好敵手と書いて友達と読む(2)
「牢に入れられるのもうんざりしてきたところだ。そろそろ、騎士団長としての仕事をさせて貰おう」
「何だと……?」
アイリスは歩き出し、牢で取り戻していた剣の柄を握る。
「っ!? 貴様、私に刃向かうつもりか! 私は王の代理だぞ! 私に刃向かうのは、王に刃向かうのと同じになるのだぞ!」
「騎士団は王に仕えているのではない。国に仕え、民を守る。過ちを犯したならば、王といえどそれを正すのが騎士団の役目」
「な、なんだと……!?」
「何より、そう仰ったのは、レイハイスト王自身。ならば、私は騎士団長として、その役割を果たす!」
「貴様一人で何が出来る! ええい、兵士共、この小娘を捕らえよ! いや、反逆者として殺せっ!!」
「へへっ、待ってたぜぇ、ビエル様。その言葉をよぉ」
兵士の中心だろうか、男の一人が剣を抜き、その刃を舐める。ここに居る二十の兵士、それはビエルが金で雇ったゴロツキの兵士達だった。逆にいえば、ビエルは寝首をかかれることを恐れ、騎士団を信用していないということ。
「ゴロツキ共を信用して、お前に付いた兵士を信用しないとは。人望の無さは自覚しているようだな、ビエル」
「黙れ、小娘っ! どうした、お前達! 早くしろっ!!」
「へっへへ、分かってますって。おい、お前らは手を出すなよ! こいつは俺の獲物だ!」
ゆっくり歩いてくる頬に傷のある男に、アイリスは静かに剣を抜いた。
「へへぇ、俺は強い女が大好物でな。あんたを一目見た時から、俺の物にしたいってずっと思ってたんだよ」
「思うだけにしてくれ。口に出されると気分が悪くなる」
「いいねぇ、その目。屈服させて、屈辱に塗れた顔にしてやりたいぜ……なあ、騎士団長様っ!!」
ギィンッ!
踏み込み、力任せに振り下ろしてくる剣をアイリスは捌き。
ギンッ、ギキィンッ!
剣技とも呼べない、ただ乱暴に振られるだけの男の剣を右に左に受け流していく。
「おらおらおらぁっ! 簡単に終わっちゃ面白くねぇ! せいぜい足掻いて、楽しませてくれよぉ!」
「お前を楽しませるつもりはない……すぐに終わらせる」
ギキィンッ!
大きく振り下ろされた剣をアイリスが受け止めると、男は力を込め押し込みわざと顔を近づけた。
「つれないこと言うなよ、なあ? もっと楽しもうぜぇ、騎士団領様」
「……とりあえず、口を閉じろ。息が臭い」
「ははぁ、なんだよ、いいじゃねえかぁ! いやぁ、興奮するぜぇ! その蔑んだ目が屈辱に変わると思うとよぉ!!」
刃が重なった剣をなおぐぐっと押し込み……確かに力では男のほうが上だろう。アイリスはふっと力を抜き、身体を逸らして剣を流し、
「おっとと」
刃を流され、前のめりに体勢を崩す男。その背に向かいアイシスは剣を振り下ろし、
「なーんてなっ!」
男は笑い、素早く身体を振り向かせ剣を横に薙いだ。男の速い剣はアイリスの身体を斬り、そして、アイリスが振り下ろした剣を紙一重で避け、たんっと後ろに退く。
「俺が力だけの剣だと思ったか? はっははははっ、剣をやっている奴ほど、速さで勝てるとバカみたいにすぐ勘違いしやがる!」
アイリスの斬られた身体、裂けた胸の辺りの服を見つめ、男はなお笑った。
「へへぇ、いい眺めだなぁ、おい。今からゆっくり服を斬っていくのも面白いかもなぁ」
「……次は無い。もう、終わった」
「あ?」
カラン――
構えようとした剣が手から滑り落ちる。男の右手の親指は斬り落とされ、血が噴き出した。
「あああぁぁああああああぁっっ!! なんだっ!? なんだこれはっ!!」
左手で血を抑え、激痛に顔を歪ませながら男はアイリスを睨み付ける。
「てめぇ! てめぇっっ! おい、お前ら何をしてる! 囲んで潰せ! 手と足を斬って動かなくしてやれ!!」
「……言っただろう、口は閉じろ」
「ぅがっ……!」
剣の柄頭でこめかみを殴り気絶させ、アイリスは兵達へと身体を向けた。




