光の後継者(5)
――レイハイストから森の中を歩くこと三時間ほど。
ザッ
森の中にある少し開けた場所で、ノヴァは立ち止まりふっと息を吐いた。
太陽は丁度中天ほど、時間的には正午を少し過ぎたくらい。陽の閃光は透き通った青空と森の木々を輝かせている。今日も一日、気持ちのいい天気になりそうだ。
(さて、お昼ご飯も食べてなかったから、朝飯前ならぬ昼飯前で終わらせようかな)
んっと手を組んで伸ばし、首と肩を少しだけほぐす。
レイハイストからは、かなり離れたはずだ。ここなら戦っても街に迷惑をかけることはないだろう。
サァ――
森の中を吹きぬける深緑の風に髪をなびかせながら振り返る。お互いに気付いていないはずがなかった。
「そろそろ出てきたらどう? ここに来る間も隙を見せなかったんだから、いい加減わたしが気付いていることはもう知っているでしょ」
「……お前は何者だ?」
そういって陽の差し込まない森の闇から出てきたのは、レイハイストの兵士だった。年齢は若いだろう、二十歳を少し超えたくらいだろうか。
短い黒髪に黒い瞳。中肉中背で……いうなれば、これといって特徴のない青年だった。どこにでもいそうで、どこにいてもおかしくない青年。表情によっては好青年に見えたかもしれない。生気のない表情をしていなければ。
知らない顔だ。だが、それに関して驚くことはなかった。城にいる兵士全員の顔を覚えていないのは当たり前――という理由ではない。
外見の格好などに意味はない。『いくらでも変える事ができるのだから』。
「わたしはわたしだよ」
ノヴァははっきり答えた後……自分でいうのは少し恥ずかしかったけど一つだけ付け加えた。
「まあ、もう一つ言うなら、光の女王……レイ・インファータの後継者かな」
「そうだ、女王――『インファータ』」
まだ木の陰にいるせいか光のない黒い瞳をじっとこちらに向けたまま、兵士の男は無表情に呟いた。
「忌むべき名前。我々に刻み付けられた滅びの符丁――そうか、またか」
そこまで呟いて――兵士の死んだ瞳に意思が灯り、ギリッと奥歯を噛み締めた。
「またお前が出てくるのか、インファータァアッ!!」
憎悪の意思をともしたまま目を見開き、兵士は呪詛のように絶叫した。憎悪の叫びは全ての生命を否定するように森へと響きわたり、鳥の声や虫の音――そして、風までもが兵士の声に怯えたように一斉に止まる。
陽が射す森の開けた場所で、まるで地下にいるような沈黙と冷たさに包まれながら、ノヴァは静かに兵士を見つめ口を開いた。
「ちょっかいかけて来たのはそっちなのに、『出てくるのか』って勝手過ぎない?」
苦笑して肩をすくめる。
「自分は正義の味方だなんて思っていないし、特別でもないし……でも、色々知っちゃったら黙って放って置くなんてできないから」
「そうだ、何時知った? お前は俺の存在を知らなかったはずだ。だから、簡単に殺せると考えた。不意を付けば、すぐに殺すことができると」
兵士は瞬きすることなく、見開いた瞳に憎悪の意志を留めたまま言葉を続けた。
「だから、こうして後を付けて来た。レイハイストで、お前を殺すわけにはいかなかった。俺の存在を知られるわけにはいかない。だが――だが!」
兵士は叫び、怒りに歯を食いしばりながら、拳を握り爪を肉に食い込ませ身体を震わせる。
「レイハイストを離れてからここまで、お前は少しの隙も見せないどころか逆に俺へと気付かせるようにわざと注意を向けていた。何故だ、何故気づいている! お前はどこまで知っている!」
あまりの形相に、言葉の途中でこちらに向かってくるんじゃないかと思ったのだが、兵士は怒りよりも疑問のほうを優先させたようだった。『性質』を考えれば仕方がないことだろうが、こちらとしても話ができるのは有難い。




