再挑戦(リベンジ)はその日のうちに(12)
暗い王の間、本来なら魔力が込められた水晶に明かりを灯すのだろうが、誰もが呆然として動く事ができず……
「灯火よ」
さすが以前に魔術王国と呼ばれていただけあって、魔術師はいなくても高度な魔術道具はあるんだなぁとぼんやり思いつつ、ノヴァは光球の顕わし天井へと浮かべた。王の間の全てを照らすことはできないが、暗い部屋のただ一つの光源は思った以上に明るく感じさせる。
「――シリスッ!」
崩れ去った王の間で、壊れた壁や天井だけがぱらぱらと破壊の余韻を残す中、ミリアの声が響きノヴァに近づいて来る。
「ミリア」
ノヴァが呼びかけると、ミリアは心配そうにシリスを見上げながら矢継ぎ早に聞いた。
「大丈夫!? 大丈夫なのシリスは!?」
ノヴァはミリアを安心させるように微笑み、ゆっくりとシリスを床に寝かせる。
「大丈夫だよ。今は気を失っているだけ」
「気を失って……でも、それじゃあ……」
「大丈夫」
床に寝かせたシリスの頬を優しく触り、次にミリアの頭を撫で、ノヴァは立ち上がった。
「あ……ああ……シ、シリス……シリスッ……な、何をしている! 起きて戦えっ! このガキを殺せっ!!」
ビエルは身体も声も震わせて声を上げるが、その言葉にシリスが応えることはなく。
「な、なんでだっ!? 気を失っても動くはずではっ……!?」
「ほんとに気持ち悪い傀儡道具だよね……もう命じないでくれる? シリスの身体は動こうとするだろうから」
「だ、だったら、何故動かないっ!」
「動かないんじゃなくて、動けないの。全力を使わせて、体力も魔力も尽きたから」
「……は……?」
まだ理解できていないのだろう、口をぱくぱくさせるビエルへとノヴァはゆっくり歩みを進め……
ボスッ!!
「おぐっ!?」
ビエルの鳩尾に拳を打ち込んだ。
苦痛に顔をゆがめ、膝を落とし両手を床に付けながらビエルはゲェッと吐き出した。
何度も何度も吐き出し……そして、小さな指輪が落ち転がっていき、ノヴァの足元で止まる。
「…………」
――ガキッ
ノヴァは無言で指輪を踏み潰して破壊し、そして、シリスに近づくと、その指から指輪を外し、握り締めて破壊した。
「これで、全部終わり」
「ノヴァ……」
「……じゃ、なかった。全部終わってないや」
「ふぇ?」
ミリアの可愛い声に微笑み頭を撫で、ノヴァはレイハイスト王へと身体を向けた。
アイリスの横の玉座に座っている王。これだけの戦いがあったのに、動きもせず、声も出さす……それは、シリスと最初に戦った時から不自然に何も話さなかった。まるで、話す資格はないと思っているように……
「レイハイスト王様」
ノヴァは呼びかけ、玉座の前にある五段ほどの階段から少し離れた場所で立ち止まる。
「無礼はお許しください。王の間もボロボロになっちゃいましたけど、少しお話させてもらっていいですか?」
かしずくこともなく話を続けるノヴァを誰も不敬だと咎める者はなく。
「ノヴァ、お前は何を……」
唯一、声をかけたアイリスにノヴァは微笑み、そして、話を続けた。
「ずっと不思議だったんです。きっと周りの人だって思っていたはず、ビエルが勝手をしているのに、何故、王様は何も言わないのかって」
少しだけ、周囲の人達の空気が揺れた。ノヴァの言うとおり、それは誰もが感じていた疑問だったのだろう。
「魔女……シリスが怖かったわけじゃないですよね。でも、シリスがいたから何も言えなかった」
「……ノヴァといったか」
その時、初めてレイハイスト王が口を開いた。
「お前は全てを知ったのだな」
「全てかどうかは分かりませんけど、シリスが何者なのかは知っています」
「そうか……」
王は目を伏せ、重く頷いた。
ノヴァは話そうとして、でも、少しだけ間を空けた。実をいうと、こういうのは得意じゃない。『こういう』というのは、例えば、名探偵が最期に謎解きするような、そんな場面。自分に名探偵役は似合わないし、ここまで大立ち回りしといて何だけど、注目されたり、主役扱いされるのはあんまり好きじゃない。
だが、今の状況ではノヴァが話さないと先が進まないし、王に話をさせるのは少し酷なようにも思える。注目されていることを意識しながら、ノヴァは少しだけふっと息を吐いた。
「シリスの家名はレイハイスト……シリス・レイハイスト。魔術王国レイハイストの最期の王女、レイハイストの魔女、フィリア・レイハイストの娘です」
ノヴァの言葉に、周囲の人間全てが驚き息を呑んだ。
「三百年前、戦乱が終わったあの時、フィリア・レイハイストは亡くなったと伝えられてきましたが、本当は亡くなっていませんでした。この後は、わたしの予想になるんですけど、共に戦った魔術師の人と恋に落ち、でも、その人は戦争で亡くなってしまい、身ごもっていたフィリアは生き残って戦争が終わってからレイハイストを去ってシリスを産んだんだと思います」
「……いいや、我が祖先がフィリアを去らせたのだ」
レイハイスト王は目を閉じ、重く口を開く。




