好敵手と書いて友達と読む(3)
「おい、行くぞお前ら! 相手は一人だ! 囲め囲めっ!!」
一斉に動き出す十九の兵達……アイリスはふっと息を吐き。剣を構え直す。
五人なら確実に勝てる。十人でも、この程度の相手なら勝てるだろう。だが、十人以上に一斉に斬りかかられたらどうか……
身体が大きい兵も何人か居る。そんな奴に飛びかかられ身体を押さえられたらそれで終わる……動きつつ一人ずつ相手にして……
(……ああ、分かっているさ)
アイリスは内で呟き笑った。どう考えても勝てない戦いなのだ。
ビエルの横に居る少女。あの魔女が一つでも魔術を放てば自分は負ける。ビエルが一言、「倒せ」といえば自分は終わる。
(――それでも)
後ろから感じる視線、フロナと……さっき出会ったばかりの少女、ノヴァ。
不思議な、いや、面白い少女だと思う。だが、あの真っ直ぐな明るさに、何故だか自分も牢に入っている場合ではないと感じて。
敵わない相手でも、自分を貫こうと決めた。そんな背中を見せてやろうと思った。
(どうしたんだろうな、私は)
苦笑する。だが、後悔は全くない。
スッと剣を構え直す。息を深く吸い、そして――
(優しいな、アイリスさん。殺すこともできただろうに)
自分が斬られる危険があっても、親指を斬り、戦えなくするだけにした。
ゴロツキ相手でも無闇に斬り殺そうとはしない。だけど、その騎士としての矜持や優しさを持ったままでは、一斉に向かって来る兵士達に対して無傷では済まない……いや、殺されてしまうかもしれない。
(でも、それでもアイリスさんは自分を貫くんだろうな)
ほとんどの人は愚かだと、馬鹿だと言うだろう。でも、ノヴァはそういう愚かさが大好きだった。
ノヴァは笑い、小さく風の魔術を囁いた――そして。
一斉に斬りかかってくる兵士達。いくらアイリスでも、全てを捌ききれないだろう。そして、捌ききれないということは斬られるということ。
待っていては振りになるだけ、なるべく一対一になるようにこちらから動く。
「アイリスッ!!」
フロナが叫び、アイリスは踏み出そうと足に力を入れた――その瞬間、
ダンッ!!
アイリスの横を疾風のように駆け抜けた小さな影は、爆発したような激しい踏み込みと共に掌底を放ち、兵士達を吹き飛ばした。
「――ありがとうございます、アイリスさん。わたしにどんな相手でも真っ直ぐに自分を貫くって姿を見せたかったんですよね」
何が起こったのか分からず呆然とするアイリスに振り返り、
「アイリスさんの後ろ姿に、わたしもぐっと来ちゃいました。だから――」
小さな少女、ノヴァはにっと笑った。
「ここからは、わたしの番です」
「待てっ! お前は下がっていろ、ノヴァ!」
「大丈夫ですよ、わたし、強いですから」
止めるアイリスに微笑んで、ノヴァは気楽に兵士達に向かって歩き出す。
「はいはーい、兵士さん達立ってくださーい。倒れたままだと戦いにくいので、起き上がってくださーい」
「てめぇ、これは魔術か……? ガキが舐めやがって……」
ぱんぱんと手を叩きながら言ったノヴァの言葉に、兵士達は怒りの表情と共に立ち上がって行く。
「おい、いくら魔術師だろうが、すぐに殺せるほどの力はねぇ! 周りを囲んで一人でも身体を押さえたらそれで終いだ! おら、いくぞ! かかれぇ!!」
「っ! 下がっていろ、ノヴァッ!!」
男達が吼え、アイリスが叫ぶ――だが、その声が終わる前に。
ノヴァの姿は消えた。
「ごぶっ!?」
鳩尾に掌底を打ち込まれた兵士の一人が膝から崩れ落ち。
「……は? がふっ!?」
間抜けな声で顔を向け――だが、視線の先に少女はなく、後頭部を蹴られ床に倒れる。
「……ぁ?」
何が起こったのか理解出来ず、倒れた仲間に顔を向け動きが止まる兵士達。
僅かな時間……だが、ノヴァにとっては十分過ぎる時間だった。
――ゴッ! ガッ! ドンッ!!
顎を蹴られ、後頭部を蹴り抜かれ、鳩尾を打ち――近くにいた三人の兵士も瞬く間に床に倒れ。
「――――」
息を乱す事もなく五人の男を気絶させたノヴァは、倒れた姿を見ることなく立っている兵士達へと視線を向けた。




