再挑戦(リベンジ)はその日のうちに(10)
「……っ……はぁはぁはぁ……っ!」
相手が生きている以上、心に生まれる殺意の衝動。
シリスは奥歯を噛みしめ左手を振りぬき、すぐに魔術を解き放った。
「旋風逆巻く風神よ!」
ゴォオオオオオオッ!!
押しつぶすような衝撃波と無数の風の刃が小さな少女に襲い掛かる。
シリスの魔術の完成は他の術師と比べて格段に速い。同じタイミングで呪文を唱えていてもシリスの魔術には追いつけないし、術の発動と同時に逃げていても間違いなく間に合わないだろう。
そう、間に合うはずがない――人間の速度であれば。
「風よ」
風が逆巻く中、シリスがノヴァの囁きが聞こえたのは奇跡に近かった。いや、実際は口の動きでそう聞こえた気がしただけかもしれない。
衝撃波が押しつぶし、風の刃が一斉に囲む瞬間……刹那といえるその一瞬で、ノヴァの姿は掻き消えた。
「――――っ!?」
シリスが絶句する中、魔術は床を抉りまた強大なクレーターを作って弾け飛んだ。
バンッと王の間のいたるところが風で弾け城を揺らす中、壁に爪で引っかいたような大きな傷をつくりながら、ほどなくしてかまいたちは治まる。
「はぁはぁ……はぁ……はぁ…………っ!」
最高位の強大な魔術を連発し、シリスは荒い息を吐きながらノヴァの姿を探した。
「――さっすが」
「っ!」
声のほうへはっと振り向く。
「やっぱり、すごいよ! 最高位の魔術を連続で、しかも詠唱速度も落ちなくて、強くて! もっともっとやろう、シリス!」
ノヴァは呼吸を整えてふっと息を吐くと、シリスに向かって微笑んだ。
「はぁ……はぁはぁ…………っ!」
信じられないような思いで、シリスはノヴァを見つめた。
やれるはずがなかった。普通の魔術師であれば、絶対にやろうとしないだろうし、思いつきもしないだろう――風の魔術を全身に纏わせ、力を制御して自分の動きを早めるなどということは。
そんなシリスの考えが分かったのか、ノヴァはもう一度にっこり笑い、
「やっぱり、シリスには分かっちゃうかぁ。へへ、できるもんだね、わたしも初めてやったんだけど」
ノヴァは種明かしするように続けた。
「受け流すのもいいけど、ちょっと大変だからね。だから、避けるようにした。受け流すよりかは、術の制御が楽だし。難点なのは面白くないことかなぁ、やっぱりバチバチにやりあいたいよね、戦う時は」
「っ…………くっ……」
シリスは呻くと膝に力を入れた。魔力を込めすぎたせいで消耗が激しかった。支えようと踏ん張っても、まだ身体が揺れてしまう。
その様子を見たビエルが、あらんかぎりの声で叫んだ。
「シリス、殺せ! 何をやっている! 命令だ、殺せぇ!!」
「っ!」
シリスの身体が震える。
「…………」
ノヴァは横目でビエルに目を向け、すぐに視線をシリスに戻した。
「……っ……っ…………!!」
苦しそうに息を詰まらせながら、シリスの魔力は高まっていった。震えながら左手を上げ、ノヴァに向ける。
ノヴァはその様子を黙ってみていた。
(ごめんね)
心で謝って悲しい感情を目に宿し……だが、すぐに射抜くように爛と灯った輝きで瞳を光らせ。
「――――」
ノヴァはゆっくり息を吸い――そして、シリスの肺腑を貫くように叫んだ。
「来いシリス!」
「……っ!」
「殺すつもりで、力の全てをわたしにぶつけてみろっ!!」




