再挑戦(リベンジ)はその日のうちに(13)
「魔女を、シリスを一目見て分かった。翡翠の髪、強大な魔術……あのフィリアの娘だろうと。我が先祖は歴史に記すことのなかった真実を代々王になる者だけに伝え、そして、恐れてきた。いつかフィリアの娘か、縁する者が復讐に来るのではないかと。王の座を奪われぬように備えをせよと」
年齢とすれば六十歳は超えているだろう。王となりその勤めを果たしてきた年齢の分だけの労苦のしわは、老いの証であり生きてきた誇りといえた。
そのしわを歪ませて、レイハイスト王は悲痛な表情を落とし話を続けた。
「あの当時、大臣の一人であった我が祖先は、国が安定し魔術師がいなくなった事をいいことに権力を強めていき……遂にはフィリアを玉座から下ろし追放させ、自分がレイハイスト姓を名乗り王となった」
「でも、フィリアは反抗したりとかはしなかったんじゃないですか?」
「ああ……フィリアは反抗することもなく、何も言わずレイハイストから去った」
「でもきっと、愛した人や、共に戦った仲間達が眠るこの地を離れたくなかったんだと思います。だから、レイハイストの近くの山奥に一人で暮らしていた。年に一度、隠れてお墓に祈りを捧げ、レイハイストの未来を見守るようにずっと」
シリスの母親がレイハイストの王女、フィリアだったこと。隠れてお墓に祈っていたこと。そして、シリスに度々言っていた「愛する人や、仲間達が護ったこの地を、レイハイストを私は愛している」というフィリアの言葉はミリアから教えてもらっていた。
その他にも、フィリアと会ったことがないミリアに、シリスは母のことをたくさん話したらしい。それを聞いて、ノヴァもフィリアがどんな人間かは分かっていた。
「だが、ノヴァ。シリスが三百年前に産まれたとしたら、そんなに長く生きることは……」
アイリスがノヴァに問いかける。その疑問は当然だった。普通の人間は三百年も生きることはできない。
「不思議じゃありませんよ、フィリアはエルフだったんです」
再び驚く周囲の人間を余所に、ノヴァは続けた。
「結婚した男の人のことは分かりませんけど、多分、エルフじゃなかったんだと思います。シリスの耳はとがっていませんから、だから、シリスは普通の人間とエルフのハーフなんです」
「成程……それで、あれだけの強大な魔術を」
「ええ、精霊に近いエルフは強大な魔力を持つと言われています。わたしもエルフを見たのはシリスが初めてですけど、すごいですよね」
頷くアイリスにノヴァは笑った。だが、そのことで気付くこともある。
それだけの強い魔力を持っていながら、フィリアは何の抵抗もせずレイハイスト城を去った。そして、おそらく身ごもっていたことを知りながら、当時の大臣や貴族達はフィリアを追い出した。
「……私はずっと苦しんでいた。先祖の犯した罪を知ってからずっと。そして、罪を悔いたいと……いいや、見苦しくも解放されたいと願ったのだ」
「だから、シリスが現われた時、何も言えなかった」
「そうだ……ビエルが王の座を狙っていることは知っていた。フィリアの娘であるシリスの力を使って王の座を奪う。フィリアを追い出し王を奪った我が一族には受けるべき当然の報いだ」
ノヴァは黙って視線を僅かに落とした。優し過ぎる……ううん、これは弱さだろう。王がビエルを止め、シリスに直接頭を下げ謝れば、こんな大きな問題にはならなかったはずだ。
確かに、シリスは操られていたし、人に被害が出ていたかもしれない。それでも、王として何かを言うべきだったと、ノヴァは思う。
「……これから、どうするんですか?」
「全てを元に戻す……シリスへと玉座を返還する」
「っ!? 陛下、それはっ!」
今まで黙っていた大臣や兵士達から声が上がった。だが、レイハイスト王はゆっくりと首を振り、言葉を続ける。
「いや、これはシリスが来た時から決めていたこと。私の王としての最期の責任だ」
「う~ん、でも、シリスの意思もちゃんと聞いてください。シリスは王になりたいなんて思わないかも知れませんし」
「だが……」
「ビエルに何も言わなかったのも、シリスを王にするのも、王様の我儘ですよ。王様は自分のことじゃなく、周りのことを考えなくちゃ」
「…………」
ノヴァの言葉に目を見開き……王は苦笑して頷いた。
「そうだ……そうだな、ノヴァの言うとおりだ」
「そうですよー、ってことでとりあえずビエルの処遇やこの後のことは任せますね」
ノヴァはそう言うと、シリスへと歩き出した。
「とりあえずお腹も空いたし、シリスをベッドに休ませたらご飯食べないと」
「ふふ、そうだね」
寝ていたシリスをお姫様抱っこすると、肩にミリアも乗って笑った。
「……ありがとう、ノヴァ。シリスを助けてくれて」
「どういたしまして。さ、行こうか」
月に見守られながら、ノヴァは壊れた王の間をシリスを抱っこしたまま歩いて行く。
後にレイハイストの一日革命と記される事件は、こうして終わったのだった。




