再挑戦(リベンジ)はその日のうちに(3)
――ミリアの話を聞き終わって、ノヴァは「なるほど」と深く頷いた。
「ビエルがなんでシリスのことを知っていて、あたし達の家も知っていたのかは分からないの……」
「そうだよね、誰も知らないはずなのに、シリスの存在をどこで知ったのか」
もちろん何かしらの偶然が重なることはある。だけど、傀儡の指輪を持ったビエルがシリスに会いに来た……それは偶然では有り得ない。
とはいえ、
(これ以上、ビエルのことを考えても答えはでないよね)
それは後で聞いてもいいだろう、とっちめた後にでも。
「それで、指輪はどうやって付けられたの?」
「それは……あたしの責任なの」
ミリアは俯き、握ったミルクの瓶を両手でぎゅっと握ると、ぽつりぽつりと話し始めた。
「『自分と共に来てくれ』って頼んでくるビエルをシリスは何度も断って……それで、力尽くで連れて行こうとしたから、シリスは思わず魔術を使って追い払って」
「え、魔術を使ってって……わたしが体験したあれくらいの魔術?」
「ううん、あれよりも弱かったけど、周囲の木が倒れるくらいの魔術を使って……」
「なるほど」
弱いと言ってもシリスの魔術。木が倒れるくらいなら、まともに人が受けていたら大怪我では済まなかっただろう。だけど、それでビエルが大怪我しなかったのはシリスやミリアにとっては不運でしかなかった。
「あれでビエルが諦めてくれたら良かったんだけど……一ヶ月くらい来なかったからあたしもシリスも油断していたんだ。ビエルは男達と急に現われて、猫の姿のあたしを人質にして……」
「……それで、指輪をはめるように言った」
「……うん」
「なるほど」
ノヴァはふっと息を付いて、背もたれに身体を預けた。普段、怒りを持つことなんて滅多にないが……ノヴァは怒りにぎゅっと拳を握る。
「あの指輪って、どういうものかは知ってる?」
「うん……指輪のもう一つはビエルが持っていて、それでシリスに命令できるみたい。自慢げに周りに話してた」
「でも、ビエルが指輪をはめてるのなら、ビエルを気絶させて外したらそれで終わりだよね」
「ううん、ビエルはそれを怖がって、指輪を飲み込んじゃったから」
「はぁ? 飲み込んだって、食べたってこと?」
「うん」
「あー……でも、指輪を飲んだのなら、トイレで出て来ない?」
「ノヴァ、女の子がそんなこと言っちゃ駄目!」
「いやでも、普通、そう思わない?」
「そうだけど……ビエルはそんなこと言ってなかった。多分、まだお腹の中にあると思う」
「あー……じゃあ、シリスの指輪を外すしかないかぁ」
「それも駄目なの……あの指輪は付けた者しか外せないの」
「うわぁ、めんどくさい……いやまあ、確かに他の人にすぐに外されたら意味がないんだろうけど」
……実を言うと、シリスをすぐに解放できる方法はある。指輪がある指を無くせばいい。
だけど、それは絶対にしたくない。絶対に。
「シリスを気絶させても魔術を放って来る。だったら、ビエルをって思うけど、ビエルは自分を守れってシリスに命令するはず」
「……どうするの、ノヴァ」
「んー……もう一つ聞いてもいい? シリスはビエルに変なことされなかった?」
「そんなことさせない! あたしは防御魔術が使えるから、誰にもシリスを触らせなかった! ビエルに捕まったのだって油断していただけだから!」
護身用としてシリスがミリアに教えていたのだろう。そして、ミリアがシリスの使い魔なら、人が触れないくらいの障壁が作れても不思議じゃなかった。
そして、ビエルも恐れていたのかもしれない。シリスの魔術の威力を知っているのなら尚更。
「そっか、ありがとう、ミリア」
ノヴァは微笑んでミリアを優しく撫でた。
本当は……もし、ビエルがシリスに変なことをしたのなら、指輪もろとも消してもいいかな、とか思ったりもしたのだが。そして、それが一番簡単で楽な方法なのも分かっている。
「まあ、難しくても、わたしの目指す二人なら、一番のハッピーエンドの道を選ぶよね」
「……ノヴァ?」
「安心して、ミリア。何とかしてみせるから」
「でも……本当に、何とかできるの?」
「わたしの大好きな大好きな二人の女の子が言ってたの。『信じる心が力になる』、そして、『絶対、大丈夫だよ!』」
不安げに見つめてくるミリアに、ノヴァはにっと笑った。
「魔法の言葉、だから、絶対大丈夫! わたしはその女の子のこと信じてるし大好きだから、その言葉を嘘にしちゃいけないって思うんだ。嘘だなんて言われないために、絶対に実現させなきゃ!」
「ノヴァ……」
ミリアは不安げな瞳をなくすと、ノヴァを見つめて微笑んだ。
「うん……あたしもノヴァを信じる! だから……だから、お願いノヴァ! シリスを助けて!」
「まっかせといて! さあ、すぐに再挑戦に行くよ!」
「ええ!? 今すぐに!?」
「もっちろん、さあ、準備して!」
驚くミリアにノヴァは立ち上がった。
選んだ道が難しくても、その先に目指すものがあると信じて――実現させることを誓って。




