光の後継者(8)
分かっていたようで、分かっていなかった。兵士の姿のせいで、無意識の内に人間と戦っている気になってしまっていた。
(まったく!)
戒めのために自分を叱りながら、ノヴァは頭を切り替えた。
予備動作無しで伸びてくる手。この分だと、どういう風に身体を変形させて戦ってくるかは予想もできない。
呼吸を測ったり、感情を読むこともできない。つまり、全ての攻撃に対して反射神経だけでさばいていくしかなかった。
(迂闊に踏み込むのは危険だけど――)
すでに後手に回っている。相手の引き出しが分からない以上、出方を見たほうがいいのかもしれないが、このまま受け続けてもこちらが追い込まれてしまうだろう。
魔族といえば、一定の距離を置いて足を止めた。腕を伸ばせるなどという芸当ができるのなら、近接する意味はない。腕の伸縮のスピードはそのままに、脳、喉、心臓を的確に狙ってくる。
だが、一定の距離を開けてくれたことはノヴァにとっても悪いことではなかった。体捌きと両手の甲で手刀を逸らしながら、だんだんと攻撃のスピードとタイミングに慣れてくる。魔族が自分に対して手加減する意味がない以上、これ以上攻撃のスピードは上がらないはずだった。
魔族の左手刀を右手の甲で流し、その動きのまま右足を引き左足を前にすると、腰を僅かに落とした。右手刀が来るタイミングに合わせ、一気に踏み込む体勢を整える。
――だが、
(つっ――!!)
目の前に来た細い何かに、ノヴァは咄嗟に顔を逸らした。かすった細長いものに頬が裂け僅かに血が滲む。
その後に一本、二本と来る細長いものにノヴァは手で逸らす事を諦め、大きく横に飛びながら避けた。元にいた自分の場所に伸びてくるそれを目で確認し、その正体を知る。
(腕じゃなく、指を伸ばしてきた!)
魔族は普通に腕を上げたまま、今度は指を伸ばしてきた。腕二本だった攻撃が、指十本に増える。だが、殺傷能力としては変わりはなかった。脳や目や心臓に受ければそれだけで即死だろうし、身体のどこを貫通されても致命傷になる。
「はははははっ!」
こちらが劣勢になっているのを見て、いつの間にか魔族が哄笑をあげていた。先ほどまでの焦りと憤りをなくし、今は殺人の衝動に酔っているようだった。
絶えず身体を動かし、伸びてくる指を捌き、流し、かわす。攻撃のスピードは変わらないものの、腕に比べて動きは確実に不規則になっていた。これでまた、タイミングを測り直さないといけない。
しかし、劣勢でもノヴァは落ち着いていた。初めての魔族との戦いで、その人間離れした動きに最初は戸惑いもあったが、今はそれもない。逆に戦いの中で集中が高まり、研ぎ澄まされていく。
「ははははっ! インファータ、インファータ!! お前はここで死ぬ! インファータはここで終る!」
狂ったように笑い続ける魔族は無視し、十本の尖った指を避けながらノヴァは呼吸を整えていった。徐々に身体の動きを小さくしていき、自分の流れを作っていく。
魔族が身体を変形させ、腕や指を伸ばしてくる相手だと認識すれば、後は簡単だった。相手の姿がはっきり見え、その中心も分かってくる。腕や指に囚われることはない。攻撃の中心は全て身体から始まっている。
「ここで、インファータの名は終る!!」
叫び、十本の指を一斉に放った瞬間――
ダンッ!!
ノヴァは一気に右足を蹴り上げ、魔族の懐に踏み込んだ。
「――――!!」
呼吸をしない魔族が息を呑む。そして、
――ィィン――
澄んだ音が響いたと同時に、ノヴァと魔族の間でゆっくりと黒いもの――魔族の右腕が下がっていく。
身体から離れた右腕は軽い音を立てて地面に落ち、やがて黒い霧となって消え去っていった。
「ぐ……!!」
哄笑から悪魔の形相へと表情を変え、魔族は低く呻くと、ノヴァから離れるように後ろへと飛び退いた。




