光の後継者(14)
一対多数の戦いにおいて、森の中というのは悪い場所ではない。いや、むしろ有利な場所といえた。
ただし――それは、相手が普通の人間だった場合だ。
木々の間を駆け抜け、なぎ倒される木を利用し一人、二人と倒していき――
「女王っ!!!!」
兵士が憎悪の叫びを上げ、腕を上げた。腕が伸び――そして、指を伸ばし、五本の爪が眼球を抉ろうと、心臓を貫こうと襲い掛かってくる。
右足の親指に力をいれ、ノヴァはザッと駆け出した。風を纏い、刃を閃かせ。
ビュォッ!
指が頬を掠め、肩を掠め――それでも、ノヴァは止まらず。
五本の指を駆け抜け腕を斬り落とし、だが、後ろからは兵士二人が襲いかかってくる。
両手の指を伸ばし、兵士二人の二十の指が不規則にノヴァに迫り、しかし、背中に突き刺さろうとした指は全て風の刃に斬られ――
「ガァアアッ!!」
ノヴァの正面の兵士が左手を上げる――が、その時にはノヴァの姿はなく。
――ィィン
右の逆手に持った小太刀が胴を薙ぎ、足を滑らせ回転すると左手で兵士の背中に手を向け、
「白き光の戦女神よ!!」
白き閃光が兵士を包み、そして、黒煙と消し去る。
(無詠唱でもできるなら、『我は放つ!』なんて言ってもいいんだろうけど!)
戦いの最中、頭でそんなことを考えながらノヴァは笑った。
「ァアアアアアアッッッッ!!」
襲いかかる兵士二人、斬り落とされた指はすでに再生されている。
ビュォッ!
再び指が伸び、だが、直線で来る事なく、鞭のようにしなり全方位から迫ってくる。
ヒュッと息を吐く。踊るように紙一重で指の鞭を躱し、小太刀で斬り落とし――まだ無詠唱魔術には集中と時間がいる。それをさせないつもりか、指を斬ってもすぐに再生し、間断なく攻撃してくる兵士二人。
躱しながら、流しながら呼吸を量る。一気に懐に入る為に足の親指に力を入れ、だが。
「っ!?」
迫る巨大な黒い影。十五の指の攻撃は止めないまま、残った手が大きく広がり、巨大な掌がノヴァを覆った。
ガンッッ!!
巨大な掌は指もろともノヴァを押しつぶし、地を割り、砂埃と落ちた木の葉を舞い上がらせる。
――だが、
「たぁ…………」
全身を切り刻まれながら、巨大な掌の後方で膝を付いていたノヴァは血を落としながら立ち上がった。
何とか風を纏いぎりぎりで避けたが、周りを囲んでいた指の間を無理矢理抜けたため、全身が斬られてしまった。
「あ~、もう。替えの服もないのにぃ」
地に鮮血の黒い染みを広げながら……傷は多く深いが、動けないほどじゃない。まだ十分に戦える。
「…………」
兵士二人は無表情のままゆらりと身体を揺らし歩いてくる。表情がないのはやりにくい、呼吸も読めないから動きも分かりにくい。
まあでも、戦い事態は楽しかった。命のやり取りをする戦いは、もしかしたら初めてかもしれない。だからこそ、ワクワクした。
ビュォ!
伸びてくる二十の指。全方位の隙間のない攻撃からの致命的な一撃。同じやり方なんて面白くないなどと考えたりしないだろう、魔族は殺すことに最も効率的で効果的なやり方を選んでいるだけだ。
息を吐く……吐いて吐いて吐いて、集中を高める。
「――――」
腰を僅かに落とし、逆手の小太刀を後ろに構える。魔族は考えもしないだろう、だけど、色んな漫画やアニメを見てきたノヴァだからこそできる戦い方がある。
――ィィィン
ノヴァはその場で居合抜きのように小太刀を薙いだ。届くはずのない刃――だが、
ザンッ!
兵士二人の両腕は斬り飛ばされ、伸び迫って来た元を失った指もまた落ち地を暴れ回り煙と消える。
(――知らないでしょ、こういう戦い方は!)
ノヴァはそのまま小太刀を閃かした。魔力を刃に込め斬撃を飛ばし、兵士の腕が足が胴が斬られ、
「グッ、ガァアッ!」
兵士が呻き身体を再生するより速く、白光が空を走り、魔族の一人を消し飛ばした。
そして、
「ッ!」
残ったもう一人の兵士がノヴァに顔を向け――そこで呼吸をしない魔族が息を呑んだ。
合う視線。一瞬で移動していたノヴァと間近で目が合い、そして、
「白き光の戦女神よ!!」
ノヴァの声と共に白き光が包み、最期の兵士、魔族は空に消えた。
「――ふぅ」
息を付き、ノヴァはトッと地に降りた。
「う~ん、やっぱり呪文を言うほうがまだ精度があって、威力も強いかなぁ」
まだまだ練習が必要だ……そう思い、小太刀を納めようとして。
「……え~~……いきなり、そんなにするんだ」
――ガサッ
森から出てくる六人の兵士……さっきよりも一人増えた魔族を見ながら、ノヴァは苦笑した。
「はぁ、いいよ。とことんやってあげる!」
ノヴァは笑い、小太刀を構えた。
「でも、お腹空いたから、すぐに終わらせるからね!!」
これが自分で選んだ道――そう、ノヴァは望んで女王となり、望んで魔族のお尋ね者となったのだった。




