第二章 好敵手と書いて友達と読む(1)
「陛下にお会いしたい。いいな」
「で、ですが」
一際立派な扉、その左右の兵士は現われた三人、よく知っている二人と幼い少女という奇妙な組み合わせを前に戸惑った声を上げた。
「牢に入れられたとはいえ、私はまだ騎士団長だ」
騎士団長――その言葉にノヴァは後ろからアイリスの顔を見上げた。体術を習ったお陰もあって、アイリスの首や肩、手や指先を見れば身体を鍛えている事は分かっていたし、歩くバランスや身体の動き方を見ても強い人なんだろうなということは薄々感じていた。
ただ、おそらく年齢は二十を過ぎたくらいに見える。その若さで騎士団長までになったのは、才能ももちろんあったかも知れないが、それだけの努力と鍛錬をしたということ。それを含めての強い人だった。
「しかし……」
「分かっている、中にはビエルも居るのだろう。私が無理に通ったと君達は言えばいい。それとも本当に気絶させるくらいしたほうがいいか?」
「い、いえ! どうぞ、お通りください!」
「ありがとう」
アイリスは扉に手をかけ――そして、ノヴァのほうに顔を向けた。
「ノヴァ、さっき離した通り、私達の後ろにいろ」
「はい、了解です」
頷くノヴァを見て、その後にフロナと視線を合わせ共に頷き、アイリスは王の間の扉を開けた。
「――ほう、これはこれは騎士団長殿。牢に入っていたはずですが」
王の間に入ってすぐに聞こえてきた男の声。その男はアイリスの隣にいるフロナへと顔を向け、それはどういう感情を宿したものかニヤリと笑った。
「ああ、またフロナ殿でしたか。困りましたなぁ、勝手をされては。これでは、フロナ殿にも罰を与えなくてはなりませんなぁ」
下卑た笑いにフロナの身体が震えた。それは恐れというよりも、気持ち悪さへの怖さだったろうが……
(なるほど……)
スタイルが良くて可愛いフロナに、変な視線を向ける背が低い小太りの男……この男がビエルなのだろう。
ノヴァは二人の後ろから周囲へと視線を向けた。部屋には兵士が二十人ほど、後はビエルの周りに大臣のような男達が五人。そして、中央の奥にいる白髪に髭を生やし、王冠をかぶった老人。あれが、レイハイストの王。
(そして……ビエルの横にいるあの人が)
白い装束に翡翠の髪、肩には白い子猫を乗せ。
まるで女神みたいに綺麗な少女――あれが、レイハイストの魔女。
(ふふ、良かったぁ♪)
その強い魔術の気配にノヴァは微笑んだ。ちなみに、他の人は魔術の力なんて感じないらしく、強い弱いなんていうのも分からないらしい。ノヴァ自身もなんで他の人の魔術の力が分かるのかは知らないが、何となく感じていた。
「……ビエル」
「ほう」
一歩踏み出し、鋭い視線と共に呟いたアイリスのその言葉に、ビエルの片眉が上がる。
「呼び捨てで呼んだ挙げ句、まだそのような目を向けますか、騎士団長殿。貴女はまだ自分の立場が分かっていないようだ」
「立場が分かっていないのはお前の方だろう、ビエル。一大臣でしかないお前が、何の権限で騎士団に命令している。騎士団はお前の私兵ではない」
「ふはっ、何を言うかと思えば。今や私は宰相、そして、王からは全てを一任されている。私の命は王の命も同然。そんなことも分からないから、何度も牢に入れられるのですよ」
「滑稽なことだな。魔女の後ろに隠れているだけの小物が、自分の力だと勘違いして大物ぶるのは」
「……何だと、小娘が」
声が変わったビエルに、周りの大臣が怯え後ろに下がる。
「滑稽なのはお前もだろう、アイリス! 騎士団の連中は全員私に付いた! お前は捨てられたんだよ!!」
「……ああ、そうだな」
アイリスは笑った。騎士団長の自分だったら簡単に任を外されることも殺されることもないが、他の騎士団の仲間は何をされるか分からない。だからこそ、ビエルの言う事を聞くように団員には伝えていた。
もし本当に自分を捨てる者がいたとしても恨むことはない。全て自分の不徳だろうと思う。それに、一人になったことで良かったこともある。




