光の後継者(2)
「……ノヴァ!」
少し驚いたようにノヴァはシリスを見つめ、ベッドのほうに歩いて行き、
「わたしの名前……そっか」
ノヴァはなにもいわず、そこで言葉を止めた。
自分の名前はシリスが操られている時しか言っていないはずだった。それでも名前が分かったという事は……つまり、操られている時の記憶はあったということ。
意識があるということも考えてはいた。だが、実際に確認してしまうと、シリスがどれだけ苦しい思いをしていたかが分かり言葉が止まってしまった。意識があって操られていたというのは、辛く苦しかっただろう。
操られている時の記憶をわざわざ聞く必要はない……ノヴァは、すぐに笑顔になると改めて挨拶した。
「改めて、初めまして、だね。わたしはノヴァ・インファータ。話せて嬉しいよ、シリス」
「私も……私も話したかった貴女と」
シリスは零れる涙をそのままに、ノヴァを見つめて言葉を続けた。
「ありがとう……私を助けてくれてありがとう、ノヴァ」
「もう、泣かないの、シリス」
涙を指で拭って頭を撫でてくれるノヴァに、シリスは少し頬を染めて微笑んだ。
「むぅ……も~! あたしも心配してたんだよぉ、シリス!」
「ふふ、そうだね。ありがとう、ミリア」
抱きついた胸から見上げてくるミリアをシリスは撫で……そして、改めてノヴァへを見つめた。
「あの……私はどれくらい寝ていたんですか?」
「丸一日くらいかな。お腹空いたでしょ~、すぐにご飯持ってくるね」
「ありがとう、ノヴァ……でも、その前に教えてください。私が気を失ってから、どうなったかを」
真剣な眼差しを向けるシリスにノヴァは頷き、レイハイスト王やビエルのことを話し始めた。
「――という感じかな。ビエルやビエル側に付いていた人達は牢に入れられて、王様は色んなことで城も町も混乱してたから城の修復も含めて指示を出してる。騎士団の人達も事態の収拾に動いてるよ」
「……そうなんですね」
抱きついたままのミリアの頭を撫でながら、シリスは頷いた。
「これで、全て終わったんですね」
「まあ、そうかな」
ノヴァは笑い……実をいえば、まだ分かっていないことがあるのだが、それは隠して。
「ノヴァ……何か隠し事してますね」
「あはは、やっぱりばれちゃうか。まあ、自分で言うのもなんだけど、わたしって隠し事できないし」
「教えてください」
「ん~、いやぁ、実をいうと、結局のところは何も分かっていないんだけど」
そう切り出してから、ノヴァは話を続けた。
「ビエルに聞いてみたの、どうしてシリスのことを知っていたのか、どこで傀儡の魔術道具で見つけたか、とか。そしたら――」
『お、俺は何も知らない! 俺が街の酒場で飲んでいたら変な男が声をかけてきて、そいつがシリスのことを教えて、あの指輪をくれたんだ! この国を支配したいのなら、力を貸してやるって!』
「――だって。どこの誰かも分からない、街はおろか、国にまだいるかも分からない謎の男なんて探しようがないし。結局は謎は謎のままって感じかなぁ」
「そうだったんですね……」
牢屋でのことを思い出しながら話すノヴァに、シリスは視線を落とす。
「シリスも気が休まらないよね。どっかの誰かも分からない人間に家が知られてるのは」
「そうですね……でも、その男は私を知っていて、操る魔術道具まで持っていた。そこまで用意していたということは……」
「そっか、男は男の目的があったんだろうし、まだ近くにいるかもしれない」
「はい」
「ん~、しかも、ビエルの野心にも気付いていたみたいだし……傀儡の指輪もそうだけど、なんか心がざわつくっていうか、気持ち悪いっていうか……」
「まるで……そうです、まるで魔族のようなやり方……」
「魔族?」
ファンタジーの世界ということもあって、この世界にも魔族や魔王がいる……らしい。「らしい」というのは、ノヴァは魔族を見たことがないからだった。もちろん魔獣と呼ばれる動物、魔族の眷属だと言われているゴブリンなどには会ったことも戦ったこともある。だが、本物の魔族は……おそらくほとんどの人は見たことはないはずだった。




