第一章 牢屋から始めよう(1)
食事をする時には必ず人が多い店を選ぶ。何故なら、人が多いと言うことはそれだけ情報も多いからだ。他愛のない世間話だとしても、旅人である少女にとっては面白く貴重な情報源だった。それに、人が多く集まる食堂は料理もおいしい。色んな話が聞けて、おいしいご飯が食べられる。まさに一石二鳥だ。
「はむっ、んくんく……んぅ~~~~!」
「おいしそうに食べるねぇ、お嬢ちゃん。ほら、これはおまけだよ」
「ありがとー!」
店主であるおばちゃんからポテトサラダを貰い、少女はお礼を言いながら横に添えられていたプチトマトを口に入れた。
(んぅ~~、やっぱり賑やかなお店を選んで正解! 食堂は安くておいしくていっぱい食べられるから大好き!)
頼んだ大盛りのカルボナーラはもうほとんど残っていないが、こんなにおいしいのならもう一皿、いや、二皿は余裕でいけた。
(懐なら少し余裕があるし、頼んじゃおうかなぁ)
ポテトサラダ(おばちゃんが気を利かせてくれたのか大盛り)を口いっぱいもくもくと少女が頬張っていた時――
「それで見たのかよ、その魔女!」
「……んぅ?」
近くで聞こえた声に、少女は顔を向けた。
「ああ、遠目だったけど、ありゃぁすごかったぜ。俺も噂なんて信じてなかったんだけどよ」
「それで、どんなだったんだよ」
「どんなっていわれてもな、絶世の美女には違いねえよ。こう、翡翠の髪でな、白い肌で……」
「おお~。いやぁ、俺も見てえな、そんな美人ならよ」
「バカ言え。どんなに美人でも魔女だろ、魔女。見たら呪われるんじゃねえのか」
「いやいや、あれは見て損はねえって」
「ほのはなひ、むっとふわしくひかせてっ!!」
「うわっ、きたなっ! なんなんだ嬢ちゃん!」
服装からして商人だろう。話に盛り上がる三人の男の間に少女は皿を持ったまま入り、口に含んだカルボナーラをもごもごごくんと飲み込み話を続けた。
「んく――あはは、ごめんなさい」
「ったく……というか、食べながらこっちに来んな。行儀が悪いだろうが」
「まあまあ、だって急に面白い話を聞いちゃったから。その話もっと詳しく聞かせてよ、おじちゃん、あむ」
「だから、立ったまま食うな! ほら、こっち座れ。聞かせてやるから」
「ありがとー! あむあむ」
手と口を動かしながら席に座る。
「あ、ソーセージと唐揚げ」
「おい、メシを貰いに来たのかよ」
「いやいや、話を聞きに……」
「そういいながら思いっきりほしそうに見てるじゃねえか……ほら、いいよ。やるよ」
「ありがとー! いっただきまーす!」
「面白い嬢ちゃんだなぁ。んで、お前も美人に興味があるのか」
早速唐揚げにフォークを刺し口に入れる少女に、笑いながら男の一人が問いかけた。
「んーん、美人には興味はないけど、魔女にはすっごい興味があるかな」
「魔女ねぇ」
少女の答えに、男達は顔を見合わせた。話で盛り上がってたのは自分達だが、美人の女ではなく魔女ということになると軽い世間話で終われない部分も出てくる。年端もいかない少女にそんなことを話したところで面白くともなんともないだろう。
「あー……いや、教えてやってもいいけどよ、魔女のことなんか聞いてどうすんだ譲ちゃん?」
「決まってるよ」
少女ははむはむこくんと唐揚げを食べ、
「その魔女ってすっごく強いんでしょ? だったら、会いにいかなきゃ」
そう言って、にこっと笑った。
「わたしは、わたしより強い人に会いにいくの」
「レイハイストの魔女、ね」
魔女と言ってもこの世界では様々な意味がある。魔術に優れた者を魔女と呼ぶ時もあれば、呪術に優れた者を魔女とする時もある。薬に詳しい者を呼ぶ場合もあるし、学者的な意味で使う場合もある。後は単に魔女っぽいという時でも。
けれど、強大な力を持ち、国をも脅かす『本物の魔女』は少女も見たことがなかった。
「面白そう、どんな女の人なんだろー♪」
太陽の閃光に瞳を輝かせ、少女は後ろで結んだ髪を靡かせながら走り出す。
魔術師として魔術を極めるわけでもなく、冒険者として名声を得るためでもなく、ただ強くなるために。
――そう、『あの二人』のように強くなるために。
少女、ノヴァ=インファータの時代錯誤な武者修行は始まったばかりだった。




