁ男の子ですもんねー」

「い、いや、だから見てないです。本当ですからね」

「はいはい。別に見ててもいいですよ?」


 いや……セクハラとか言われそうだし……と思いながら目を逸らすと、東はにやにやと笑みを浮かべながら本題に入る。


「あのさ、ハードル走の記録なんだけど、おかしくない?」

「おかしいって?」

「いや、ほら、さっきの競技なんだけど西郷くんと私で同時にスタートして、西郷くんの方がだいぶ先にゴールしたのに私の方が速いことになってる」

「あれ? 本当ですね。まぁ、人の手で測っているから多少は……」


 とは言っても順位が逆転するレベルでの誤差というのは流石に大きすぎる。

 2秒近くはズレているだろう。


「話をしに行ってみる?」

「いや、メインの試験官がでも気難しそうですし」


 合格が言い渡されている俺からしたらわざわざ訂正を求める意味もない。そう考えていると、東は「あれ?と首を傾げて目を細める。


「あの人、言い渡されてるタイムと試験官の人が手に持ってる紙にメモされてるタイムが違う」

「ここからよく見えるますね。……それにしてもタイムが違うって妙だな……まさか、八百長……というか出来レースか?」

「いや、出来レースなら色々おかしくないかな?」

「……まぁ、わざわざバレるような嘘を吐くのはおかしいですよね。記入してる方は正しいデータっぽいですし、意味が分からないですね」


 何かしら意味があるのだろうが……と考えてからなんとなく思いついたことを口にする。


「評価に関係している。というのを前提として考えると……誤認させて何が変わるかですよね」

「二次試験のチーム決めとか? ほら、試験の結果を見て本人を見ずに決めたら良くない結果になるみたいな感じとか、あるのかなって思いました」

「いや……どうでしょうか。一次試験を一度受かれば二次試験は半年間一次試験を受けなくていいそうですしから一次試験と二次試験はかなり独立しているものですよね。それに二次試験は魔物に怯えなければいいって話なので、実質的な試験は一次試験だけで、二次試験は事実上ベテラン探索者による実地での講習会ってところかと」


 俺がそう言うと東はコクリと頷く。東は胸元を開けることはないが、汗で下着が透けて見えているのが目に毒なので少し目を逸らしてから考える。


「んー、そもそもの話として、評価システムってあるようでないんですよね。最初に西郷くんを不合格にしようとしたり、さっき合格を言い渡したり、メインの試験官の意見で決定するという感じで」

「……どこかひとつでも目を見張る能力を見せろってことですよね。一芸でも合格させるみたいな、俺の場合は大荷物を背負って持久走が出来る筋力と体力が評価されたって具合で」


 俺と東は顔を見合わせてゆっくりと同時に口を開く。


「……別の基準がこの試験にはある?」


 同時に出た答えは、体力測定とは思えないようなものだった。体力測定の中に隠れて別口の評価があるなんて普通では考えられない、考えられないことではあるが……。


「でも、探索者の中で体力に劣る人って時々いるんですよね」


 そう東は口にする。俺もあまり詳しくないし、資格が導入される以前から探索者を生業にしていた者には探索者資格を与えていたようなので今の合格基準を満たしていない探索者がいてもおかしくはないが……東が疑問に思うということは、試験を受けているだろう年齢で体力に劣るものがいるということだろう。


「……そう言えば俺が世話になっている人が「探索者の試験は簡単」と口にしていたんです」

「まぁ、西郷くんの体力ならそうですよね」

「いや、その人は俺の体力については知らないはずなので……。でも、結構疑り深く話したことがあるので、そういう「もう一つの試験」による方法で合格することを考えていたのかもしれません」


 ふたりで話していると東がゆっくりと口を開く。


「……そっちの方を狙ってみようかな」

「本当にそういう試験があるかも不明ですよ?」

「うん。それはそうなんですけど……少なくとも運動試験は合格出来そうな見込みがないので……」


 まぁそれはそうだと思うが……存在しているかどうかすら不明な試験にかかるのは……。いや、東はここで知り合っただけの人であり、初のような俺が守らないとダメな人ではない。


 そもそも俺より歳上だし……と思っていると、次の競技の場所に行こうとした東が自分の靴紐に足を引っ掛けて何もないところでずっ転ける。


「……東さん、大丈夫ですか?」

「うぅ……西郷くん……」


 急いでそちらに駆け寄って東の手を取って起こす。

 顔に土がついていて擦り傷が出来てしまっているのを見てため息をついてしまう。


「……平気ですか?」

「うん……大丈夫」


 ……大人だし、俺が助けるような義理はないが……なんか放っておけないよな。関わり合いになってしまったことだし。

 でも、体力試験ならいいとして、そういう頭脳の試験も隠されてあったとしてそれを俺が手伝うというのはあまりいいことではないか……あくまでも東の能力を試験で発揮したのを評価されるべきで、そこに俺が答えを見つけるのは違うだろう。


「あー、東さん、体力試験の方もちゃんと頑張ってくださいよ」

「うん、頑張ります。お昼ご飯ももう少しですからね」


 東は胸の前で小さく両手でガッツポーズをして見せる。……まぁ、合格はしてほしいよな。

 女の子でこれだけの体力を付けるのには相当な努力をしたことだろうし、報われてほしいとぐらいは思う。


 ……下手に探索者の資格を取ってしまったために不幸なことが起こるかもしれないので、あまり手出しはせずにいようと思うが、心の中で応援はしよう。


 それはそれとして……もう一つの試験があるのかは少し気になるな。興味本位で少し調べて見るか。

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