牢屋から始めよう(2)
「あのー、すみませんー! 魔女さんに会いに来ましたー!」
――ガッチャン!
「うん、まあ、分かってた」
地下の牢屋に入れられて、ノヴァの言った一言目はそれだった。
「うん、まあ、分かってたよ。でも、それでもあるじゃん、もしかしたらって。こういうのってやってみないと分からないし、うんうん」
そう続けて自分を無理矢理納得させ、とはいっても、終わったことはあまり気にしない性格でもあるのだが。
ともあれ、床に布が置かれただけのベッド(?)に座り、ノヴァは牢屋を改めて見回した。
「さーて、どうしよっかな」
窓もない……というのは当たり前の地下牢。あるのは簡易トイレと寝床だと教えてくれる長方形の布だけ。後は、牢屋なので鉄格子。
牢屋に入ったのは初めてなのだが、想像通りの至って普通の牢屋――そう魔術も何もかけられていない牢屋だった。
(んー、魔術師だったらすぐ逃げることができるけど、どうしてたんだろ?)
少し強い力が使える魔術師なら鉄格子なんて簡単に壊せるだろう。もちろん、その後兵士達に追われるだろうが、鉄格子を破れるほどの力が使えるのなら逃げるくらいならできるはずだった。
「んー……」
というわけで、ここから出ることも逃げることもすぐに出来るのだが……魔女に会うために城に来たのに、ここで逃げてもしょうがない。
「んん~~……」
……クゥー
「……お腹すいた。あのー、すみませーん! ご飯ってどれくらいに来ますかー!」
「うるさいっ、黙れっ!!」
牢番からではなく、隣から聞こえた声に、ノヴァは鉄格子の間から顔を出し……今更だが、ノヴァのような小さな少女用の牢屋ではなく大人に対して造られた牢屋なので無理をすればそのまま抜け出せそうでもあったが。
ともあれ、首を伸ばして隣を見ようと頑張っている少女に気づいたのか、隣にいた女性は驚いたように言葉を続けた。
「なんだ、どうしてお前のような子供が牢に入れられている」
「魔女さんに会いたいって言ったら、牢に入れられちゃって」
「……はぁ? お前は……その魔女の知り合いなのか?」
「いいえ、顔も名前も知りません」
「なら、どうして、会いに来た」
「えっと、会って戦ってみたくて」
「…………」
深いラピスラズリ色のショートカットで凜々しい雰囲気の女性は、ノヴァの言葉に呆れたように額に手を当て首を振った。ちなみに、ノヴァが女性を見て真っ先に浮かんだのは「宝塚の男役の人みたい」だったのだが。
綺麗な服……平民じゃないことは一目で分かる。おそらく騎士なのだろうが、確実に言えることは牢に入れられるような罪人にはとても見えないということだった。
「……お前は馬鹿なのか」
「えー、ひどいなぁ。強い人がいたら、会って戦ってみたくなるのが普通ですよ」
「普通じゃない」
「そうかなぁ」
「それよりもだ」
女性は腕を組むと、少しだけ俯き呟いた。
「こんな幼い子まで牢に入れるとは……それだけ皆追い詰められているのか」
「追い詰められている?」
「ああ、皆、魔女に怯えているんだ」
「怖い魔女さんなんですか」
「いや、見た目は十五、六くらいの少女だが、恐ろしいのはその魔術の力だ。ビエルが連れて来たときに、塔の一つを吹き飛ばした」
「恐ろしい? 普通、塔の一つくらい吹き飛ばせません?」
「ん?」
「え?」
『…………』
二人で黙り……しばらくしてから、ノヴァは手を差し伸べた話を促した。
「えっと、続きをどうぞ」
「あ、ああ、そうだな。それで、誰も何もいえなくなった……って、なんで残念そうな顔をしている」
「いえ、う~ん……ちなみに、塔を吹き飛ばしたのって当然全力じゃないですよね」
「ああ、そうだろう。まだ魔女の本当の力は誰も分からない。一体どれだけの力を隠しているか……って、なんで今度は目をキラキラさせているんだ」
「いやいや、やっぱりそうですよね! 強い魔女ってことが嬉しいんです! 楽しくなるじゃないですか!」
「ふふ……私達にとっては楽しくはないよ。だが、面白い子供だな、お前は」
「――なんだか賑やかですね」
優しい声が聞こえ、ノヴァは牢の入り口の方へと顔を向けた。
「貴女が楽しそうに会話してるのは久しぶりに見ました」
「……フロナ」
「ここでお話しする時、いつも貴女は怒った顔ですから、アイリス」
騎士の女性、アイリスから呼ばれ、ふわふわとしたイヴォワールの長い髪に眼鏡をかけた女性、フロナはくすりと笑った。
「今日は楽しい話し相手が居たからな。だが、門番は何を考えている。こんな子供まで牢に入れるなんて……」
「おそらく、ビエル派の兵士だったのでしょう。別の兵士が気付いてくれて良かった。すぐに私へ報告してくれました」
「点数稼ぎのつもりか。騎士の誇りを忘れたか」
「ビエル派?」
「ええ……あっ、ごめんなさい。まずはここを出ましょう」
フロナは鍵を取り出すと、カチャリとノヴァとアイリスの牢を開けた。




