光の後継者(10)
「オァアアアアァアアアアッッ!!」
奇声を上げながら火球を放ち続ける魔族に、ノヴァは右手と体捌きだけでかわしていく。
動きの止まる風の障壁は使えない。それはさっきの魔術で分かっていた。相殺できないほどの力を放ってくるのなら、受け続けるのは危険だった。そう一瞬で判断して、捌くやり方に変えた。
そして、両手を使っての防御も危険だった。すぐ対応できるように片手を残して置かないと、相手が何をやってくるか分かったものではない。『呪文も使わず、魔術を使ってくるのなら』。
(そう、魔術だ)
自分たちと同じ力を感じるという事は、魔族が今使っている力は魔術だった。最初は驚いたが、よく考えてみれば『魔』族と言う名の通り、魔術を使っても不思議ではないだろう。むしろ、人間よりも上手く使えて当然ともいえた。
(まさか、本当に呪文も言わずに魔術を使ってくるとは思わなかったけどね!)
右手で火球を弾き身体を舞わせながら、口の内で呪文を唱え始め左手に魔力を集中した。
「ガアァアアアアッッ!!」
一際大きく魔族が吼えたと同時に、ノヴァは向かってくる火球を無視して左手を地面に付く。
「凍れる白き氷神よ!」
力ある言葉を放ち、目の前に氷の壁を作った瞬間だった。
ゴォウッ!!
巨大な火球が氷壁に当たり、白い霧を振りまきながら一瞬にして共に消える。
そして――
「烈風よ!!」
続けて放った風の魔術に、向かってきたかまいたちがぶつかり霧を弾け飛ばした。
「――――」
霧が晴れ視界が戻るのを感じながら、ノヴァは大きく息を吐いた。体捌きと立て続けの魔術に、呼吸が乱れている。何度整えようとしても、肩で息をしてしまっていた。
呼吸だけじゃない。手の痺れや、身体中の傷に意識が囚われるが……それらを無視して、ノヴァは魔族へと目を向けた。
「…………」
魔族は黙ってこちらを睨みつけていた。あれだけの魔術を使って息も切れていないのは、なんだかこちらが負けたみたいで悔しかったが、呼吸をしないのなら息が切れていなくて当然だった。
実際、呪文を必要としないのなら、現時点の魔術の力量はあちらのほうが数段上だろう。そう内心で認めつつ、ノヴァは呟いた。
「魔術くらいつかうよね、そりゃあ」
「――そうだ、魔術だ」
再び攻撃してくるかと思ったが、意外にも魔族はこちらの言葉に答えてきた。
「魔の術――魔族が使えて当前だろう? 人間ごときが使う魔術とは比べ物にならない。本当の魔術だ」
そういって、にやりと笑みを浮かべる。
話すのは意外だと思ったが、考えてみればそうでもなかった。自分の優位を示し、こちらの心を折る為に力を誇示するのは魔族としては当然の行為だろう。
(……お互いにね)
魔族の元が精神体であれば、言葉は有効な武器となる……それと同じ事を魔族がしている事に内心でおかしさを覚えていると、魔族は続けて喋りだした。
「人間を超えた力、人間をすぐに殺せる力だ。だが、お前は勘違いしている。確かに、人間の苦痛は我らの至福だ。苦痛こそを希求している。だが、苦痛を望むから人間を殺さないわけではない。それは、恥だからだ」
「恥?」
「そう、恥だ。人間ごときを殺すのは、恥辱以外の何物でもない。我らにも誇りはある。だからこそ、我らは手を下さず、人間は人間に壊させ、殺させる。いい考えだろう?」
下手な挑発だ――そう分かりながらも、ノヴァは瞳を鋭くした。
その視線に気づいたのか、魔族は更に声を上げる。
「しかし、お前は別だ女王。お前は殺す」
「光栄に思えとでも言いたいの?」
「そう思いたいのならな」
にやにやと笑う魔族を静かに見つめ続ける。こちらが怒りに染まる事を喜ぶ笑い。怒りは憎しみに変わり、やがて殺意に変わる。そうなれば、魔族を倒すことは敵わない……そう思っている。




