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女王は拳で語る ― The Queen Speaks with Her Fists ―  作者: 十月さくら
閃光の女王と翡翠の白き魔女
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光の後継者(6)


「あなたがすぐに殺せると油断して襲ってきたところを倒すのも良かったんだけど、それじゃフェアじゃないなって。やっぱり正々堂々と戦いたいし、それは、わたしの性分だから理由なんてないよ」


 木の陰に立ったまま憎悪の視線を向けてくる兵士に向かって、ノヴァはあっさりそう答えてから話を続けた。


「何時から気付いたっていうのは――まあ、気持ち悪い気配はずっと感じてはいたんだけど、明確に分かったのはシリスが魔族のことを話したからかな。後は本。レイ・インファータが書いた日記というかメモ帳というか、そんな感じの本に魔族のことが書いてあったから」


 再び女王(インファータ)という名前を聞き、兵士の瞳に憎悪から殺意の衝動が生まれる。


「本だと……? そうか、そういうことか……翡翠の魔女、あいつが女王に関する物を持っていたか!」


 兵士の食いしばった歯から、そして、握り締めた拳から血が落ちていく――人間とは違う黒い血が。


「この数百年で、そんなものは全て消したと思っていた! 消すようにしてきた! だが、まだ残っていたか!」

「……そんな反応をするということは、本に書いてあることは全て真実ってことだね。最初から、不思議と疑う気にはなれなかったけど」


 叫ぶ兵士をノヴァは静かに見つめた。信じていないわけではなかったが、確認はしたかった。

 全てを受け止め納得するには、あまりにも大きな話だったから。

 

 レイ・インファータの日記に何が書かれてあったのか――

 その内容は一言でいえば荒唐無稽なものだった。おそらく、今の魔術師が読んだら、わけが分からない文章だと思うだろう。

 レイ自身も読ませるつもりはなかったのだろう。日記なのだから当然かも知れないけれど……だけど、フィリアに託したということは誰かに伝えたいとは思っていたのかもしれない。

 魔族の存在とその本質。『魔術の真の理』――そして、レイとフィリアが戦い、倒した者。

 魔族を統べ、その長たる存在。すなわち、魔王のことを。


(……後継はしたけど)


 ノヴァは思わず笑ってしまった。レイ・インファータの後継になるとは決めたが、魔王のことまで背負うことになるとは思っていなかった……まあ、レイの日記を読み進めて、そうなるかも知れないとは予想していたのだが。


「なにを笑っている?」


 兵士の声にノヴァは隠さずに苦笑した。


「いやぁ、人生って面白いなぁって。いつのまにか大変なことになっているのがなんだかおかしくて……それより、実際に目にするのはわたしも初めてだよ。本物の魔族なんて」


 ほとんどの人が見たことがない、おとぎ話のようにもなっている魔族の存在。

「魔族ってどういうもの?」と問われたら誰もが絵画にも描かれるような角があって蝙蝠(こうもり)のような羽がある人の形をした化物を想像するだろう。

 その想像は正しいとも間違っているとも言える。そして、ほとんどの人はもしかしたら魔族を見ているかもしれなかった。

 何故なら、本当の魔族は人と変わらない姿を持ち、どんな風にも姿を変えられるのだから。

 相手を見る。死んだ顔をし、目を見開いたまま憎悪と殺意を向ける兵士を――人の姿をしている真の魔族を。


「……そうか、初めてか。それを聞いて安心した」

「安心?」

「そうだ……お前が、まだ魔族を知ったばかりなら、無知であるのなら脅威とするところではない」


 何かを悟ったのか魔族の憎悪が薄まり、殺意の快楽と自分の優越に残虐な笑みを浮かべ始めた。

 普通の人間ならば、その笑みを見ただけで恐怖し絶望を与えられただろうが、ノヴァは平然としたまま一度目を閉じると小さく呟いた。


「脅威ではない、ね。でも、その割には何というか……すごい隠れて動いているよね」


 ノヴァの言葉を聞いた瞬間、兵士の表情が僅かに変わった。


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