光の後継者(13)
「はぁああああああっっ!!」
――そして、
ズザッ――
「――――」
魔族が立ち尽くした後ろで、ノヴァは膝を付き、地面に左拳を置いた。
剣を握った左拳を。
「――――」
音もなく、時が止まったような時間の中で、黙ったままの魔族の身体から――ノヴァの斬った傷口から勢いよく黒い煙が飛び裂いた。
「――はは……はははははっ!!」
突然、魔族が笑い出す。
黒く身体の形を崩しながら哄笑し、そのままゆっくりと振り返った。
「『殺した』! 俺を殺したな、インファータ!!」
狂ったように哄笑を続け言い放つ魔族の前で、ノヴァは静かに立ち上がる。
「もうお前は逃げられない! 死ぬまで魔族と戦うことになる! そう『死ぬ』までだ! お前はここで死ぬべきだった! お前はまだ本当の苦しみを知らない!!」
ぼろぼろと黒い塊が落ち消滅していく中で、勝ち誇ったように魔族はノヴァを嘲笑った。
「前に進めば道に迷い、考えれば正邪に迷い、力を使えば善悪に迷う! 壁に停滞し、限界に絶望し、諦観の苦しみは永遠に続く!」
それはまさに断末魔の叫びだった。死者が生者を笑い、嘲り、哀れむ……最後の快楽の瞬間。
「生きること事態が苦しみだ! その苦しみこそ『魔』だ! そして……死こそが快楽となる! それは、誰人も……逃れられない!!」
違う――と、ノヴァは心で首を振った。
相手は死者ではない。これも魔の本質だった。死を植え付け、絶望させる。
「――逃げたりしない」
だからといって、避けるつもりも、逃げるつもりもなかった。
ノヴァは振り返ると、魔族を見つめた。
「生きている以上やれることはやる。ただ、それだけだよ。それに、あなたは勘違いしている」
受け止め、乗り越え……静かに答える。
「『絶対、大丈夫』――生きている限り、希望は絶対あるよ」
「……はは……ははははは……!」
ノヴァの言葉に、魔族はまたも笑った。
「イ……ンファ……タ……お前は死ぬ……ころされる……! 俺が消えても……すぐに別の魔が来る……苦しみは消えない!」
黒い煙と化していく身体は、もう原型を留めていなかった。本当なら立ってもいられないのだろうが、魔族は宙に浮きその場に固まったまま顔だけを歪ませた。
「もう動き……はじめている……お前は死ぬ……今度こそ……こんどこそ……!」
「死なないよ」
凛と言い放つ。
「強くなる。誰よりも何よりも――」
自分に言うように、誓うように。
「あなたたちがどれだけ来ようと乗り越えてみせるから」
ぐっと拳を握り、陽の光を瞳に映して、ノヴァは決然と言い放った。
「――――」
そんなノヴァの言葉に対して、魔族はまだ何かを言おうと笑みを浮かべ口を開くが――その口からはなにも発せられることはなかった。
そのことに魔族自身が気づいたかどうかは分からない。しかし、伝えたことだけは確信していた。
苦痛と絶望と死を。
「――――」
サァ――
何かから解放されたように、その時になって木々の音と陽の温かさが戻り、風が黒い煙を全て消し――
そして、魔族は消滅した。
「……はぁ、まったく」
ノヴァはふっと息を付いた。魔族が精神攻撃を仕掛けてくるのは分かっていたが、自分としてはもっと力と力でバチバチに戦いたいのに。
「変に疲れるなぁ……いや、そう思わせることが魔族の思うままなんだろうけど」
そうして、森の方へと身体を向けた。
それに、なのだ。いくらなんでも……
「『すぐに別の魔が来る』って、すぐ過ぎない?」
――ガサッ
草を揺らし……そして、出てくる五人の兵士達。
「インファータァァアアアッッ!」
兵士の一人が叫び、そして、ノヴァもまた駆け出した。




