再挑戦(リベンジ)はその日のうちに(5)
アイリス・ハーヴァンとフロナ・レイフィン。二人は幼馴染みであり、親友でもあり、レイハイスト王立学園の学友でもあり、そして、この国の為、国民の為に共に戦ってきた戦友でもあった。
王立学園を主席で卒業した時、恩師から「貴女達二人なら、帝国の王宮に勤めることもできる」と言われたが、アイリスとフロナは愛するレイハイストで国に尽くすことを決めた。
あれから五年、アイリスは騎士団長となり、フロナは法官となった。若き天才二人の出世に、摩擦や衝突、悪意や中傷、策動や妨害は当然あった。だが、その全てを二人で乗り越えて来たのだ。そして、これからも乗り越えられると信じていた。
だが……たった一人の絶対的な力が現われただけで、道は閉ざされてしまった。
「……何を考えているんですか、アイリス」
二人まとめて入れられた牢屋の中。目の前に座っているフロナに聞かれ、アイリスは立ったまま腕を組み壁に寄りかかり、無意識に閉じていた瞼を開いた。
「いや……今までのことを思い出していた」
「今までのこと、ですか?」
「ああ、今まで苦しいことは数え切れないほどあった。だが、その全てをお前と二人で乗り越えて来た」
「……そうですね」
「だから、今度も乗り越えなければならない……剣と法が通じない相手だとしても、あらがい続けなければならない」
「あの子のようにですか?」
「ああ、そうだ。お前も見ただろう、フロナ。あいつは強い相手と戦って楽しいって笑っていた。だったら、私達もそれくらいにならなきゃいけないだろう」
「アイリスは……あの子、ノヴァがまだ生きてると思っているんですね」
「フロナ、お前もそうじゃないのか」
「ふふ、そうですね……本当に不思議な女の子です」
フロナは立ち上がるとにこと微笑み、胸に当てた拳をきゅっと握った。
「アイリスの言う通りです。諦めてはいけませんね、ノヴァよりも大人の私達が」
「ああ、そうだ。ノヴァに負けてはいられない」
「……なんだぁ、シケた顔を拝みに来てやったのに、案外元気そうだなぁ、おい」
牢の外から聞こえた男の声……聞き覚えのあるその声にアイリスは眉をひそめ、寄りかかっていた壁から離れ、フロナに自分の後ろへ行くように視線で伝えた。
「……どうしてここに来た」
「決まってんだろうがっ!」
顔を近づけ、ガンッと鉄格子を握り締めた……無くなった親指に包帯を巻いた右腕で。
王の間で親指を切り落としたゴロツキの頭のような男、そして、その後ろには兵士の格好をした男達六人。
「ああ、まだズキズキ痛みやがる……この親指の借りを返しに来たんだよっ!」
「律儀なものだな。借りを返すようには奴には見えないが」
「ふざけんじゃねえっ! くそアマがっ!」
ガンガンッと左手で鉄格子を叩き、男は尚も顔を近づけ……そして、ニヤリと笑った。
「武器もない、逃げ場もないでどうするつもりだ、ええ? 後ろの女には手を出すなってビエルの野郎から言われてるからな……だが、お前は別だ、アイリス。俺が味わった後は、後ろの連中にも味合わせてやる。汚い牢の中で騎士団長様がどこまで耐えられるか見物だ、へへっ」
「……名前を呼ばれて、こんなに不快になったのは初めてだ」
「っ! いい度胸だっ! おらっ、早く牢を開けろ! この女を押さえつけて、裸に引ん剥けっ!」
その時だった。
「――団長っ!!」
牢の入り口から声が上がり、男達は顔を向ける。
駆けて来る騎士団の三人――そして、
「……ぁ……あいつは」
男達の一人が声を震わせた。
「ぁあ?」
頭の男も顔を向ける。立ち止まる三人の女騎士の後ろ、そこには子猫を肩に乗せた小さな少女が一人。
「お前達……それに……」
「団長……良かった、間に合った」
剣の柄に手をかけたままフィルは笑い、そして、男達へと視線を鋭くする。
「すぐに助けますね、団長」
「ちっ……牢番は何してやがる、あっさり通しやがって」
頭の男は苛立ちながら牢から離れ、フィル達を睨み付けた。




