エピローグ(3)
――それから十日後。
「うぅ~~、絶対絶対戻って来てね、ノヴァ」
「あはは、はい、必ず」
「約束ですからね、ノヴァさん」
ノヴァは何故か気に入られたフィルとミィムに左右から抱きしめられ、そして、
「…………」
「もう、クレスタったら強く抱きしめすぎだよぉ」
無言で抱きしめているクレスタに、ミリアは困ったように笑った。
「まったく、お前達は」
「ふふ、みんな仲良くなって良かった」
横でそんな部下三人を見ながらアイシスは苦笑し、フロナは微笑む。
「すまない、シリス。私とフロナだけで見送ろうと思っていたんだが、こいつらが一緒にと利かなくてな」
「いいえ、こうして皆さんが来てくれて嬉しいです」
シリスは首を振り、にこと微笑んだ。
操られていたことが分かったといっても、いまだ魔女という恐怖を持っている者も多く、加えて、次の王に指名されていることもあり城の中でシリスに近づく者は少なかった。そんな中で、唯一普通に接してくれたのが、今この場にいる五人だった。
「だが、私もフィルと気持ちは同じだ。必ず戻って来てくれ、シリス」
「いつまでも待っています、シリス。どうか無事に帰って来てください」
「はい、必ず」
アイリスとフロナと言葉にシリスは頷き、少しだけ視線を落とした。
九日前、レイハイスト王にノヴァと共に旅に出ることを報告した時のことを思い出して――
王の間には、レイハイスト王とシリス、そして、ノヴァとアイリスとフロナがいた。ノヴァがアイリスとフロナを呼んだ理由は分かっている。魔族のことを伝えるためだった。
ノヴァと一緒に旅をすること、そして、いつか必ず帰ってくることをシリスが伝え、レイハイスト王自身も予想していたのかもしれない、多くは言わずシリスの言葉を了承した。
そんな二人の話が終わった後、ノヴァは三人に話し始めた。
「ビエルをそそのかしてシリスを操っていたのは魔族です。魔族は意思を持ってレイハイストを混乱させようとしていました。おそらく、三百年前に起こった大陸全土に広がった争乱の裏にいたのも魔族だと思います」
その言葉を聞いてアイリスとフロナ、レイハイスト王は驚いたようだったが、国を救い、前日には傷だらけで帰って来たことも知っていたため、疑うことはなくノヴァの言葉を三人とも信じた。
「気をつけようもないとは思うんですけど、気をつけてください。警戒するだけでも、魔族は嫌がると思うので」
そして、ノヴァは魔族のことは三人だけで留めることもお願いした。無用な混乱や不安は逆に魔族が入り込みやすくなる。それに、存在を何としても隠したい魔族は、今回のことでレイハイストには手を出して来ないだろうと考えていた。
全ての話が終わり、ノヴァとシリス、アイリスとフロナは王の間を退出した。
「それで、いつ旅に出るのですか?」
王の間を出てしばらく、廊下を歩きながらそう問いかけてきたフロナにノヴァは顔を向ける。
「十日後くらいで考えています。旅の準備で一端シリスは自分の家に帰らなきゃいけないですし、シリスの家までは歩いて三日ぐらいかかりますから」
「そうなんですね。でも、ノヴァの傷も完全には癒えていないですし、もう少しゆっくりしてからでも」
「あはは、ありがとうございます。でも、こういうのって一度決めた日にしないと、ずるずる伸びちゃったりしますから」
「……私もノヴァの傷が癒えてからって言ったんですけど、こんなふうに決めてしまって」
頬を膨らませるシリスに、フロナとアイリスは顔を見合わせて微笑んだ。
「はは、シリスがいたら安心だな。ノヴァは簡単に無茶をするからな」
「え~、そんなに無茶してるかなぁ」
「ふふ、そんなふうに気付いていないから心配なんです。頼みましたね、シリス」
「はい」
シリスも微笑み頷く。そんな三人を見ながら……ノヴァはふと以前から気になったことを口にした。
「これってほんとにただの思いつきなんですけど、もしかして、アイリスさんとフロナさんって魔術師の家系じゃないですか?」
急な問いかけに、アイリスとフロナ、そして、シリスも驚き……
「……本当にお前は不思議な子だよ」
苦笑するアイリスに続けて、フロナも口を開いた。
「その通りです、ノヴァ。確かに三百年前の戦いで魔術師のほとんどは亡くなりました。ですが、その子供は残ったんです。私とアイリスはその子孫になります」
「やっぱりそうだったんですね。戦える魔術師は亡くなったかもしれませんけど、その家族まで全員亡くなったなんてことは無いと思ってましたから」
「はい。ですが、私達のような魔術師の子孫が他にいるかどうかは分かりません。おそらくいるとは思うのですが……お話したようにレイハイストは魔術師を廃していますから」
「でも、アイリスさんとフロナさんは、そんな国を変えようとしているんじゃないですか?」
「……ノヴァ、貴女は本当に不思議な子ですね」
ノヴァの言葉にフロナは少しだけ俯き、そして、顔を上げ微笑んだ。




