光の後継者(11)
勘違いしている。怒りと憎しみは同じではない。怒りは倒す覚悟を深めるものでもある。
「俺はお前を殺せるぞ、インファータ。お前とシリスの戦いは知った。あの程度の力ならば、俺はお前を殺せる」
ノヴァの内は気付かず、さらに魔族は言葉を続けた。
「魔術だけなら、シリスは俺に匹敵するだろう。だが、お前はシリスの魔術には及ばない。お前は俺には勝てない。お前はここで死ぬ。殺される」
「そう」
「死ぬ」「殺す」を連呼する魔族に、ノヴァは短く答えた。
手の内は見た。知りたいことも知った。魔族の本質を明かした。そして、勘違いしている相手に対して、言葉はもう必要ないだろう。
「言い残すことはないのか? お前を殺した後、シリスに伝えてもいい――」
「あの時、わたしは」
短い返答が不服だったのか、なおも言い募ってくる魔族の言葉を遮ってノヴァは静かに、本当に静かに口を開いた。
「シリスを『倒そうとしていなかったけどね』」
「…………」
言葉に魔族の口が止まる。
木々が倒れ何の声もせず、風すらも吹かない無音の中で、ノヴァの声だけが空に響いていった。
「あなたの負けよ魔族。あなたは今自分で言った、戦う時のわたしを知らないと」
「……それがどうした。お前の魔術の底は知っている。お前の魔術は、俺を超えることはない。それは、お前自身が気付いていることだろう?」
先ほどの攻撃のことをいっているのだろう。確かに、あの時は自分よりも魔力が上だと思った。
だが、今ならどうだろうと思う。数分しかたっていない今の会話で、劇的に変化したものがある。それは、魔族自身が認め、話してくれたことだ。
「そうだね。でも、あなたはミスを犯した。わたしに、魔術を見せるべきではなかった。その後の話もするべきじゃなかった」
「なんだと?」
訝る魔族に、なおも言葉を続ける。
「あなたは『魔術』だと言った、『人間とは比べ物にならない』と。魔族の特別な力だとはいわなかった。人間の魔術も、魔族の魔術も同じ理だと自分自身でいったんだ。そして、わたしもそれを確信できた。だったら――」
今までとは違う感覚が生まれる。この感じと空気は今まで経験したことのないものだった。
本来、人間の魔術は『魔』術といっていながら神や精霊に言霊――呪文によって祈り、誓い、そして、自身の魔力を引き出して顕現するものだといわれている。それが、疑問の余地のない常識であり真実であり現実だった。
しかし、それでは矛盾が生まれる。違う魔術ならともかく、同じ魔術だとするなら神や精霊を源にしなければならない魔術を魔族が使えるはずがない。しかも、魔族は呪文を使っていなかった。つまり、自分たちの主である魔王に祈っているわけでもない。
だからこそ確信する――女王の本に書いてあった『魔術の真の理』。今ならそれが分かる。信じることができる。
そして、同時にもう一つ確信する――力が使えると。これは自分の力だと。
「だったら、わたしは魔族を超える力を使うことができる。そのきっかけは掴めた」
「っ!?」
今頃になって、魔族は空気の変化に気づいた。顔が驚愕に歪み、とっさに攻撃の態勢に移る。
――が、その時には遅かった。
ガゥンッッ!!
瞬間に現れた閃光が魔族を吹き飛ばす。
「グッ! ガァッッ!!」
吹き飛ばされ呻きながらも、なんとか地面に降り立ち体勢を整える魔族に向かって、ノヴァはにっと笑った。
「無詠唱魔術が魔族の専売特許だと思っていたの?」
「何故だ何故だ何故だ!? 使えるわけがっ、使えるわけがない! 人間如きが、魔を超える力など!!」
「あなたが言ったんだよ。力の理は同じだと」
「知ったとて使えるわけがない! さっきまでは使えなかった! それが今になって使えるわけがない!!」
魔族はなおも絶叫した。




