エピローグ(2)
「……私が王になるというお話はお断りしました」
「うん、そうだと思ってた。でも、それだけじゃ終わらなかったでしょ」
「はい、そうです。レイハイスト王は『どうしても』と言われて……頭を下げられて」
「あー……」
ノヴァはさっきと同じように呻いて、天井を見上げた。
(王様も頑なだなぁ)
それだけ決心は強いと言う事……まあ、レイハイスト王にしてみれば正統な王に戻したいということなのだろうけど。
(一国の王に頭まで下げられたら、シリスも困るよね……お母さんのこともあるし)
「…………」
シリスは俯いたまま、組んだ手を見つめている。
「それで、シリスはどう返事したの?」
「……もう少し考えさせてください、と。そう伝えました」
ここまでの話は、ノヴァもある程度予想できていたことだった。本題はこれからだ。
「……じゃあ、これからシリスはどうしたい?」
ノヴァの言葉に、シリスは組んだ両手にきゅっと力を込める。
「お母さんがよく言っていました。『シリスは自由に生きなさい』って……そして、『もしお母さんが愛したこの国に大変なことが起きたら、その時は助けてあげて』って」
「うん……」
「私は……お母さんがいたらそれで良かった。自由に生きるなんて分からない。お母さんがいなくなっても、お母さんの眠るこの地にずっといようと思っていました」
そこまで話し、シリスは顔を上げた。
「貴女に……ノヴァに会うまでは」
「……うん」
ノヴァは頷いた。見つめるシリスに視線を合わせて。
「ノヴァ……私を連れていってください。私はノヴァと一緒に旅をしたい」
「ここは、レイハイストはどうするの?」
「レイハイストは……私の産まれた地であり、お母さんや、お父さん。お母さんと共に戦った魔術師達が護り、眠っている地です。私にとって大切な場所……でも、だからこそ」
シリスは握った拳を胸に当てる。自らの道を自分で決め、誓うように。
「私はノヴァと一緒に旅をして、この国を護れるくらい強くなりたいんです。そして、そうなることができたら、私がお母さんと同じようにこの国を護れるようになったその時には、私は王を受けようと思います」
合わせた視線、その惑いのない真っ直ぐな瞳に。
「そっか」
ノヴァは微笑んだ。
「じゃあ、私を一緒に連れて行ってくれるんですね!」
「ちょっと待って」
嬉しくて立ち上がろうとするシリスを、ノヴァは手で止めた。
「ここからは、わたしの話。一緒に旅するかどうかは、その後に決めるから」
「……はい」
ノヴァの言葉に、真剣な眼差しにシリスは上げかけた腰を下ろし、座り直した。
「まず、わたしがお昼も食べずに夕方まで戦っていた相手……ビエルを操って、レイハイストを混乱させようとしたのは魔族だった」
「……やはり、そうだったんですね」
「そ、もう疲れたよ。いきなり中ボスが出てきて、しかも、複数で連戦だなんて。死にゲーでも中々無いような戦いで」
「ちゅうぼす……しにげー?」
「ああ、ごめん。まあ、とにかく大変だったってこと」
手を振ってから、ノヴァは笑って続けた。
「で、まあ、わたしは光の後継として魔王まで面倒みないといけなくなったみたいで。魔族のお尋ね者にもなったってわけ。レイ・インファータは魔王を倒したせいか、かなり魔族には恨まれているみたいだし、わたしもそれくらい魔族が襲いかかってくると思う」
「だったら、なおさらです!」
シリスは立ち上がり、ノヴァへ近づいた。
「お母さんはレイさんと一緒に魔王と戦いました。だったら、私もノヴァと一緒に魔族と、魔王と戦います」
「……シリスだったら、そういうと思ってた。でも、正直に言うと、『じゃあ一緒に行こう!』って簡単には言えない」
「ノヴァならそういうと思っていました」
同じことを返し、シリスは微笑んだ。
「ノヴァは優しいですから、私を思って心配するのは分かります……でも、本当の私のことは分かっていないみたいですね」
シリスはもう一歩近づき、ノヴァの手を両手で握る。
「ノヴァが連れて行かないって言っても、私は付いていきます。それが、私の決めたことですから。ノヴァから離れません……だから、覚悟してくださいね」
「……シリスの言葉ってさ、時々、一緒に旅するだけの意味じゃないように聞こえるんだよね」
「ふふ、想像にお任せします」
にこっと微笑み……シリスは小さく呟いた。
「でも……いつか私の気持ちにも気付いてほしいな」
「ん?」
「ううん、なんでもありません……さあ、お腹すきましたよね、ご飯にしましょう、ノヴァ」
「そだね。ああ~、ほんとにお腹すいたぁ。ってその前に、着替えてもいい?」
「ふふ、駄目です」
「え~、恥ずかしいんだけど」
「よく似合ってますよ」
シリスに手を引かれ、ノヴァは立ち上がった。そして、そのまま二人で扉に向かう。
「それで、なんで手を握ったままなの?」
「ふふ、言ったじゃないですか。離れないって」
微笑み、本当に楽しそうにそう伝えて。
手を引かれるまま、シリスとノヴァは部屋を出て、食堂へと向かった。




