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女王は拳で語る ― The Queen Speaks with Her Fists ―  作者: 十月さくら
閃光の女王と翡翠の白き魔女
22/45

再挑戦(リベンジ)はその日のうちに(8)


「さて」


 何事もなかったようにノヴァは歩き、シリスに近づいていく。

 騎士団以外の人間が呆然とする中、ノヴァの声は静かに、鋭く王の間に響いた。


「じゃあ、やろっか、シリス」

「こ、殺せっ! 今度は全力で殺せ、シリスッ! あいつを殺せ、殺すんだっ!!」


 ビエルの言葉にシリスの身体が僅かに震え、白い装束と翡翠の髪が風にそよぐように揺れ始める。

 肌がひりひりするほどに魔力が爆発的に高まっていく。ビエルの狂乱ともいえる殺意の衝動が、操られているシリスにも伝わっているのか。最初に戦った時とは比べ物にならないほどの魔力。


「……ノヴァ」


 肩に乗ったミリアの不安な声に、ノヴァは微笑んだ。


「『絶対、大丈夫だよ』。言ったでしょ、必ずシリスは助けるから」

「でも……」

「わたしは自分を信じてる。ミリアも信じてくれると嬉しいな」

「……うん、分かった。あたしもノヴァを信じる」

「うん、いい子♪ じゃあ、今からは危ないから部屋の端にいてね」

「うん、頑張って、ノヴァ!」


 子猫はノヴァの肩から降り、走っていった。

 それを待っていたのかもしれない――シリスの魔術は完成した。


「……猛き炎の不死鳥よ(フォル・サラマンダー)」


 鈴のようなシリスの囁き、その瞬間白き閃光が全てを包む。『炎の精霊よ(サラマンダー)』よりも更に上の高位魔術。


「烈風よ(シルフィーネ)」


 ノヴァの左腕に風が纏われる。小さな小さな風の魔術。これではシリスの炎の魔術を防ぐことなどできるはずがない。

 轟音が響き熱風が渦巻く中、全てを飲み込むような魔力の奔流、巨大な炎の鳥がノヴァを包み込もうとした――その瞬間、


 ゴォッ!!


 激しい音と共に、炎が渦を巻きながら後ろへと弾き飛ばされた。炎の翼を散らしながら壁を破壊し、新たな大きな穴を作り不死鳥は夕方の空に溶け消える。

 ノヴァは、破壊の爆風に髪をなびかせながら左手をゆっくりと下ろすと、にっと笑った。


「ったた、あ~、まだちょっと手が痺れるかな……でも、うんうん、慣れて来てる慣れて来てる」


 手をぶんぶんと振り拳を握る。ガラガラと壁が崩れる音を後ろで響き……夜が近づくにつれ、冷たい風が流れてくる。炎の魔術で熱くなった部屋、焼けた服、ヒリヒリする肌が風に冷やされ心地いい。

 ふと、屋根が壊れて部屋が潰れないかと心配になる。これで大きな穴は三つ。


(……弾くのはちょっと止めたほうがいいかも)


 ノヴァは内で呟き、シリスを見つめた。


「…………」


 シリスの顔に表情が生まれる。目を見開いた、驚きの表情が。


「ふふ、やっと表情を見せてくれたね」

「……っ」

「まさか、受け流されて弾かれるとは思っていなかったんでしょ? こんなに力を込めた強大な魔術はシリス自身も今まで使ったことがないだろうし……こんな人を一瞬で消せるような魔術は」

「…………」


 驚愕の表情から無表情に戻るシリスに、ノヴァは左足を前に右足を後ろにし、すっと左手を軽く上げた。限りなく自然体に近い構え。


「楽しいね、シリス、もっとやろうよ。でも、もっともっと全力でやらないと、わたしは倒せないよ」


 その言葉に、シリスの瞳が一瞬だけ揺れた。だが、それはノヴァを恐れての動揺ではなかった。これ以上、人を簡単に消せるような強大な魔術を使いたくないという心が、シリスに動揺と躊躇いを起こしていた。

 だが、その動揺を許すことなく、ビエルは絶叫するように命じた。


「な、なにをやっているシリスッッ! 『殺せ』!」


 ビエルの一言にビクッと身体を震わせ、シリスの瞳から光が無くなる。ビエルの恐怖と焦燥が伝わり、強力な殺人衝動がシリスの魔力を引き上げていく。


「はーい、皆さん! 怪我をしたくなかったら端に寄ってくださーい!」


 ノヴァは大声を上げ、アイリスへと顔を向けた。


「アイリスさん! 王様をお願いします!」

「ああ、分かった!」


 走り出すアイリスを確認して、一先ずはこれで大丈夫かなと笑い、そして、再びシリスへと視線を向けた。

 揺れる白い服、ゆらゆらと翡翠の髪が浮かび、重たい空気が王の間を満たしていく。魔力の圧、大臣やゴロツキの男達は怯え悲鳴を上げていた。


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