牢屋から始めよう(3)
「ごめんなさい、牢になんて入れてしまって……ですが、もう魔女のことで城に来てはいけませんよ」
地下牢からでて城の廊下を歩きながら言ったフロナの言葉に、ノヴァは首を横に振った。
「それは困ります。わたしは、魔女さんに会いに来たんですから」
「もしかして……貴女は魔女の知り合いか何かなのですか?」
「いいえ、顔も名前も知りません」
「と、いうことらしい。魔女と戦いたくて訪ねて来たそうだ、この子供は」
「…………」
驚き言葉が止まるフロナに、アイリスは笑った。
「はははっ、お前のそんな顔を見るのも久しぶりだな」
「笑い事じゃありません、アイリス。戦うだなんてどうしてそんなことを……それに、魔女のことを知らないってことは貴女はこの国の人間ではありませんね。家族が心配しているでしょう」
「? 親は実家に居るので多分心配……というか、わたしがここに居ることも知らないと思いますよ」
「え……貴女は家族と一緒にレイハイストに来たのではないのですか」
「一人で来ました。旅をしているので……あ、よく間違われるんですけど、旅行者じゃないですよ、旅人です」
「貴女みたいな小さい子が?」
「それもよく言われますけど、そんなに不思議ですか」
「だって……貴女の年齢は……」
「十三ですけど」
「…………」
再び驚き言葉が止まるフロナ。そんなフロナから視線を移し、アイリスは小さな少女を見つめ頷いた。
「……なるほど、魔女と戦うというのもまるっきり冗談ということではないみたいだな」
十三歳という少女が旅ができている。それは強い魔術師の証明でもあった。少なくとも、ただ魔術が使えるだけの学者魔術師よりも強いのは確かだろう。
けれど、
「確かにお前の言うことが本当なら、それなりに強い魔術師なのだろう。だが、魔女の力はまるで違う。あれは伝説だよ、古い昔、ここレイハイストが魔術王国と呼ばれていた時の王女そのものだ」
「貴女らしくもありませんね、アイリス。まさか、その王女が復活したとでも?」
「ふふ、そう信じたくなるくらいの力ということだ。お前だって、そう思ったことはないのか」
「それは……」
「やっぱりそんなに強いんだぁ! 面白そうっ!」
喜びの声を上がるノヴァに、フロナとアイリスは顔を見合わせ、思わず笑ってしまった。
「ふふ、お前はやっぱり馬鹿だよ」
「えー、そうかなぁ」
「まあ、駄目で元々で聞いてやるが、お前は塔を吹き飛ばすことはできるのか」
「う~ん、壁くらいなら吹き飛ばせるかな」
「……壁は吹き飛ばせるのか」
「最終的には山を吹き飛ばすくらいにはなりたいんですけど、ああでもこっちの魔術ってそもそもそんな大技ないしなぁ」
「山を吹き飛ばす……」
「ええ、警報鳴らされるくらいにはなりたいです」
「あー……いや、それよりも、それなら分かるだろう。魔女には敵わないと」
「う~ん、『魔術の力が強いだけ』なら勝てると思いますよ、多分」
「どういう意味だ」
「? そのままの意味ですよ」
ノヴァは笑い、ぐっと握った拳を上げた。
「本人を殴り飛ばすんです。それで勝てます」
「近づく前に魔術で吹き飛ばされるだけだ」
「だったら避けます。昔の偉い人が言ってるじゃないですか、『当たらなければ、どうということはない』って」
「そんな言葉、初めて聞いた」
「そうですか。でもこれって、結構真理だと思うんですよ。どんな強い攻撃も当たらなければ意味がない」
「当たらなければな」
「あ~、疑ってますね」
「いや、疑ってはいない。そもそもお前がそんなに力があるとは思っていない」
「ひどいなぁ。じゃあ、どうしたら信じてくれます?」
「どうしたらってな……」
「あ、じゃあじゃあ、魔術師を連れて来てください。その全部の魔術を避けて見せます」
「魔術師……お前はレイハイストのことを本当に知らないんだな」
「? どういうことですか?」
「レイハイストには魔術師はいません」
「どうしてですか? というより、魔術師が居ない国なんてあったんですね」
アイリスに続けたフロナの言葉に、ノヴァは首を傾げて問いかけた。




