光の後継者(9)
「…………」
キン、と腰へと剣――小太刀を納め、ノヴァは魔族へと目を向ける。
二の腕からなくなった斬り後からは、黒い煙のようなものが湧き出ていた。肉体のない魔族には痛覚もないだろうが、力の消失による喪失感はあるはずだった。その喪失感が重なるか、または致命的な傷を受ければ魔族は消滅することになる。
「刀なんて初めて使ったけど……よかったぁ、漫画やアニメをよく見てて。こんな感じって分かれば、何とか使えるみたい」
裂かれた頬の血を拭って、最初のように構えを取らず自然体で魔族へと向き直る。
「そういえば、話の途中だったよね」
ノヴァは一度目を閉じて静かに深呼吸をすると、魔族を見つめて話し始めた。
「七百年前、女王と魔王は戦っていた。その結果は……なんて言わなくてもいいよね。現実として、今は魔族が横行するような世界にはなっていないんだから。だけど、それから今までの間に、魔族は再び生まれ続けていた。そして、時期を待った――人間が魔族の存在を忘れるその時まで。そうしなければ、魔族の復興は成し得ないと考えて」
「……黙れ」
魔族は右腕を失ったまま歯を食いしばり、憤りに息を荒くしていた。獣のように髪を逆立たせ、充血した目で憎悪と殺意を向けてくる。
「あなたが、今回の事で何故ビエルを選んだのかは分かってる。ビエルのように小心者で野心だけがある人間のほうが良かった。それは、操りやすいというのもあったかも知れないけど、一番の理由は問題を長く続かせたかったから。問題が長く続き、複雑になり、混乱させ、やがて騒乱になってくれたほうが良かった」
「口を……閉じろ、インファータ。舌を貫き、脳を掻き回されたくなければ……黙れ……黙れっ」
震えながら、魔族は一歩踏み出した。
いつまた攻撃してくるか分からない相手に対して、構えもせず話を続けるのは危険だった。こちらから隙を与えることになる。だが、それでもノヴァは話を続けた。
話は続けなければならない。魔族にとっては、それが何よりの攻撃になる。
「シリスを殺さず利用したのも、心を壊したかったからでしょ。魔族の本質は人を死に至らしめることじゃない。魔族は『苦悩』こそを至上とする。だから、より人が苦しみを味わうように、人の内に入り策動する。だから、魔族という存在を忘れてもらっていたほうが都合がいい。その方が、人の内に入りやすいから……そして、だから、女王とかは関係無く魔族の存在を感づいたわたしを殺しに来た。魔族の存在を広めさせないために」
その言葉を聞いた瞬間――
「オオオォオオオオァアアアアアアッッ!!!」
聞くもの全てを死に至らしめるような呪詛の雄叫びが森に響き渡った。
ガゴォッ!
魔族を中心にして円状に地面が割れ、空気が弾ける。衝撃波が広がり風の壁が襲い掛かってきた。
(これって――)
空気が歪み、蜃気楼のように揺れ乱れるほどの力に、ノヴァは咄嗟に叫んでいた。
「烈風よ!!」
迫り来る圧力に、風の魔術を解き放つ。
砂と葉を舞い上がらせながら重なった風が渦巻き、一帯にかまいたちが発生した。そのかまいたちを受け、身体中を斬り刻まれる痛みに歯を食いしばりながら、ノヴァは両手を突き出し魔力を高めた。
「っ!」
咄嗟だったとはいえ、シリアと戦った時と同等の魔術を放ったはずだった。それでも相殺できなかった。
周りの木々を薙ぎ倒しつつ烈風は荒れ狂い――やがてバンッという激しい音と共に空気が飛び散った。その最後の衝撃に息が詰まるが、肺の痛みを無視してノヴァは再び叫んだ。
「風よ!」
右の手の平に圧縮した風が生まれる――が、もうその時には、ノヴァの眼前に火球が向かってきていた。
鋭く息を吸い魔力の軸を見定め、風を纏わせた手で火球を弾く。無理に声を出したため呼吸をする度に肺に痛みが走ったが、それを無理やり意識の外へと押し込んでノヴァは更に集中を高めた。




