再挑戦(リベンジ)はその日のうちに(9)
「――へへ♪」
シリスの様子を見て、ノヴァは笑った。楽しくて仕方がない、こんなに楽しいのは初めてかもしれなかった。
シリスの魔力は留まることなく膨れ上がっていく。魔力を感じられる者がいたなら、その重圧だけで押しつぶされていただろう。空気が振動し、チリチリとした圧迫感が全身を包み込む。
シリスを見つめながら、ノヴァはふぅっと息を大きく吐いた。その後は静かに、静かに息を吐いていく。集中を高める――もっと深く、静かに、鋭く。
(まだまだ、もっともっと――)
深く、深く……音が聞こえなくなる。目で見るだけじゃなく、全身で感じる、でも身体は柔らかく力を抜いて……
「煉獄縛りし火炎の神よ!」
最高位の炎の魔術。シリスの呪文と共に床から無数の炎の柱が渦巻き、ノヴァの周囲を包んだかと思うと一気に収縮し――
ゴォガァァアアアアアアアッッッ!!!
光が溢れた瞬間、大爆発を起こした。地震のように城が揺れ、炎が混じった風が爆裂する。
「ぁあああぁああああっ!?」
炎が渦巻く中、ビエルや隅に逃げたゴロツキ達は悲鳴を上げながら床へと伏せた。
―――ゴォォォォ
「…………はぁ……はぁはぁ…………」
左手を上げたまま、シリスは息を切らしノヴァのいた場所を見つめていた。
床を大きく抉り、埃と黒煙を舞い上がらせながらガラガラと壁のいたるところを崩し……そして、やっと爆発が治まっていく。城の揺れと爆風が治まったところで、周りにいた大臣やゴロツキ達はゆっくりと起き上がり辺りを見渡した。
熱風と煙が立ちこめる中、ビエルやゴロツキ達だけではない、それは騎士団も……信じたくなくとも誰もがこれで全てが終ったと感じていた。これでは、ノヴァは跡形もなく消えていると。
「……はは……はははは……ははははははっっ!!」
壊れた人形のようにがくがくと震えながら、ビエルが笑い声をあげた。ノヴァが死んだことを確信した笑い。
だが、その瞬間――
――ヒュオウ――
煙と黒煙を切り裂き、一陣の風が舞った。
「――っ!」
誰もが息を飲んでその人物を見つめる。
視界が晴れ、その風の中心にいたのは……ところどころ煤け、服が焦げているノヴァだった。驚愕の視線を向けられる中、ノヴァはふっと息を吐くと何事もなかったように口を開く。
「さすが、シリス。魔術を受け流せないように、四方を囲んで消すつもりだったんだろうけど……受け流せないのなら避ければいい。魔力の中心を避ければ、わたしの力でも防げないことはないしね」
にっこり笑うノヴァに、シリスが続けて呪文を唱え始めた。
防がれることも避けられることも予想していたわけではないだろう。シリスにあるのは、ビエルに命令されたノヴァを消すという意思だけだった。存在しているのであれば、魔術をぶつけ続けるだけという単純で明確な殺意。
殺意が力となり、呪文が再び完成する。
「凍れる白き氷神よ!」
シリスの声と共に、ノヴァを中心に一瞬で広範囲に床が凍りついた。その瞬間、無数の氷の槍が下から突き出し、同時に天井からも氷槍が降り注ぐ。
ギキィィンッ!!
透き通った音が響き、氷槍の雨が殺意の協奏曲を奏でた。
氷の針山に滞ることなく降り注ぐ氷槍に、充満していた熱風が霧のような冷たく白い空気に変わっていき……やがて、キンッと最後の音を奏で氷槍の雨は降り止んだ。
「はぁはぁはぁっ……んっ……はぁはぁはぁはぁ…………っ」
息をつき、シリスは左手を下ろす。避けられないようにした、発動の早い広範囲の最高位の強力な魔術。これで終ったはず……もう終ってほしい。
「はぁはぁはぁ……っ」
殺意の衝動に抗えず、力の暴走するまま解き放った魔術……もうこれ以上は使いたくなかった。
だが、シリスの心の奥の声に反して、その少女の嬉しそうな声は静かな王の間に響いた。
「――あははっ、すごいすごいすごいっ!」
「っ!!」
シリスが顔を上げ、声の方へと向く。
「炎だけじゃなく氷の魔術まで、やっぱりシリスはすごいっ! もっともっとやろうよ!」
「っっ! はぁはぁ……んっ……はぁはぁはぁ…………」
「全力でいいよ。大丈夫――シリスの全部を受け止めるから」
身体が触れ、視界も霞む……それでも目を向ける。氷槍の山となっている箇所から離れた場所、そこにノヴァは立っていた。
誰もがノヴァの動きに目を疑った。人間の反射速度ではどう動いたとしても、今立っているノヴァの位置まではいけないからだ。




